少女
今回、かなり短いです。
「ふんふふ~ん♪」
暖かい風の吹く草原。そこに幼い少女の鼻歌が聞こえてくる。
その綺麗な藍色の髪を風になびかせ、スキップしながら楽しそうな表情を浮かべる彼女には、年相応の無邪気さを感じる。
「今日はっ♪師匠のっ♪誕生日っ♪」
…………どうやら、お使いの最中らしい。手に握りしめた可愛らしいカバンと、その鼻歌から簡単に推測できる。
彼女の『師匠』にあたる人物の誕生日なのだろう。
『なんとも可愛らしいものだ。』
彼女のそんな様子だけならば、彼女を見た人間は老若男女誰であれ、こう思うだろう。
その様子だけ、ならば。
「グルゥゥゥゥゥゥゥ…………!!」
突然、背の高い草から現れた巨大な影が少女の前に立ち塞がった。
影の正体は、狼型の大型の魔獣だった。幼い少女が一人で歩いているのを見て、絶好の獲物だと思ったのだろう。魔獣の口元からは大量の涎が漏れだしている。
「………………」
それに対し、少女は無言。
状況は追い詰められた兎と獅子のようなものなのに、少女の碧の瞳には動揺も焦りも浮かんでいない。
ただひたすらに、無言で魔獣の目を見つめている。
この時、魔獣が感じていたのは恐怖。
魔獣は気付いていた。目の前にいるのは人間の娘ではない。その皮を被った何かなのだと。
「グルゥゥゥ………………ガァァァァァッ!!」
それでも、余程飢えていたのだろう。魔獣の胸中には確かな不信感があったが、遂にこらえきれず、魔獣は少女に飛びかかった。
大きく開かれた口から見える牙が少女に襲いかかった。
この光景を傍観している者がいるなら、最悪の光景が目に浮かぶだろう。
だがーーーーーーーーーーー
「…………クスッ♪」
ーーーーー兎だったのは、魔獣の方だった様だ。
魔獣の牙が少女に届こうとしたその時、謎の凄まじい衝撃が魔獣を襲った。
魔獣は自分の身に何が起こったのか分からなかった。ただ感じたのは、生暖かい、何かの液体が自らの頬に飛び散った事だけだった。
数秒後、魔獣はようやく先程飛び散った液体が自らの血である事を理解した。
そして、今自分が空を飛んでいる事も、否、吹き飛ばされている事も。
魔獣にとっては理解し難い現象だが、起こった事は至極単純。
魔獣が飛びかかった瞬間、少女の目の前の空間が爆発したのだ。
ーーーー少女が爆発させたのだ。その身に宿る、ルクスの力で。
「……………弱い、なぁ。」
少女は呟いた。
先程と同じように、可愛らしい声で。
やがて、ドチャッという音と共に吹き飛ばされた魔獣が地面に叩きつけられた。
息は…………もう、していなかった。
「…………はぁ………つまんない。」
まるで、もらった玩具に飽きてしまったかの様に、少女は呟き、何気なく辺りに視線を巡らせた。
そして、気付く。草原のある地点に、倒れた人間がいるのを。
「………………あれ?もしかして……………人間?でも、この力は………?………………へぇ♪面白そうっ!!」
………………………どうやら、新しい玩具が見つかった様である。
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