死の理由
短い…………かな?
「……………で、これからどうするんだ?」
遺跡の地下から出て、しばらく空を眺めた後、俺はこれからどうするべきかウィルディに聞いた。
『そうですね…………私の記憶が正しければ、ここから東に5キロ進むと街があった筈です。』
「…………さっきも言ってたな。『記憶が正しければ』って。そんなに頼りないのか?お前の記憶。」
『……主様、さらっと酷い事言うんですね………仕方ないですよ。だって、私が外に出るのも七万年ぶりぐらいです「ちょっと待て」…………喋ってる途中なのに…………』
七万?とんでもない数字だ。その間ずっとこいつはあそこに居た、ということか?あの棺桶の中でずっと?
「………七万年もあそこに居たのなら仕方無い、か。悪かったな、馬鹿にして。」
『………………………ます』
「?何か言ったか?」
『い、いえ!何でも………ありません………』
…………?まぁ、いいか。
言いたくない事なんて誰にでもある。きっと、それは剣でも同じなんだろう。
そう考えた俺は、言求するのを止めておく事にした。
「………で、結局どうするべきか………まぁ、とにかくお前の言った方向に歩いてみるか。」
遺跡の周りには広大な草原が広がっている。
歩いて移動するのにあたって、注意すべき点は特に無いだろう。
『油断しちゃ駄目ですよ。草原の様な見晴らしのいい地形でも魔獣は出没します。』
「ああ、気を付けよう」
忠告するウィルディを適当に宥め、俺は先の見えない道に歩を進め始めた。
『そういえば、主様』
「どうした?」
歩き初めて十五分程たっただろうか。
さっきまで無言だったウィルディが急に疑問の声を洩らした。
『主様は、どうして前の世界でお亡くなりになったのですか?』
…………どうでもいいが、普通じゃあり得ないな。この質問………………。
「……………世界主からは何も聞いていないのか?俺の死について」
『いえ…………それが、聞いてみたんですけど、結局教えてくれなかったんですよ。』
そう…………なのか。やはり、と言うべきなのか?
「それがな……………俺自身も、知らないんだ。」
『えっ……………!?知らないんですか?』
「ああ」
思えば、前世に未練をあまり感じないのは、このせいなのか……………?
世界主に聞く間もなくこの世界に来てしまったから結局分からずじまいのままだ。
『うーん……………おかしいですね………』
「おかしい、のか?」
「はい。人間というものは、自分の死ぬ瞬間が一番記憶に残る筈なんです。かなり特殊な事例でもない限り…………」
「…………そうなのか………その特殊な事例、というのは?」
もう過去の事とはいえ、やはり自分の死因は知っておきたい。
俺はウィルディに詳しい説明を頼むことにした。
『えっとですね…………二つあるんですが、まず、自らの理解が追い付かずに命を落とした場合です。でも、その場合は魂となった瞬間に第三者の視点からとして見えてくる筈なんです。だからまず、これはあり得ません。』
「成る程………もう一つは?」
『それはーーーーーーーーーー』
「よう、こんな所を一人で歩いてると危ないぜ?」
「ーーーっ!?」
後ろから突然聞こえた声に驚き、後ろを振り向く。
そこにいたのは、身長が二メートル程ある三十代程の肌が浅黒い男だった。
気付けなかった。
俺にも、先程危険を察知出来たコイツにも、だ。
「おおっと、そんなに身構えないでくれ。別に怪しい者じゃない。」
「………逆に疑わないとでも?お前………何者だ?」
自分から怪しくない、なんて言うやつ程自分自身に落ち度があることを理解している筈だ。
疑わない筈がない。
「まぁ、そうだわな、俺でもそう思うわ。しゃーない、じゃあーーーーー」
『ーーーッ!!避けてッ!!主様ッ!!』
「グッ!!」
「単刀直入に………死んでもらうかぁッ!!!!」
ズドオオォォォォォォッ!!!!!
ウィルディの警告もあってか、突然の男の降り下ろされた拳を避ける事が出来た。
しかし、滅茶苦茶だ。奴の拳は一瞬前に俺がいた地面にクレーターを作り出している。ウィルディがいなければ俺の体はバラバラになっていただろう。
この、とてつもない衝撃がそれを証明している。
「へぇ、今のを避けるのか。結構全力だったんだがなぁ?」
「お前…………本当に何者だ?」
再び、俺は目の前の男に問いかけた。
「今から死ぬ奴に言う事はねぇなあっ!!」
『主様ッ!!来ますよっ!』
「ああ、分かってる!!」
この世界の人間は見ず知らずの人間に襲いかかるのかッ!?
そんな疑問を抱きながら、俺はウィルディシルトを構え、目の前の男に対峙した。
ギ、ギリギリだった………………
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