神の創りし器
衝撃的、だった。
今目の前で起こっている全ての要素が。
先程まで俺に襲いかかっていた化け物は這い出てきた地割れすら超えた、20メートル程先の地面に仰向けに倒れている。
そして極め付けは……………………
『やっと…………会えましたね♪主様♪』
この剣と、腕輪、それにこの剣から発せられる声、だ。もう訳が分からない。俺は何時こんなものを手にした?
『何時って、さっきですよ。棺に手を入れてもらった時です。』
「……………今、口に出てたか?」
『いえいえ、出てませんよ。主様の心を読んだだけです♪』
「………………………………とにかく、お前は何なんだ?剣から声が出ているように感じるが? 」
『はい。私の意思はあなたが握っている、その『神創器』の中にあります。』
「これの中………?」
俺は再び手に握られている剣を注視する。
全長1.5メートル程の両刃の剣だ。剣の鍔の部分は狐の頭部を模しており、パカッと大きく開けた口から刃が出ていて、柄頭には狐の尾を模した様なストラップがぶら下がっていた。
『私は…………主様と契約したモノ。七源神創器一ノ源、ウィルディシルト。…………世界主様から何か聞いていませんか?』
「…………そういえば、確かに。だが、世界主は「彼女が教えてくれる」としか言っていなかったぞ?」
『あれ?そうなんですか?おっかしいなー……………ッ!?主様ッ!気を付けてくださいッ!!』
その言葉に驚いた俺は、必然的にさっきの化け物を注視する。いつのまにやら、奴は起き上がり、こちらを睨みながら唸り声をあげている。
俺は剣を腰だめに構え、奴を迎え撃つ準備をする……………………いやまて、何故俺が剣の構え方なんて知っている?剣なんて、今まで触った事すらなかった筈だ。
『主様ッ!』
………今はそんな事を考えている場合ではない、か。
さっきの様に奴がこちらめがけて突っ込んでくる。
……………遅い。さっきは目で追う事すら出来なかったというのに。
今度は奴がギリギリまで近づいて来てから、体を捻り、体当たりを避ける。
ドゴオオォォォォォォ!!
…………避けられた。壁にクレーターが出来上がる程のスピードなのに、何故避けれたんだ?
『先程も申し上げましたが、私は貴方と契約しています。その腕輪が証です。』
「腕輪?」
俺は、右腕にはめられた赤い腕輪を凝視する。
『自慢ではありませんが…………私という器には強大な力が備わっています。私はその腕輪を介して、主様にその力を送り込んでいるのです。』
「成る程。つまり、お前のお陰で、こんな芸当が出来る分けか。」
『えっへん♪』
……………そんな会話をしている内に、向こうは体制をたて直ししたようだ。
奴に警戒していたその時、またしても常軌を逸した現象が起こる。
奴の六つの目が怪しく輝き、奴の周りに蒼い炎が浮かび上がったのだ。
「…………あれは何なんだ?ウィルディ」
『ふぇ?ウィルディ?』
「…………いつまでも『お前』じゃ駄目だろ?」
『は、はい!!えぇと、あっ、あれは『ルクス』です。主様の世界で言う、『魔法』という言葉に酷似していると聞いています。』
……………流石異世界。魔法みたいなものまで存在しているらしい。
『ルクスを止めるにはルクス。本来、別の世界で生まれた主様には、この力は使えませんが、私と契約したことで、私の保有ルクスが使える筈です。』
「……分かった。どうすればいいか教えてくれ。」
『はい。まず、主様にはルクスを扱うことが出来ません。そこで、主様にはイメージを私に送って頂きます。そのイメージを私が形作りますので、主様はそれを放ってください。私の保有ルクスは『鎖操』というものです。イメージするものは鎖系統に限られますが……………』
「大丈夫だ。………奴ももうすぐ攻撃してきそうだ。急がないとな…………」
そう言い、俺はイメージを固め始める。鎖、だったか。今はとにかく奴の攻撃に耐えなければいけない。それなら…………………!
『これは…………凄い!!こんな使い方を!?……… ルクス、形成出来ました。何時でも行けますよ!!』
「よし…………!後は俺が放てばいいんだな。」
そう呟き、俺は一気に奴との間合いを詰めるべく、床を蹴り、突っ込む。………やはり、体が軽い……!
「ギュァァァ!?」
急に攻めに転じた俺に、奴は驚いたような声をあげ、周囲の蒼い炎を一斉に俺に飛ばしてくる。その数、およそ20。
蒼い炎が目前に迫る……………!!
「今だっ………!!」
そう叫び、右腕を突き出し、ルクスとやらを発動させる。
その瞬間、俺の右の掌から大量の鎖が飛び出す。
その鎖は、一本一本がバラバラに動き、飛来する炎を全て打ち消した。
「ギュァァッ!?」
「もう間合いは詰まった。今さら驚いてももう遅いッ!!」
ザシュッッ!
振り抜かれた剣は、正確無比に奴の胸部を深く切り裂いた。
「グギギギギギギャアァァァァァァ!!??」
化け物が断末魔の叫びをあげながら、その場に倒れ伏した。………どうやら、完全に絶命したようだ。
俺は、ウィルディシルトを地面に刺し、自らの右手を見つめる。動くものを斬った感覚…………どこかで、感じたことのある感覚だった。
「俺は……………?」
何か事を忘れているような、拭いきれない思いに、俺は、複雑な葛藤を覚えた。
話がなかなか進まない……………
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