それは奇跡か運命か
「……ウ…………ジ」
暗い、真っ暗だ。何も見えない。
いや、それも当然か、俺は死んだんだからーーーー
ーーーえ?
急に頭に浮かんだ言葉に愕然とする。
『死んだ』?俺が?
「…ドウ…レ……ジ」
駄目だ。
体は理解しているのかもしれないが、頭が働かない。何も、考えたくない。
ああ、そうだ。そうしよう。もう、いっそこのままずっと……………
「起きなさい……………シドウ レイジ…」
「ッッ!!……はぁっ……はぁっ……」
誰かが俺を呼ぶ声で目が覚めた。
ボヤける視界に抗いながら、自分が今どこにいるのか確かめるために上体を起こし、辺りを見回す。
目に飛び込んで来たのは、真っ暗な世界。周りに見える、綺麗に輝く白い光。
これはーーーーーーーーーーー
「宇…………宙………?」
「いいえ…………正確には此所は宇宙ではありません」
誰に言うでもなく、一人呟いた言葉に返事が帰ってきたので驚き、声がした方向に目を向ける。
声がした方向に居たのは、可愛らしい、透き通るような銀色の髪の少女だった。
「此所は『魂界』………肉体を離れた魂が生まれ変わるのを待つ広大な空間です」
「魂…………?君は一体……………?」
自然と疑問の言葉が漏れる。彼女はその疑問に微笑みながら答えた。
「私は…………あなた方の世界で言う、『神』に当たる者………世界主、と言うものです」
……………どうやら……よっぽど良くできた夢らしい。
あまりにも非現実的すぎて目の前の現状に理解が追い付かない。
「ふふっ………私が以前、出会った人間も、同じような事を考えていました……………これは夢ではありません。貴方は、死した人間の魂として此所に来たのです」
…………どうやら、目覚める前に思い浮かんでいた自らの死の感覚は、こういう事だったようだ。さらっと心の内まで読まれてしまった。
「すると何か?俺は死んじまって、魂として此所にいるって事か?」
「はい……………そうなります」
………思っていたよりもショックが少ない。
滅茶苦茶な状況なのに、憎らしいほど俺の頭は冷静だった。
「………落ち着いて………いらっしゃいますね?」
目の前の少女ーーーー世界主だったか、が不思議そうにこちらに問いかけてきた。
「ああ…………まぁ未練が無いわけではないが………………何故か、全く苦にならない。」
そう、未練がないわけではないのだ。自分のいた『場所』には大切な母と妹を残している事になる。
それなのに…………全く悲しくないし、惜しくもない。何故だろうか。
「………………話を続けてくれ」
「………わかりました」
世界主は小さく深呼吸をし、再び此方に言葉を発した。
「貴方がお亡くなりになった、という話はしました。続いて、貴方にお願いしたいことについて話します。」
「お願い……………?」
「………はい」
『お願い』とは、普通上の身分の者が下の者にするものではないだろう。
世界の主だというのなら、『命令』で済む話ではないのか………………?
「本来、死を迎えた魂は、今見えているように白い光となって、転生の時までこの空間を漂います。転生の際には記憶を全て消去され、新たな生命として生まれ変わります。ですが……………」
彼女はそこで一度「コホン」と可愛らしく咳払いをし、こちらの目を見つめながら続けた。
「貴方には…………その記憶を保持したまま、とある世界に転生してもらいたいのです。」
「記憶を保持したまま………?いいのか?他の魂はあらゆる記憶を消されて生まれ変わるんだろ?」
そう言うと、彼女は先程とは逆に、視線を下に向け、小さな声で答えた。
「かまいません………貴方はまだ死ぬべき人間ではなかった、それだけです……………と、もう時間がない…………これ以上時間は掛けられないか…………」
「時間…………?」
俺がそう呟いた瞬間だった。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッ!!!
突然、とてつもない揺れが俺たちを襲った。
「おわっ!?」
「キャッ!?」
天地をひっくり返す様な揺れに耐えられず、俺は派手に転んでしまった。
彼女は………………大丈夫らしい。驚きの声は漏らしていたが、流石世界の主。
ふよふよ浮遊して耐えたようだ…………………角度的に、しましまの下着が見えてしまっているが。
「もう時間がない……………転生先の世界については彼女が教えてくれます………!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。この揺れは?死ぬべきではなかった、っていうのは?」
まだ、聞けていない事が沢山ある。そもそも、彼女ってのは誰だ?
疑問が膨らむ中、揺れだけがどんどん強くなってくる。
「必ず…………また、会えます。だ……ら、そ…………で………界……で」
疑問ばかりが残る中、俺の意識は闇に溶けていくかのように薄れていった……………
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