暗闇と、何時かの記憶
ーーーー暗い。
破壊した扉の奥に歩を進めて、まず感じたのが、そんな言葉だった。
階段の壁に掛かっていた松明を持ち込んだおかげで、辛うじて足元は見ることが出来るが…………
生憎の事、この空間はかなり広い。
それこそ、松明程度の明るさでは先が見えない程に、だ。
「………………………」
「………………………」
そんな暗闇に向かって歩を進めている分けだが……………非常に歩きにくいのだ。いや、別に地面がぬかるんでいるとか、何か不思議な力がはたらいているとか、そんな大層な理由じゃない。
「…………リィナ」
「………どうしたの?」
「……離れてくれないか?歩きにくい」
問題はこの娘だ。
……今の俺の服装は地球にいた時に着ていた、黒いズボンに、赤いコートな訳なんだが……リィナがそのコートにしがみついて、離れてくれないのだ。
腰が完全に引けてしまっている所を見ると、暗い場所が苦手であることが、安易に見てとれる。
「……うぅ……何でこんなに暗いの……?」
「………俺に聞かれてもな……」
……どうやら………本当に暗い場所が苦手なようだ。
仕方ない、か。
「ほら、手を出せ。手を繋いで歩けば大丈夫だろ?」
「え……あ、ありがとうッ!」
……満足したようだ。服にしがみつかれるよりは歩きやすいから、な。
何時だったか、もう、覚えていない。
ただ、その情景は今でも記憶の中に鮮明に残っている。
暖かい春風の吹く花畑で、私は誰かと走っていた。
共に手を取り合って、無邪気に。
ただひたすらに、何かを追いかけて。
それが誰だったのか、それすらも覚えていない。
幾ら記憶をあさって思い出そうとしても、その人の事に関しては神隠しにでもあったかのように、何も思い出せない。
ただーーーただ、僕はその『誰か』と確かにそこにいた。
確かにーーーいたのだ。
明瞭なようで、不明瞭な記憶だ。
それはそれでも構わないと、僕は思う。
人の記憶なんて儚いもの、世界にも少ししかないだろうから。
ーーーーでも、違う。僕の疑問点はそこじゃない。
どうして、このタイミングでそんな記憶が出てきたのか、だ。
何故、彼の手を握っているだけで、こんなに懐かしい気持ちになるんだろうか?
私には解らない。でもーーーーーーー
ーーーーーー彼の手は、暖かかった。
短くなってしまった………………
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