扉
「……………………」
「……………………………」
現在、俺はリィナに「ついてきて欲しい」なんて言われ、地下に続く長い階段を下っているところだ。
いや、別にそこに不満がある訳じゃない。頭痛も収まったし、倒れていた俺を介抱してくれた少女の『お願い』なら、断る理由もない。
ただ…………………ただ、何だろうか。階段の一段一段を降りていく度に感じる、この不思議な感覚は。
まるで、そこで誰かを待たせている様な…………そんな感覚だ。
『主様』
その声を聞き、ふと自分の足元を見ると、あの狐が九本の尻尾を忙しく動かしながら、せっせと階段を降りてくる姿が目に入った。
『何か…………不思議な何かを感じます…………』
「奇遇だな…………俺もだよ」
今度はリィナに聞こえないように小さな声で返事をした。
あ……………躓いたな…………見事に。
ウィルディが階段を降りるのに失敗し、頭が地面についてしまっている。
『うう…………歩きにくいです………』
「…………剣に戻ればいいんじゃないか?」
前途多難なウィルディに提案してみる。
『戻れると思いますけど………私には鞘が有りませんから抜き身のままじゃ危ないですよ…………』
「確かに、な」
考えてみれば、棺からコイツを取り出した時から鞘は無かったな。確かに抜き身のままじゃ危ない。
「…………俺の肩にでも乗るか?」
『わっ、私は主様に仕える身!そんな分けには……………ひゃうっ!』
あっ………また転んだか。そろそろ可哀想になってきたな。
そう考えた俺は転んだウィルディを持ち上げ、肩に掴まらせる。
『すいません……主様……』
「………お前には、かなり助けられたからな。別に気にする事はない。」
『はいぃ………』
「着いた………ここだよ」
あれから暫く歩いた後、遂に一番下に辿り着いた様で、リィナが歩を止める。
俺の目の前に広がっているのは………巨大な、五メートル程の鋼鉄の扉だ。
それもただの扉ではない。
扉のあらゆる部位が全て、大型の鎖で縛り付けられている。何かを閉じ込めておく様にも見える、その扉を一言で言い表すならば、『異様』。この一言に尽きるだろう。
「これが、お前の見せたかったモノ………か?」
「うん…………少し話題がそれるけど、貴方を此処に運んだ理由………実は二つあるの」
「二つ………………?さっきのふざけた理由とは別か?」
「…………別にふざけてないのに…………貴方を見たとき、貴方の体…………特にその腕から膨大なルクスを感じたの。そして、そのルクスがーーーー」
「この扉と似通っていた、ということか。」
薄々、感じてはいた。 この扉の鎖…………ウィルディのルクスと非常に似た何かを感じる。
それと、もう一つ。
この鎖…………扉を縛り付けている、というよりは、何かを守ろうとしているように感じる。
先程から感じていた、あの『不思議な感覚』と何か関係があるのだろうか?
「………よく分かったね……この扉……自分で何度も開けようとしたのだけれど………少し離れていて」
リィナにそう言われ、扉から少し距離をとる。
「耳、塞いでて……………えいッ!!」
………どこか気の抜ける掛け声と共に、彼女が右手を虫でもはらうように振る。
その瞬間……
ドゴォォォォォォォォンッ!!!!
とてつもない爆発と共に、目の前の扉が突然凄まじい爆発を起こした。
「……………!!」
とてつもない突風が俺を遅い、驚きの声すらあげられない。それ程に凄まじい爆発だった。
「主様ぁぁぁぁぁ……………」
…………ウィルディが吹き飛ばされていったな………後で労ってやろう。
やがて煙が晴れ、視界が良くなっていく。
そこには傷一つない、無傷の扉が存在していた。
威圧感を醸し出すその風体は、先程と寸分違わず、堂々とそこにあった。
「やっぱり駄目、だね。」
「………爆発……した……?」
俺よりも近くに居たのにもかかわらず、その藍色の髪に煤一つ付けていない彼女に向けてそう発した。
「うん、これが僕のルクス、【瞬爆】。空間そのものを爆発させる力だよ。」
「……随分とまぁ、物騒な力だな。」
今度は爆発、か。色々と凄まじい力だ。
だが、それ以上に驚かされるのはこの扉、だ。
殆どゼロ距離で爆発したのにもかかわらず、本当に煤一つ付いていない。
「しかし………どうしてそこまでして、この扉の先に行きたいんだ?」
俺がそう聞いた瞬間、リィナは一瞬、表情を曇らせた。
「僕には……師匠がいるんだ。僕にルクスの使い方を教えてくれた………。その師匠が、三年前から行方不明なの。今日が丁度、師匠の誕生日なの。」
…………なんとなく話が見えてきたな。
区切りが悪いなぁ………
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