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なろう冬の短編祭り  作者: 企画参加者一同
7/9

女子高生とは謎な生き物でござる 作、マツ

 俺は山田ヨシオ。今年で十六歳になる高校一年生だ。


 早速だが、俺の前世は戦国の世を生きる武士だった。まあ武士と言っても、教科書に名前が乗っているような有名なのじゃなくて、そのへんで討ち死にした下級の武士だけど。


 前世の記憶があるせいで、幼少期は色々と苦労したけれど、今となってはずいぶんと馴染んだ。「ござる」なんて使わないし、刀を腰に差しておかないと落ち着かないとか、髪を結いたくなるとかそんなことはない。

 片手にスマホを装備し、ワックスで今風に髪型をセットして通学路を闊歩する男子高校生である。 

 そんな俺、山田ヨシオは現在冬の寒さに震えているのだが、心は春真っ盛りだった。


 なぜなら――彼女ができたからだ。

 

 前世の俺には妻がいたが、今思うとクソブス以外の何者でもなかった。タヌキの方がまだ可愛い。

 いや、当時はあれで良かったんだ。でも、この平成の世を生きる女性は可愛い過ぎる。

 そんな可愛い女性が彼女となったのだから、舞い上がらないわけがない。妻なんぞ知るかっ。


「おはようヨシオくん! 一緒に学校行こっ」

「あっ、お、おはようナツキちゃん。それじゃあ行こうか」


 突然背後から現れた俺の彼女。うん、可愛い。

 何が可愛いって、もう顔が可愛い。仕草が可愛い。吐く息が可愛い。話す際にわずかに口から飛び出る唾液が可愛い。可愛くて可愛くて仕方がない。


 しかし、女子高生というのは謎だ。彼女が女子高生であるがゆえに、それはひどく感じる。

 例えば――


「ねえヨシオくん、ウチら、今日で付き合って十日目だね!」

「そ、そうだね……はは……」


 女子高生の謎その1 「付き合って〇〇日目だね」と言う。

 

 記念日というものを大切にしたい種族なのかは知らないが、これではまるで別れることを前提として付き合っているようだ。

 というか、十日目なんてどうでもいいだろ。言わないけどさ。


 数少ない彼女持ちの友人に聞くと、その友人の彼女も事あるごとに「〇〇日目だね」と言うらしい。

 ……謎だ。


 謎ではあるが、それがナツキちゃんの可愛さを阻害しているわけではない。何がどうあれ、ナツキちゃんは可愛いのだ。


 可愛いナツキちゃんと無事学校へ行き着いた俺たちは、教室が違うため一旦離れた。

 寒さのため昨日から教室には暖房が付いているため、ようやく手袋とマフラーから解放される。俺は寒いのは苦手だが、手や首に何かものをまとわりつけるのも好きではないのだ。


「あ、やべっ」


 そういえば、今日は数学で課題が出てるんだった。

 ナツキちゃんのいる教室へは行きたいが、成績を下げるわけにもいかないからやるとするか。

 ……って言っても、俺は数学が苦手だからやってある奴に見せてもらうだけだけどな。


「なあ岡田、数学のプリント見せてくれよ」

「ええー、また? しょうがないなぁ」


 クラスのサバサバ系女子代表、岡田。

 俺の頼みに対し苦笑気味に答えた彼女は、「はいっ」とプリントを差し出した。

 手に取って確認すると、その謎が俺の頭の上に浮き上がる。


 女子高生の謎その2 やたらとカラーペンを持っているor使っている。


 たかがプリントなのに、何なんだこの色の量は。時代が時代なら玉虫と見間違えちまうぞ。

 しかも見にくいわけじゃなく、どの色も考えて使われている。まさに匠の技と言えよう。

 だが、これでも岡田はクラスの女子の中じゃ最弱。上には上がいる。


「ねえねえ! 昨日のドラマ見た!? ウチめっちゃ感動した!」

「ウチもウチも!」

「あぁ……ウチまだ見てないんだよねぇ」


 教室のど真ん中に集まり、大声で雑談に興じる三人組がいる。

 安井、宮岸、榊原の三人がああして話している光景は、今や教室の風景の一部と化している。ゆえにどれだけ大声で話していても、教師以外は誰も止めはしない。

 当然俺も止めないし、それについては今更何も思わないのだが、それ以外なら思うことがある。


 女子高生の謎その3 一人称が大抵「ウチ」である。


 これはナツキちゃんにも言えることだが、女子高生の一人称「ウチ」率は異常だ。

 「ウチ」「ウチ」「ウチ」と一体何なんだ。誰も「私」とか「あたし」って言わねえじゃねえか。揃いも揃ってホームシックかよ。


 悪態にも似た思いを巡らせながら、そっとため息を吐く。

 そうこうしていても仕方がないので、借りている身として大人しくシャーペンを走らせることにする。

 なんとか数学の時間までに写し終えなくては……。




 無事数学のプリントを写し終え、他にはこれといって何事もなく一日が過ぎてゆく。

 そして放課後、俺は今日もナツキちゃんと下校すべく、ナツキちゃんのいる教室へ出向いた。


「ナツキちゃーん」

「あ、うんっ、今行く!」


 友達と思しき数人の女子と話していたナツキちゃんは、俺の呼びかけに素早く笑顔で返した。

 ああ、なんて可愛いんだ。


 俺は女神と歩幅を合わせて玄関へ向かい、北風の中、ゆっくりと帰路につく。

 ナツキちゃんははーっと白い息を吐き、「寒いね」と微笑む。俺も「寒いね」と返すが、実のところとても温かかった。


「ねえヨシオくん」

「ん? 何……かな?」

「ヨシオくんは、ウチのこと、好き?」

「す、好きだよ……!」


 バカップルなのは分かっている。だけど、これが楽しくて仕方ないのだ。

 俺が頬を緩ませていると、突然ナツキちゃんがバックをあさり始め、可愛らしい小さなナイロンの袋を取り出した。


「ごめんね。さっきまで渡すの忘れてたんだけど、これ、昨日作ったクッキー。食べて?」

「えっ! 俺に!?」


 幸せだ。こんな幸せなことがあっていいのだろうか。


 頭の固いクソオヤジに武士のなんたるや、刀のなんたるやを教え込まれ、特に階級が高いわけでもないのに妙な出世の希望を抱かされ、そして死んだあの頃に比べて今は極楽そのものだ。

 今、ここが現世ではなく浄土だと言われたら、俺は絶対に信じるだろう。信じざるを得ないほどの幸せだ。


「い、今食べても、いいかな?」

「あ、うん! ウチが言うのもなんだけど、けっこういい感じにできたんだ!」


 凄まじい自信に少々気圧されながら、俺はそっと封を開いて宝石を扱うように一枚抜き取り、口に運んだ。


「ね! やばいでしょ! ほんっとやばいよね! こんなやばいの作れると思わなかった!」

「ん、あ、うん」

「ねえやばくない? ウチにも一枚頂戴!」


 乱暴に一枚取ったナツキちゃんは、それを口に放り込むなり、大きな声で「やばーい!」と叫んだ。


 女子高生の謎その4 事あるごとに「やばい」と言う。


 最近では慣れたものだが、この謎の気づき始めた頃は「女子高生はやばい以外の単語を知らないのではないか」と本気で思ったほどだ。

 言っておくが、バカにしているわけではない。

 この時代の文明に圧倒されただけである。


「そういえばヨシオくん、クリスマスがもうすぐだけど、二人でどこへ行こうか?」

「クリスマス?」

「そう、クリスマス。えっ、もしかして何も考えてなかったの……?」


 眉の角度が下がっているのは、俺に対する好感度に比例しているのだろう。

 なるほど、これが噂のクリスマスイベントか。


 女子高生の謎その5 信仰を持たないのに聖夜を求める。


 クリスチャンならば、クリスマスクリスマスとインコのように言うのは分かる。

 しかし俺の周りの女子は、無宗教であるのにも関わらずクリスマスが大好きだ。


 実際、これは女子高生に限った話ではないようだが、高校に上がってからよりいっそう増えたような印象を受ける。

 女子高生という称号には、聖夜の魅惑的な何かを寄せ付ける特典でもあるのだろうか。


「い、いや! そんなことないよ! クリスマスはそうだなぁ……映画なんてどう? そのあとは買い物にでも行こうか」

「うん! 絶対だからね!」


 無宗教のくせにクリスチャンの真似事をしていたってかまわない。

 今日もナツキちゃんが可愛いのだから。




 迎えたクリスマスは、都合良く日曜日だった。

 午後一時に駅前でと約束を交わした一昨日から、楽しみで中々寝付けていない。頭の中で様々な角度からのナツキちゃんの笑顔が浮かび、黄色い声が反響し、まぶたが踊り始めるのだ。


 そんなわけで今日も寝不足……なんてことはない。

 無理やり眠りに落ち、元気は十分だ。せっかくのナツキちゃんとのデート、寝不足のフラフラな状態で終わるなんて許されるわけがないじゃないか。


「ごめんヨシオくん、待った?」

「あ、う、ううん! 全然待ってないよ!」


 予定の時間より少し遅れて来たナツキちゃんは、とても大人っぽい格好をしていて制服とはまた違った雰囲気をかもし出していた。

 何よりも存在感を発するのは、異常に短いスカートである。タイツを穿いているとはいえ、このクソ寒い季節にミニスカートとは……女性はなんと我慢強いのだろう。


「それじゃあ行こうか」


 そう言って差し出した俺の手を握ったナツキちゃん。

 双方ともに冷たいため、じっくり温めてゆくとしよう。


 さて、今日のために色々とプランを練っているわけだが、いかんせん財布のことを考えるとあまり派手にやることはできない。

 とりあえず、ここは確実に時間を使える映画館へ――


「ちょっと待って!」

「ん?」

「写真、一緒に撮ろ?」


 ポケットからスマホを、ポーチから棒を取り出した。

 あの棒は、まさかあれか。自撮り棒というやつか……!!


 女子高生の謎その6 自撮りが好き。


 自撮り、いわゆる自分を携帯などで撮る行為のことを指す。

 あの自撮り棒は、簡単にその自撮りができてしまう優れもの……だそうだ。俺は使ったことがないのでまったく分からない。


 ナツキちゃんは慣れた手つきで自撮り棒とスマホを合体させ、僕を引き寄せて写真を撮った。

 撮れた写真を見てみると、なぜか俺が写っていなかった。いや、厳密には髪が少し写っているのだが、写真の中心にきているのはナツキちゃんである。


「その写真、どうするの?」

「ツ〇ッターに載せるの! いいでしょ?」


 いいでしょも何も、俺がほとんど写っていないのだから承諾を得る必要性はほとんどないだろう。

 しかし、無視するわけにもいかないのでとりあえずうなずいておいた。

 するとナツキちゃんは、嬉しそうな顔でスマホをいじり始めた。おそらくアップしているのだろう。


 女子高生の謎その7 彼氏の存在を匂わせる写真をネット上にアップする。


 これは最近友達に聞いて知ったことなのだが、昨今の女子高生は、彼氏自慢をするのにすごく回りくどい手を取るそうだ。

 それは、自撮りの中に彼氏の身体の一部をいれるという手法である。


 まんまのツーショットをアップしては反感を買うおそれがあるとかで発案されたものだそうだが、何と面倒くさいのだろうか。

 というか、軽い気持ちでネット上に個人情報を載せるなと言いたくなる。言わないけど。


「ヨシオくん、そろそろ行こうよ」

「そうだね。行こうか」


 並んで映画館へ向かい、ほのぼのとした恋愛ものを観賞した。

 この映画館には、カップルで見ると一人千円になる。学生カップルには優しい価格設定だ。


「か、可哀想……」


 映画の展開に瞳を潤ませるナツキちゃん。

 どこかで百万回は見たような内容で俺はまったく感動できていないが、ナツキちゃんが喜んでいるのなら観に来て良かったと言えよう。


 結局安直なハッピーエンドで幕を下ろした映画を背に、俺たちは映画館を出た。

 俺はどこかの喫茶店に入る予定でいたのだけど、それを言う前にナツキちゃんが口を開いた。


「ねえ、プリ撮ろうよ! プリ!」


 プリとはブリを可愛く言っているわけではない。証明写真機のプリティー版、プリクラである。


 女子高生の謎その8 プリクラが好き。


 付き合って三日目、五日目、一週間目にもナツキちゃんに連れられてゲームセンターへ行き、プリクラを撮らされている。

 自分の写真なんて携帯で撮れると思うのだけれど、彼女たち女子高生からすればそういう問題ではないのだろう。

 理解できないが、ナツキちゃんが喜ぶのなら一回四百円もやぶさかではないか。


「えーっと、このへんにゲームセンターは……」


 スマホで探してみるとすぐに見つかった。

 歩くこと約十分、着いたゲームセンターはクリスマス色で染め上げられていた。

 特にプリクラのコーナーはすごい賑わいで、カップルや女性の集団で溢れかえっている。


「たくさんいるねぇ。ヨシオくん、並ぶけどいい?」

「いいよ、別に。どの機種にするの?」


 プリクラと一口に言っても、足が長く見えるやつや女優のようなメイクができるやつなど、その種類は多種多様……だそうだ。

 はっきり言ってどうでもいいのだが、ナツキちゃんに好みがあるのであれば仕方がない。


 二十分ほど待ってようやく利用することができ、仲良くプリクラを撮った俺たちは、一旦ゲームセンターを出ることになった。

 暖房の効いた空間を飛び出した瞬間に、北風が頬を刺す。

 だが、僕は隣にナツキちゃんがいることで盛大に頬が緩んでいた。


「ヨシオくん、ウチ、この近くに美味しいパンケーキの店知ってるんだけど、今から行かない?」

「ぱ、パンケーキ? ……そう、だね。行こう行こうっ」


 き、来やがった。

 まさかこんなにも早くパンケーキイベントに遭遇するとは……。


 女子高生の謎その9 パンケーキを求む。


 ナツキちゃんに連れられて入ったパンケーキ専門店のメニューを見ると、たかがホットケーキの分際でありえない価格が明記されていた。

 どうしてホットケーキをわざわざパンケーキというのだろうか。大体なんだパンケーキって、パンなのかケーキなのかはっきりしやがれってんだ。


 ああ……これは俺の財布にとって相当な痛手だぞ。

 ちくしょう、どうしてホットケーキの上にちょこっと何か乗ってるだけでこんなにも高いんだ……!!


「何だか怖い顔してるけど、もしかしヨシオくん、パンケーキ嫌いだった?」

「べべ、別に嫌いってわけじゃないよ! うん、大好き!」


 ホットケーキが嫌いな奴なんてそうそういないだろう。

 俺が嫌いなのは、このやたらとお高く設定された価格だ。

 ゼロを一個取れ、ゼロを。


「わぁ、美味しそう!」


 店員が持ってきたえらく豪華に飾り付けされたパンケーキに、キラキラと目を輝かせるナツキちゃん。

 その後俺は、ナツキちゃんの「やばい」マシンガンを聞き、適当な雑談に耳を傾け、二時間ほど後に店を出た。


 午後五時過ぎとはいえ冬ともなれば既に日は落ちており、あたりは人工の光で溢れている。

 クリスマス仕様に装飾された木の周りには多くのカップルが集まっており、俺たちの足も自然とそこへ向いた。


「そうだ。ナツキちゃんにクリスマスプレゼントがあるんだ」

「えっ?」


 前々からそこはかとなく催促されていたため、どうして驚いた顔をしているのか俺には理解できないが、あえて突っ込みはしない。

 俺はショルダーバッグの中から黒い袋を取り出し、中に入った小さな箱をナツキちゃんに渡した。


「これ、何?」

「まあ開けてみて」


 恐る恐るといった様子で蓋を開けたナツキちゃん。

 箱の中には小さなネックレスが入っており、ナツキちゃんはそれを手に取り目を見開く。


「高価なものじゃないけど、ナツキちゃんに似合うかなって思って選んだんだ。その……嬉しい、かな?」

「えっ、あ、うん! 嬉しい! とっても嬉しいよヨシオくん!」


 うふふふ、あははは、なんて笑い合う俺たち。

 こうしてクリスマスは、和やかな雰囲気で幕を下ろした。




 それから三日後のことである。

 その日、俺はスマホの画面に刻まれた文字に思考が停止してしまった。なんとあのナツキちゃんが、別れ話を切り出してきたのである。


 情報通の友達に話を聞くと、ナツキちゃんには既に彼氏候補のような男子がいるらしい。

 俺はもう呆れることしかできず、別れることとなった。


 女子高生の謎その10 彼氏はアクセサリー。


 これはちゃんと頭に入っていたが、それでも対処することができなかった。

 ああ、冬の冷たい風がやけに身にしみる。


「女子高生とは謎が生き物でござる」



マツ 代表作『スカートの奥を征く者 』

http://mypage.syosetu.com/267501/

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