赤の一族の使命 作、Q7
インターネットのゲーム上でのやりとりで、こういうのがあるそうだね。
「一年中インしてる廃人のクセに、12月24日だけ『ちょっと用があってね』とかいう見栄を張るやつがいたんだよ」
「そいつ、サンタなんじゃね」
なるほど。たしかに一般人の価値観からすれば、少し面白いかもしれないね。だが、俺に言わせてもらえばこれは根本的に間違っているよ。
そう、サンタは12月24日しか働かない、という認識がそもそもおかしい。
まあ、一般人はそんなこと知る由もないから仕方ないけど。
と、いう話を一族の子どもたちに話したら結構驚かれた。それもそのはずだ。みんな一般社会のことを知らなさすぎる。
『教会』に命じられるまま、幼少のころから体術や馴鹿術の訓練にあけくれ、極寒の地から一歩も出ていないのだから無理はない。キューピッドのヤツらや、サキュバスのお姉さんたちは職業柄世情に詳しい必要があるんだけど、俺たちにはそれがない。
今年21歳になる俺の実践デビューは去年だったけど、幸運にも担当地区が日本というそこそこ発展している国だった。おかげでだいぶ世情に詳しくなったと思う。
ああ、話を戻そう。
俺たちは世間のイメージとは異なり、実は一年中働いている。
何をしているかって? 少し想像力を働かせてみよう。
プレゼントの調達? まあそれもやるよ。ちゃんと領収書ももらう。自腹は勘弁してほしいからね
金はどこから出てるのか? って? それは『教会』からだよ。
もっと根本的なことを言えば現代では『教会』に出資している世界中の大企業からもらっている。ほかの一族と同じさ。
初代のころから変わらないけど、イベントは経済を回して、回る経済は豊かさを作るものだ。だからイベントは必要だ。それはわかるかな。
そんなイベントには説得力というものが必要だ。たとえばバレンタインとかもそうで、『チョコレート』を渡した相手がひどいDV野郎で、そのあと不幸になりました。という例が増えれば、人々はだんだんイベントそのものを避けるようになる。そうするとイベントが廃れていく。だからたまには奇跡が必要だ。大衆に鮮烈なイメージを与え、イベントのイメージをよくするためにね。
大事なことは経済効果の高いイベントの存在価値を守り、高めることなのさ。
初代のころはそれこそ極北にある小さい村の教会が秘密裏に行っていたらしいそれは、有力者たちの間で知れ渡っていき、いまでは世界規模だ。あくまでごく一部の有力者の間でだけど、ね。
君のお父さんが乗っている車の会社の社長も知っていることだよ。みんな言わないだけさ。奇跡が作られたものだと知られたら、価値が下がるからね。
で、俺たちの一族はそういう目的で動いている。もちろん、それだけじゃないけどね。
子ども好きな初代とその周辺の人が勝手にやってたことが今では商業化してるけど、その善意のスピリットは今でも一族に受け継がれてる。当然俺にも。
でもまあ、これで給料や経費が貰えるのはありがたいよ。ボランティアだけだと、出来ることに限界があるからね。
ほら、よく言うだろ? 「良い子はクリスマスプレゼントがもらえる」ってさ。
世界中にいる俺の一族の手の者たちは、それぞれの社会に潜み、『良い子」を見つける作業に一年の大半をかけている。で、自分が見つけたその『良い子』に贈り物をするのさ。一人あたりのノルマは初段の俺で4人。たしか長老の息子は100人らしい。さすが当主、モノが違うよね。
全世界の子どもをカバーできるほど俺たちの一族は数が多くないから、そういう方法を取らざるをえないということを理解してほしい。
これ、結構大変なんだよ。社会に違和感なく溶け込み調査を進めるのは、語学力を基本とした多くのスキルが必要だし、『良い子』を判断する基準だって厳密で厳しく、それを判定するのは骨が折れる。そして本番のときには密室に侵入する体術や、伝統になってる馴鹿を上手く扱う技術もいる。馴鹿ってバカだから大変なんだよこれが。
一連の流れは当然ターゲット以外には知られてはいけないから、もうこれはスパイみたいなものだよ。
実際、俺たちが本気になれば、大泥棒にだってなれるね。ならないけどさ。
毎日毎日『サー! イエッサー!』とか言って血反吐を吐きながら訓練してきたのは、職業にプライドを持っていたからだよ。
もちろん、世界中で奇跡を作り出すってのはすごいことだし、それをこっそりやるのもカッコいい。
それに、俺は一族がら、というか、子どもの喜ぶ顔が好きなんだよね。
あと日本を担当する俺は、最近では本業に加えてちょっと特殊なこともやらないか、と打診されている。
日本ではクリスマスは『恋人たちの日』という雰囲気があるだろ?
上手く人を誘導して男女を偶然出会わせたりとか、タイミングよく停電にするとか、そういうものやらないかと、ある企業が教会に進言してきたらしい
糞食らえだ。ほんと、排泄物でも食せばいい。
そんなことは他の一族のやることであり、俺たちには関係ない。大体、俺はそういうのは好かん。なんで彼女もいない童貞の俺がそんなことやらないといけないのかさっぱりわからない。
俺が血反吐を吐いて訓練をしてきたのは……、と、これはさっきも言ったね。
ちょっと脱線したけど、これが君の願ったプレゼント『本物のサンタクロースが書いたホントのことを教えてくれる手紙』になるけど、満足したかな。
君は毎度のことだけど、さびしいだろう留守番をよく頑張ってるよね。それなのに友達も大事にして、真面目に勉強する君はホントにいい子だ。
高層マンションの45階で、君の両親は今日も仕事で外国だろう?
そんななかこの手紙を枕元に置けるって、すごいでしょ。しかも本番用の赤いユニフォームとつけ髭というクソ目立つ格好なのに誰にもさとられずだよ。
ああ、ダメだよ。泥棒とか言わないで。トラウマ思い出して傷つくから。
ホント、世知辛い世の中になったもんだよ。
俺は嘘はつかない。と、いうかつけない。サンタクロースは子どもの要望には絶対に答えなくちゃいけないから、これは本当のホントの事実で、真実だ。
みんなの心の中に、だとか
妖精さんが、だとか
正体はパパだ、とか
そんなのは全部ウソ。もちろんママにキスしたりはしない。
俺が、俺たちがサンタクロース。(ガン○ム、君もよくみてるけど、アレは面白いね)
これが本当のこと。
ちょっと夢を崩しちゃったかもしれないね。
でもわかってほしいのは、君や他の子どもたちにプレゼントを贈ったのは、仕事に誇りをもって自らを鍛え続け、君のことをよく知っていて、心から君に喜んでほしいと思っている生きている大人だってことさ。
君のことをよく知りもしない、太った怪しい妖精なんかより、よっぽど信頼できると思わない?
できればこの事実は秘密にしてほしいけど、君はきっとクリスマスの奇跡を信じられるようになると思う。 たとえ人が作ったものでも、奇跡は奇跡さ。
もし君に子どもが生まれたら、詳細は伝えずに奇跡だけ伝えてくれればそれが一番嬉しい。きっと君の子どもも喜ぶし、俺たちはそうやって長年やってきた。
じゃあ、これで手紙を終わるよ。二人目の子にあげるジャンボジェットを調達しないといけないから。自然な流れでこれの権利をクリスマスにあわせて彼に送るのはかなりの大仕事だったよ。
ああ、最後に。一年間良い子だった君に、本物のサンタクロースから、愛をこめて。
メリー・クリスマス。
フェアリーアソシエイション サンタ事業部
日本関東支部担当:○○
Q7 代表作『悪の組織の求人広告』
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