のすたるじあ(三題噺:黄色、歩道橋、眼鏡)
歩道橋の向こうから、子供が上がってくるのが見えた。
黄色い傘をくるくるくるくる回している。
お気に入りなのだろうか、それとも新しく買ってもらったばかりなのだろうか。
くるくるくるくる。
子供は傘を回す。
対するぼくは、さっき百均で買ったビニール傘をスマートにさして、きびきび歩く。
きびきび、くるくる。
きびきび、くるくる。
すれ違ったとき、子供の傘の水滴がぼくのスーツの上着を濡らした。
ぼくは苦笑いしてそれをはらう。
大通りを抜けて住宅街に入ったとき、ぼくはそうっと傘を回した。
ぼくだって傘くらい回すんだ。
スーツに眼鏡の男がひとりで、
きびきび、くるくる。
きびきび、くるくる。
その日は一人暮らしの1DKのアパートまで、そうやって帰りましたとさ。