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典子 その思い……。


 私、立花典子の人生を振り返り、幸せだったのかと問われると、私は自信をもって幸せだったと答えるだろう。

 私は幸せだった思う。

 何故なら、幼き頃からの夢がかなったのだから。



 私の命は後僅しか残されていないのが、何となくだけど私にはわかる。

 ヒロにぃが慌てて病室に駆け込んでくるのが見えた。私は残り少ない力を振り絞ってヒロにぃの指を握りしめる。ヒロにぃが何か言ってるけどよく聞き取れない。

「……ヒロにぃ……優子をお願い……」

 私は最後の力で話しかけるけど、これが精一杯、本当は「ありがとう私は幸せだったよ」と最後に言うつもりだったのに、ごめんねヒロにぃ。

 そして私の意識は混濁してゆく。昔の思い出が走馬灯になって甦ってくる。

 私とヒロにぃの出会いはよく覚えてないけど、ヒロにぃがいうには私がまだ赤ん坊の時で、お互いが見つめ合ってたとか。最初に聞いた時は笑ったけど、ふふっ、今では生まれた時からヒロにぃとは、結ばれる運命だったのかなぁと思う。私が物心がつく頃には、いつも側にいて優しくしてくれたヒロにぃ。私には兄妹以上の存在だった。

 ヒロにぃを意識しだしたのは、あれは小学生の時だった。朝、小学校に向かう時、野良犬が私達に襲い掛かってきたけど、ヒロにぃが私を守ってくれた。でも、ヒロにぃがどうにかなってしまうかもと思って、それが怖かった。ヒロにぃが心配で病院まで付いていったりした。ふふっ、寝たふりしてヒロにぃのベッドに潜り込んだっけ、母さんが王子様なんて言うから焦っちゃった。あの日から私にとってヒロにぃは王子様、いえ王子様以上の存在になったの。将来ヒロにぃのお嫁さんになるって決めたのもこの頃だった。

 でも、中学生になる頃には、なんだか恥ずかしくなって、ヒロにぃの顔をまともに見れなくなったの。しかしいつも、ヒロにぃの姿を探していた。朝学校に行く時も、ヒロにぃが出てくるのに合わせたりしてたなあ。そして、母さんや父さんから引っ越しの話を聞いた時はショックだった。私は早くヒロにぃと話がしたくて、何度か話そうとするけど、何故かまともに話せなかった。一度なんか、学校を早退してヒロにぃを待ち構えていたけど、ノボルくんに邪魔された。その後、翌日かな、ノボルくんに告白されたけど私にはヒロにぃがいるからお断りしたの。本当にお邪魔虫のノボルくん。どうせならヒロにぃが告白してくれたらよかったのに。そして最後まで、何も言い出せなかった。

 引っ越した後、私は魂が抜けたようになってしまった。何故なら、私の傍からヒロにぃが居なくなったから。大人になった私は何度かヒロにぃを探しにいったけど、ヒロにぃの家族は団地から引っ越して、私のヒロにぃは行方不明になった。何度も悲しい思いをして東京に帰ったりしたわ。あきらめて他の人と付き合ったりしたけど、やっぱりヒロにぃの事が忘れられなかった。

 そしてあの日、私はこれで最後かも知れないと思い、教会神社仏閣行けるとこ全てにお参りしてお願いして回ったわ。そのおかげなのか、私はついにヒロにぃと再会することが出来たあの思い出の広場で。でも、ヒロにぃは家族や全てを無くして、少し自暴自棄になってるように見えた。私はせっかく会えたのに、ヒロにぃがどうにかなってしまうかと心配になった。居ても立っても居られず、私はほとんど家出同然に家を飛び出しヒロにぃの所に向かった。あの時私は、自分の行動力に自分でびっくりしたものだわ。

 それからの毎日は本当に幸せだったと思う。ヒロにぃにプロポーズされた時は本当に嬉しかった。今までの思いがこみあげてきて感が極まってヒロにぃをびっくりさせたけど。

 私達はボタンをかけ違いしたように、一度は離ればなれになったけど、最後は私が思い描いていた通りにおさまり、私は満足している。

 本当はもう少しヒロにぃと一緒にいたかったけど……ヒロにぃ、ありがとう。

 私は混濁した意識のなか夢を見る。ヒロにぃと少し大きくなった優子にに囲まれて笑っている私の夢を……。


 その夜、立花典子。旧姓、尾川典子は静かに息をひきとった。



 ヒロにぃ、私は本当に幸せだったよ。



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