生活音
まだ寒いが暦の上では春である。 桜咲く。
この物語の男は桜"散"った経験しか持たないことは今回のおはなしに関係がないことである。
さて、下宿を始めた大学生に多く現れる症状は言わずもがな「ホームシック」であるがこれも今回は関係がないこと。今回は一軒家から出て来た下宿生に多い「生活音」に悩まされるおはなし。
生活音と言えば、怪談の類いであるが「お盆の時期に家族以外の何者かの足音が怪談を上って来て廊下を自分の部屋の方までゆっくりゆっくり追いつめるように向かって来る。恐る恐るドアの隙間から覗いてみると、とそこには〜」なんていうものが他人の生活音の典型なのである。(他にも隣人の話し声、水周りの音なんていうものも生活音であるがこれもまた不快。
男のアパートは下宿当初憧れていた隣人が可愛い女の子という設定もなく、白装束の薄気味悪い霊と同居というコンテンツ力にも恵まれてはいなかったが今朝は「生活音」に悩まされて居た。
「ガンガンガンガンガンガン」「うるせぇ、寝させろ」「キイイイイイイィィィイイイイイイイイイ」「うるせぇっつってんだよぉ」"己自身の音"にはレ○パレスだろうとデザイナーズマンションであろうと関係がないのであった。
この男、二日酔いの頭痛に悩まされているだけで頭がイカレテル類いの人間ではない、ただ堕落感におそわれているだけであるが今朝ばかりは傍目からも少しおかしい。
夜を跨いで前日の夜、ことは男が適当にレシピを見てブレンドしたカクテル(マウントフジ)から始まったのであるが、その妙なカクテル(マウントフジ)を飲んでからなにをどう間違ったのか一時的に身の回りの音全てを疑似音で伝えて来るのだ。男は一人暮らしでまだ"助かった方"である「シーーーーーーーーン」としか聞こえない。ここで止めておけば"愉快"だったのだが男はバカだった(男という生き物は本質的にバカなのだが今回はこれも関係のないおはなし。)
妙な感覚を身につけたことでいい気になった男はその妙なカクテル(マウントフジ)を原料のジンが目に見えて減ってしまうほどに作り飲み干してしまった。(やはり男はバカなのである
聞こえて来る音が疑似音になっていると気づいた男は「人の心」まで疑似音でどうにか聞こえぬものかと考え近くのコンビニに行きタバコを買ってみることにした「そわ、、、そわ」、「うん、人の音は聞こえるな」次にレジに並んだ時、男は確信した、「イライライライラ」店員の心の音が聞こえた。
おお、これは面白いじゃないか。『ハート・オブ・ウーマン』まではいかないが「これなら女を抱き放題ではないのか?」と考えるのは、バカな男としては必然であり、彼が終電間近の渋谷にナンパをしにいくことも必然といえば必然であった。
いざ渋谷と赴く前に例の酒を5杯も6杯も飲んだ男は"騒音"に悩まされた、街はざわめき特に駅前が酷かった、人ごみの中では「ざわざわざわ・・・」あまりにうるさく男の性欲も好奇心も失せかけてしまったがここで退くのは情けないと向かうはクラブ。
普段の数倍はあろうざわめきの中から片っ端に女の子を誘うも男はGacktや福山雅治の類いではない、早々女の子から「ドキドキ」を鳴らせることが出来ないでいた。
だが下手な鉄砲数撃ちゃあたるもんでやっと女の子それも好みの女の子から「ドキドキ」を鳴らせることが出来た。ここまでくればナンパする度胸の有る男、無駄に口だけは上手い、ある程度のませて酔わせ「ぽわーんぽわーん」と思考回路の停止する音色を奏でさせることは容易かった。
「ここうるさいからさ〜!外で話そ!」連れ出せたならもう"勝ち"である、道玄坂をのぼることに関しては三浦雄一郎よりも上手いと自負している男は"休憩"のためにホテル街へ女の子を誘うのだった。。。
このあとエロ本でしか聞かないような卑猥な疑似音に竿を萎えさせた男がシャワーも早々眠りにつき福沢諭吉との別れを果たしたのもまた言うまでもなく。男が"酒はほどほどに"と猛省したこもまた、言うまでもないことであった。
カクテル 「マウントフジ」カクテル言葉は「もしも願いが叶うなら」