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紅蓮の拳と閃く刃

能力者の発現する能力は、その人間と関わりの深い身体の部位に、その人間を象徴するイメージを元にその内容を決定する。

しかし。

「陽祐……お前……」

彼は、その腕に、轟々と燃え上がる炎を携えていた。

彼が最も憎み嫌った、紅蓮の炎を。

「戦う時に、見せるって言っただろ……これが俺の能力、「紅蓮拳バーニング・フィスト」だ」

陽祐は手に力を込め、ゴキゴキと指の骨を鳴らす。

「火球なんか飛ばしたって、お前なら何とかすると思っていた。……だから、俺から行ってやる」

ボクシングのような、上体を少し低くする構えをとると、両腕の炎が後ろの方に向かって揺らめいた。

それらが途端に強く渦巻くと、陽祐の身体を一気に押し出して、僕との距離を詰めてくる!

迩迩芸命ニニギノミコト……っ!!」

燃え盛る炎を宿した右腕が、僕に目がけて突き出てくる。

更に炎は巨大な拳を形作り、拳撃のリーチと威力を高める。

早く、広い!これでは後ろに下がっても、炎をかわすことはできないっ……

「はあっ!」

ガキィンッ!

鈍い金属音が響くと共に、僕と陽祐の間に侍が割り込んできた。

僕は情けないことに、その場に座り込んでしまった。

「また邪魔を……っ」

拳と鞘が、鍔迫り合いのまま均衡した。纏う炎は鞘に遮られ、左右に飛び散って消滅する。

しかし拳の先の炎は消えず、激突した衝撃のクッションになったようだ。

「なかなか強い能力ちからだな、少年。紅蓮拳と言ったか……」

「俺が殺すのは能力者。お前も……志輝も、殺す」

陽祐の目は淀み、深い殺意を橙色の瞳に映している。

……僕の知っている陽祐ではない。

「待て、陽祐。本当に……僕を殺すつもりなのか?」

僕は僅かな望みを胸に、問い掛ける。

「……ああ」

しかし、その望みは、陽祐が低く答えることで断たれた。

それでも……それでも僕は、陽祐を敵だとは思いたくなかった。

「何故っ」

「っ……それ、は……」

僕に答えようとする陽祐の顔が、悲しみに歪むように見えた。

「ハイハイ、いつまでお話してるのかな〜?ヒナタ。キミにそんな余裕は無いハズだよね……」

陽祐の言葉を遮るように、突然手を叩いて、フィアーズが声を掛けてきた。

ニタリと不気味な笑みを張りつけたまま、フィアーズは睨み合いを続ける陽祐に近付いていく。

「“妹”ちゃんが可愛いなら、彼らを殺さなきゃ。キミの敵である、「戦い」の参加者をさあ……」

“妹”……?

「わ、分かっている!……俺は、殺す。こいつも……志輝も」

フィアーズの声を聞いた陽祐は、顔色が少し悪くなるが、教室で見せた時と同じ威圧感……殺気を放つ。

「……志輝はこの間に全く攻撃して来なかった。つまり、まだ俺を攻撃することに躊躇っているのか……そもそも、攻撃できない能力なのか」

「なっ……」

図星を突かれて驚く僕の表情を見逃さず、鍔迫り合いを止めた陽祐は、体を回転させ侍の横を抜け、その奥の僕に向かってくる。

「ニニギノ……」

「させぬっ!」

僕に向かって突進することで、侍に背を向けた陽祐。その隙を侍は逃さず、鞘を突き出して陽祐の背を強く突き出す。

「ぐはっ!?」

勢いを水増しされた陽祐はバランスを崩し、体勢の低い僕の頭上を飛び越えて転がっていく。

「此方へ!」

「あ、ああ……」

侍はそのまま突き出した鞘を僕に向け、掴むよう目で促す。

鞘を掴むと。

「ふんっ」

「何……っ!?」

ぐん、と僕の身体が宙に浮き上がる。

鞘を掴む僕をそのまま持ち上げ、侍はその場から後退した。

刀に振り回されながら、陽祐と再び距離を開く。

……気持ち悪い。

「無事で何より」

「……他に方法があるだろう」

「致し方あるまい。許せ」

刀から降りると、侍は腰に鞘を差す。

「何故僕を助ける。お前も能力者なら、僕の命を狙う筈だ」

さっきから抱いている疑問を、僕は侍にぶつける。

まさかこいつも、アエリアみたいに変な人間なのか?

「私は、誰も殺さないと、誰かを殺させないとも決めている。故に、狙われている少年を、護っている」

薄く目を閉じる侍の声には、彼の信念の強さが感じられる。

本気なのだ。本気で、誰も殺さず、殺させないと言っている。

……やはり、変な奴だったか。この「戦い」は、殺し合いだというのに。

「申し遅れた。私は一ノ宮時雨イチノミヤトキサメ。柔剛一刀の流れを汲む、一ノ宮流を継ぐ者」

刀の柄に手を翳すその姿は、居合いを行う侍そのもの。

能力者、一ノ宮時雨。僕が現時点で見る、四人目の能力者だ。

「風に柳、柔よく剛を制す。……抜刀」

つぶやく時雨に気を向けた瞬間、前から直進してくる炎の塊が、横に一閃されていた。

僕は見た。刀を振った時、その空間が“質量”を持ったように固まって前方へ飛び、火球を切り裂いていたのを。

「秘技、雲海断刀」

チャキン、と音を鳴らして納刀する。

どうやら、今の時雨は、本当に誰も殺させないように動いているようだ。ただ今は、攻撃する能力の無い僕を護っているだけで。

この状況を生き抜く。そのためには、時雨の力を借りるしかないか。

奴の能力は、空間か質量か風か……そのどれかを操るものだろう。それを自身の刀捌きと組み合わせ、居合いという形で戦っていく。

通常、居合いの範囲は、勿論だが刀の届く範囲だ。

しかし奴の場合は、言わば斬撃を“飛ばせる”。恐らく、刀二〜三本分の範囲までなら瞬時に攻撃出来るだろう。

いや、もしかしたらもう少し広いかもしれない。さっき僕の頭上の炎を切った時は、もっと離れていたのだから。

……問題は、陽祐だ。

「うおおおおおっ!!」

吼える陽祐は腕から炎を噴出させ、土煙を巻き上げつつ突進してくる。

その拳を纏う炎が、まるで意思を持つかのように揺らめき、僕と時雨に向かって同時に襲い掛かる。

陽祐の拳を避けようとすれば炎に焼かれ、炎を避けようとすれば陽祐の拳を食らうことになる。

逃げ道を、塞がれた。

「陰陽、対となりてここに煌めく。抜刀!」

刀を真横に一閃させる。すると、斬った側とは全く逆の位置にある、僕の周囲の炎だけが切り裂かれた。

「秘技、斬灰桜……」

ただ凪げば、僕まで真っ二つだったろう。奴はこんなにも繊細に、能力を操ることができるのか。

僕は出来た逃げ道を使って炎から逃げ出し、再び未来眼の力を発動させ陽祐の動きを見る。

しかし。

「志輝の能力、鍵はやはり眼か!」

陽祐はすぐ目の前にいた。

左目は、陽祐が僕に炎の拳で殴りかかってくる映像を映す。

間に合うか?

僕はその拳の来る方向……それを見切り、首を何とか横に曲げて攻撃をかわした。

「何っ!?」

避けられるとは思っていなかったのだろう、陽祐は目を丸くして、逃げていく僕を見ていた。

「く、逃がすか!」

拳に体重を掛けていたために体勢がぐらつく陽祐。それでも、咄嗟に僕の背中を炎で焼いた。

「ぐああっ!!」

校庭を転がることで火は消えたが、制服の背中が焦げてしまった。露出した素肌も軽く火にあぶられてしまった。くそ、まだ熱いっ……

「っ……志、輝……」

それを見ていた陽祐が、震え、呆然と声を漏らした。

僕を殺すつもりなら、今がチャンスだと言える状態なのに。

……陽祐、お前は。

「何やってんの?ヒナタあ〜……随分余裕そうじゃない。遊んでるの?」

またフィアーズが、陽祐に言葉を掛ける。

何か、何かがおかしいように思える。

参加者と実行委員の間には、少しでも、互いに共闘するパートナーであるという連帯感がある。

僕とエリクシルはそこまででもないが……僕は彼女に、僕に能力を授けたというだけの、パートナーとしての意識はある。

しかし、彼らには、僅かな信頼感すらも感じられない。まるで、陽祐がフィアーズに戦闘を促されているような……脅されているような。

さっきの会話に出た、“妹”が関係するのか?

「遊んでなどいない!」

「んじゃあ、さっさと殺しなよ。大事なんだろ?“妹”ちゃんがさ。他の誰の命よりもさあ!」

また出た、“妹”。

「おい陽祐。“妹”って……月乃の事か?」

陽祐の妹とは、火事で命を失った月乃のことだ。脅されているなら、人質を取られているのかと考えられても、月乃はすでに死んだ人間だ。死んだ人間を人質には取れない。

僕は見ている。葬式の場で……

「違うよ」

僕の問いには、陽祐ではなくフィアーズが答えた。違う……?

「この「戦い」は、参加者の望みを叶える為の戦い。そしてボクの担当のヒナタの望みは、幸せな世界で、大好きな“妹”ちゃんと共に生きることなのさ!」

高らかに言葉が紡がれていく中で、陽祐は奥歯を噛み締める。

「言うな、フィアーズ!」

「だから、ボクに怒る暇があるんなら、さっさと二人を殺せって言ってるんだよ」

気味の悪い笑顔はそのままに、声を低めて苛立ちを露にするフィアーズ。

彼は、僕の知る実行委員で、一番実行委員らしいと見える。

エリクシルもレジストも、まるで「戦い」を避けているような、実行委員とは思えない行動をしているからだ。

彼の方がいかにも実行委員らしくて……簡単に敵だと思える。

「志輝……俺は……お前を、殺す」

「……そうか」

そして……陽祐も、敵として僕の前に立ち塞がる。

僕は心の奥で、まだ陽祐と戦いたくないと思っている。アエリアのように、共に戦えたらとも、願っている。

でも。陽祐はこうして、敵として対峙する。

戦うしか、ないんだ。

「なら、来い」

「志輝……?」

「僕は、お前と戦う。戦って……生き抜いてみせる!」

僕は生への執念を胸に、未来眼を発動させる。

安定して未来眼を使える、最後の三回目。なのに、発動した時、僕の左目がぼうっと熱を帯びた。いつもの発動時には無い、新しい感覚だ。

そんな左目に映ったモノは、

「……行くぞ!」

僕の真正面を狙う、陽祐の紅蓮の拳だった。

咄嗟に横に転がって、初撃をかわす。

まだだ、まだ未来を見せてくれ、僕の眼よ!

「くっ!」

左目の映像通りに陽祐が動く。その動きを見切り、二、三撃と避けることに成功した。

何故だろう。五秒以上を過ぎても、左目の銀のシェルターはまだ降りている。未来が、見え続けている。

……五、六……七っ!

しかしそのお陰で、僕は陽祐の連撃を何とか逃げ切ることができた。

「な、何故だ!?何故当たらないっ!!」

一度距離をとる陽祐は、攻撃を回避され続けることに焦りを感じている。

そうして精神が疲弊し、攻撃が乱雑に、大振りになってくれれば、より避けやすくなる。

左目に映る陽祐もまだそこから動かない。少しの間は様子見しつつ、呼吸を整える。

「……」

左目が熱い。火に焼かれたのではなく、頭の内側から。

心臓の鼓動が全身に感じられる。

感覚が、研ぎ澄まされている。

陽祐の連撃、普段の僕なら身体がついていけず食らっていたはずだ。なのに、今は身体が軽い。

僕は……どうしたのだろうか。

「少年」

後ろから、時雨が小さく話し掛けてくる。

「私は、誰も殺させない。場合によっては、少年にも刃を向けるだろう。一度は護った命だが、その時は……許せ」

「元より僕達も敵同士だ。今までお前が、僕を助けた事自体が異常だ……いつ攻撃されても、文句は言わない」

丸腰相手には、刃も鈍る……か。愚直な侍だな。

まあ、アエリアみたいに馴れ合わないだけ、気が楽だ。

ただ死人を出さない為に動く、中立の存在。それが一ノ宮時雨という男なのだろう。

「志輝ぃっ!!」

陽祐の咆哮。左目が、一足先に陽祐の動きを捉える。

時雨はその場から離れ、同時に陽祐が炎の噴射と共に、僕の眼前に飛び込んでくる。

「うおおっ!」

左っ……は、フェイクだ!

左目に映る動きに合わせてかわすのだが、フェイクが混ざると直前まで判断が難しい。

付け焼き刃の見切りじゃ、まだ不安定だ。

今のは何とか避けられたが。

「攻撃を見切る眼の能力か?志輝っ!」

「うるさいなっ……口より拳を動かさないと、僕は、殺せない!」

「お前こそ!逃げてばかりじゃ、俺に勝てないぞ!」

こうして挑発することで、少しでも攻撃を拳に絞らせる。炎の攻撃は避けようがないからな。

今の僕なら、拳だけなら、何とか避けられる!

「でもな、志輝……っ!」

フェイクを交えた拳の雨が一旦止んだかと思った瞬間。

僕の本能が、左目が、警告を発した。

「こいつは避けられないだろ!」

一歩下がった陽祐は、右腕に力を込めると共に、炎を周囲に拡散させる。

「岩山崩すは疾風、翔よ刀刃の閃き!全てを切り裂く!抜刀!」

僕の命の危機を察したのか、僕の前に飛び出してきた時雨が、鞘から白刃を僅かに抜く。

天火明命アメノホアカリ!!」

「奥義!無影刃!!」

陽祐の周囲に拡散した炎が無数の火球になり、流星群のように僕と時雨に向かって降り注ぐ。

それを、時雨が刀の一振りで生み出した、無数の小さな真空の刃で相殺させていく。

紫の空に、紅蓮が散っていく。

「邪魔だっ!」

切り裂かれた炎のカーテンの中から、陽祐が飛び出してくる。

時雨が一度攻撃を放った直後、刀を鞘に納める瞬間を狙ったのだ。

「ぐっ!!」

それでも時雨は鞘を引き抜き、それを楯にしたものの殴り飛ばされてしまった。

陽祐は僕の目の前に。

次に炎による攻撃を受ければ、避けることはできない。

いや、今は拳さえも。僕の周囲には地面に残り火が散っている。拳を避けられても、足を焼くことになる。

「……志輝」

腕の炎が、陽祐の右の拳に収束される。炎が拳をかたどる、迩迩芸命と呼ばれた技だろう。

「今度こそ、さよならだ」

「……それは、どうだろうな」

僕はこの状況でも、薄く笑みを作る余裕があった。

今も尚熱を帯びる左目。いつこの力が消えるか分からないが……今左目に映った、未来に希望を見出だしたからだ。

「少なくとも僕はまだ、死んでいない」

「だからっ……俺が今から、お前を!」

この数秒間を……生きた!

刹那、炎の勢いが弱まる。

「な、何っ!?」

それだけではない。陽祐の足下から、蒼く澄んだ氷が這い上がってきた。

陽祐は瞬時に、弱まってもまだ強い炎の拳で、足下の氷を溶かす。

その場から移動しようとする陽祐は、周囲の気温が急激に低下していくのを感じた。

「私を置いていくなんて、危険過ぎますよ。志輝くん」

「……説教なら後で聞いてやる」

初めて戦った時のような冷たい瞳で、アエリアが助太刀に来ていた。

彼女の氷装骨の能力によって冷気が生じ、周囲の残り火が鎮められていた。

「まだ、仲間がいたのか……心底、志輝には驚かされるな」

「……炎の、能力者ですか」

相反する炎と氷が、睨み合う。

「志輝くん、サポートをお願いします。ここからは私が……」

「ストーップ!」

アエリアの身体から放出される冷気が強まったかと思えば、またフィアーズが介入してきた。

「ちょっとちょっと、キミ達何してるの?まさか、敵同士なのに協力してる?これじゃ不公平だとは思わないかな?」

わざとらしく困ったような顔を作って、僕とアエリアに問い掛ける。

「余計な事をするな、フィアーズ。三人になったところで、俺は負けない」

「ん〜その熱い闘志はケッコウなんだけどさ、ヒナタ」

フィアーズは何の躊躇いもなく、炎を纏った陽祐の拳を上から掴む。

「ぐあっ……」

「キミはもう、能力の限界に来てるよね?今日はもう退散だよ」

ニタニタした笑みを見せる細い目の奥に、底知れない邪悪な何かを感じる。

その目でフィアーズは僕を、そしてアエリアと時雨を順に睨む。

「フェアなゲームじゃないとつまらないでしょ?次は一人ずつ、戦ってくれたら嬉しいな」

骨しかないように細い腕を上に伸ばすと、パチンと指を鳴らす。

次の瞬間には、フィアーズと、フィアーズに拳を掴まれていた陽祐の姿が消えていた。

……逃がしたか。



戦闘の跡が残る校庭に、三人の能力者が集う。

「貴方が、志輝くんを助けてくれたのですね。ありがとうございます」

「……命を護っただけのこと」

まるで自分の事のように、僕を何度も救った時雨に礼を言うアエリア。

時雨も表情にこそ出さないものの、少し戸惑っているようだ。さっきからずっと目を閉じている。

「誰も殺さず、殺させない……貴方の考えは、私達も同じです」

同志を見つけたことに興奮気味なのか、アエリアは時雨に掴み掛かる勢いで迫っていく。

「……そうか」

それに対して確実に引いている時雨の心労、僕には分かる気がする。

……待て。「私達」って、僕も含まれているのか?

「ですから、これから先も。同じ思いを持つ私達で、協力していきませんか?」

ついに、アエリアは共闘する仲間に時雨を勧誘し始めた。つくづく変な奴だ、こいつは。

「断る」

しかし、アエリアの誘いは呆気なく両断される。

「私は誰の命も護りぬく。貴公らの敵を貴公らが殺そうとするならば、私は貴公らを斬るだけだ」

「わ、私達はそんな……」

必死に説得しようとするアエリアを、手で制する。

「志輝くん……?」

説得など、時雨には無駄だ。

少しの間だけでも十分分かる。

こいつは自分の信念を貫くことに、全てを懸けて生きている。

そんな頑固な奴を、言葉だけで動かすのは無理だ。

「……助かった」

「……うむ」

だから、短い言葉を交わすだけでいい。お互いに深く踏み込まないから、それだけでも十分だ。

時雨は静かに、居合いの時に見せる俊敏な動きでこの場を去っていった。

「志輝くん……私、本当に心配したんですよ?ですから、私がすぐに助けに行けない時の為に、一ノ宮さんに共闘をお願いしようとしていたのに……」

「余計なお世話だ。僕だって、生き残るくらい……」

怒るアエリアに反論していると。

ズキンッ!!

「ぐ……ああっ!!」

突然、左目に凄まじい激痛が走った。

「し、志輝くんっ!?」

熱い……左目が、熱い……っ!!

戦闘が終わった後も、今までずっと、左目には銀色のフィルターがかかっていた。

溶かした鉄をそのまま流し込まれたような激痛に耐え切れず……

僕の意識が、途切れた。


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