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能力者たち

「おはよっ、志輝っ!」

「……ああ」

かなめとの挨拶もそこそこに、僕は陽祐の在籍する隣のクラスへ向かう。

今日は日曜日。だが、この姫梨ヶ丘学園は、学力低下が嘆かれる昨今に一石を投じるべく、学期毎に一回、日曜日の午前中にも授業を行うという制度を今年度から取り入れたらしい。各所の反発は大きいが、少なくともこの一年の間は強行する姿勢のようだ。全くもって迷惑な話だ。

「ちょっとちょっと。志輝、どうしたの?いつもよりもっと顔色悪いよ?」

袖と肩を後ろから掴まれた。

「昨日ちゃんと寝た?」

「……ああ」

寝たさ。四時を過ぎた辺りに。

少女から陽祐の名前を聞いてしまった後、僕はずっと思考が巡っていて寝付けなかったのだ。

「離してくれ。僕は陽祐に用がある」

「陽祐…………そっか」

陽祐の名前を聞くと、かなめは普段あまり見せない、暗い表情になる。

それはかなめだけの反応ではない。あの“事件”を知る者は、皆似たような反応をするだろう。

「志輝は陽祐の親友だし、陽祐の元気、出してあげてよ。私には……無理みたいだから」

「……そうだな」

かなめは手を離すと、僕を不安そうな、潤んだ瞳で見つめてくる。

あの“事件”からずっと、幼なじみとして、陽祐に元気になってもらいたくてかなめは度々話し掛けているのだが……かなめでも、難しいようだ。

僕にだって、陽祐を元気にさせられるかは分からない。第一、元気にさせるような話題をしに行くわけではないからな。

だが……僕も、陽祐には元気になってもらいたいと思っている。

あの頃とはまるで別人になってしまった、陽祐には。

教室に入ると、陽祐はすぐに見つかる。

一番窓側の列の、一番奥の席。

クラスの輪から隔離されたかのような位置で、頬杖を突いてぼうっと朝の青空を眺めていた。

「……陽祐」

声を掛けるが、反応は無い。ただ、空を眺めているだけ。

あの“事件”以来、彼は魂の抜けた抜け殻のように生きている。



……ほんの数週間前のことだ。

陽祐の自宅が、火事によって焼失した。

その時陽祐は、遅くなってしまった部活からの帰り道で。

家の前に着く頃には……彼の家は、紅蓮の炎と立ち込める黒煙、様々なモノが焼ける異臭に包まれていた。

周りの民家より大きな邸宅だったからだろう、消防隊ですら手のかかる、大規模な火事だった。

ニュースによるとそれは放火で、犯人は未だに見つかっていないようだ。

家には、彼の母親と、妹がいた。

父は小さい頃から居ないと、昔陽祐から聞いたことがある。

様々な苦労を抱えながらも陽祐を強く励ましてくれる母、そして、いつも陽祐のすぐそばにいて陽祐を支えてくれる妹は、陽祐の誇りだった。

特に、彼の中で妹の存在は特に大きく、僕から見ても素晴らしいと思えるくらいに強い絆で結ばれていた。

そんな彼の大切なモノ達が、焼けてしまった。

我を忘れ、燃え盛る家に向かって大声で泣き叫んでいた陽祐の姿を、今でも鮮明に覚えている。

心の支えを焼失した陽祐は、昔のような元気な姿をも失ったように、今を無気力で生きている。



「陽祐」

もう一度呼ぶが、やはり反応は無い。

元気で、お調子者で、誰かへの思いやりに満ちた、僕の親友。

……そいつが、「戦い」の参加者だなんて。

「お前の能力は何だ?」

こう言ってやれば、嫌でも陽祐は反応するだろう。

思った通り、陽祐は反応を示した。

頬杖を突いて空を見上げたまま……暴力的な威圧感、殺気を放っているのを感じる。

「……志輝」

数週間振りに、僕の名前を陽祐は呼んだ。

「お前も……参加者、なのか……」

「……そうだ」

擦れた声に、僕は答える。

やはり……そうなのか、陽祐。

「俺の能力は……戦う時になったら、見せてやるよ」

「……賢明な判断だ」

わざわざ敵に、戦う前から情報を与える意味は無いからな。

「……お前は、俺と、戦いたいのか?」

「僕は、お前とは戦いたくない」

無造作に伸びた髪の先を一本引っ張る陽祐。何かを考えている時の、陽祐の昔からの癖だ。

「……それは、俺に同情しているからか」

「違う」

「じゃあ……何故だ」

「……幼なじみだからだ」

「……幼なじみ、か」

陽祐の発する威圧感が、消えた。

「そうだな……俺も、お前を殺したくない。月乃の、初恋の相手だしな」

……そんな話もあったな。

日向月乃。陽祐が最も大事にしていた、陽祐の妹だ。

小さい頃から陽祐にくっついていた月乃は、僕とも面識があった。

彼女は僕の左目が銀になってから出会い、初めて出来た友達でもあった。

「……志輝」

陽祐はゆっくりと、今まで背けていた顔をこちらに向ける。

「今日、授業が終わったら、家に来ないか?」

「お前の家……?」

陽祐を疑いたくはないが……「戦い」の参加者である以上、この誘いには嫌でも警戒してしまう。

「……やっぱり、敵地に乗り込むのは嫌か」

くまが出来ている目を細めて、苦笑を漏らす陽祐。見ていて、辛くなるくらいに痛々しい顔をしていた。

「……すまない」

「いいさ。……断る方が普通だ」

陽祐は再び窓に顔を向ける。

……もう、話すことは無いということか。

「……生き残れよ」

「……志輝もな」

最後にそれだけ言葉を交わすと、陽祐に背を向けて教室を去った。



昨日聞いた参加者の名の中で、心当たりがまるでない「一ノ宮時雨」。

一ノ宮という姓には、前にどこかで聞いた覚えがあるのだが。

「……で、なんとその時、恵莉ちゃんがまさかの革命返し!見事に負けちゃいましたっ」

授業が終わり、帰り道。隣では偶然遭遇した千里が、今日の休み時間での出来事を楽しそうに話している。

「お兄ちゃん?難しい顔をしてます……どうしたんですか?お腹痛いんですかっ?」

「……何でもない」

千里は話の反応に乏しい僕を心配しているようだ。

これでは集中して考えられない。家に戻るまでは、千里の相手をしてやるか。

「……お兄ちゃん」

「何だ?」

「今日、お家に、恵莉ちゃんを呼んでもいいですかっ?」

「……恵莉ちゃん?」

千里の話に良く出てくる、千里の友達のことか。

昨日一日でうんざりする来客が三人ほどいたから、今日は静かに「戦い」について考えられると思っていたのに。

……まあ、千里がこうして友達を家に招くことなど、今まで無かったからな。

「家の昼食が済んだ後、客間を使うだけなら、いいぞ」

「むきゅっ!ありがとうございます、お兄ちゃんっ」

千里はくるくる回りながら、喜びを表すように踊りだす。

もしそいつが、六人目の能力者だったら……僕が千里を守ってやらなければ。



頭が痛い。

「お茶、おかわり」

「いいですよ〜っ♪」

昼食を終えて、千里が恵莉ちゃんとやらを迎えに行ったまではいいのだが。

千里が客間に連れてきたのは、昨日と同じようにお茶を要求する、実行委員のピンク髪の少女だった。

「千里、少し待っていてくれないか」

「むきゅ〜……?」

千里の首根っこを掴み、客間から少しの間退場してもらう。

「何故お前がここにいる」

「……千里に、呼ばれたから」

まさかお前が、散々話に出ていた恵莉ちゃんなのか?

「お前の名前、恵莉なのか」

「違う」

違うだと?偽名なのか?

「本名は?」

「……私の名前に、興味は無いって言っていた」

「……事情が変わった」

何故実行委員が偽名を使い、姫梨ヶ丘学園に通い、千里と遊ぶような仲になっているのか。新たな疑問が出てきたからな。

「私に名前は無い。実行委員の間ではエリクシル、他の場所では九品恵莉クシナエリの名前を使っている」

エリクシルに、九品恵莉……似通った名前だ。

名前は無い、とはどういう意味なのだろうか。

「貴方を監視する為に姫梨ヶ丘学園に入学したのだけれど、学年を一つ間違えてしまった」

そう、なのか。何というか、やはりどこか抜けている性質のようだ。

「いつからだ」

「先月の入学式から」

「……そんな前から?何故だ。その時僕はお前と出会っていない。監視する意味など無いはずだ」

「……今は、言えない」

エリクシルは顔を背ける。先月から僕を監視する理由……気になるが。

「お兄ちゃ〜ん……もういいでずがぁ……?」

扉の向こうから、千里の泣き声が聞こえてきた。すっかり忘れていた。

「……千里と遊ぶ」

「……好きにしろ。後で聞かせてもらう」

なんだかんだで、こいつも千里と遊びたがっているようだ。血生臭い「戦い」を管理する実行委員とは思えない。

僕は嘆息しつつ、客間を後にする。

「悪かった。もういいぞ、千里」

「むきゅ〜……お兄ちゃん、恵莉ちゃんと友達だったんですかぁ……」

「……そんなところだ」

全然違うがな。

誰がこんなよく分からない奴と、友達になんかなるものか。



「チィ、うざってェッ!」

宵闇に包まれた太刀川市の郊外にある森に、レオの咆哮が上がる。

「さっさと刻まれちまえよォ、この雑魚がッ!」

地を踏みしめるレオの足が、渦巻く風へと“変わる”。彼の能力「瞬風脚」が発動したのだ。

両足が風に変わり、渦巻く勢いに乗って滞空する。

「吹き荒べ、フェニック・ガストォッ!!」

叫ぶレオの周囲を渦巻く風が、勢いを増す。

それは、さくらい孤児院で操ったもの以上の大きさを誇る、強大な竜巻へと昇華した。

能力は、使えば使うほど強くなっていく。

能力を手に入れてから、毎日のように上限を超える数を使い続けてきたレオ。

過負荷による激痛に耐えながら強化してきたその能力は、威力だけなら、恐らく現時点で参加者中、最強を誇るに値するものだろう。

しかし、それ程強大な力を前にしても、先刻からレオと対峙している青年は、眉一つ動かさない。

ただ、静かに……目を閉じていた。

「死ぬ覚悟が出来たんなら、さっさと吹っ飛んじまいなァッ!!」

レオの声と共に、強大な竜巻が、青年を巻き込み吹き飛ばそうと迫ってくる。

その中で青年は、腰に差した鞘に手を掛ける。

「風に柳、柔よく剛を制す。……抜刀」

風の唸りに掻き消されそうな囁きと共に、青年は鞘に納められた長身の日本刀を一気に引き抜く。

白刃が閃く刹那。

青年に襲い掛かっていた竜巻が、横一文字に“両断”されて消滅した。

「ん、だとォ……」

レオは滞空の為に残しておいた僅かな風を使い、着地する。

同時に能力を解除し、足が戻るが……脛の辺りに、横に一閃された傷痕が刻まれていた。そこまで深くはないが、血が垂れている。

「秘技、雲海断刀……まだまだ、完成には精進が足りないようだ」

青年は嘆息しつつ、刀を鞘に納める。

ここが普段人気の無い森の中だからだろうか、真剣を帯刀する青年。その目は細く、レオを捉える。

彼らが「戦い」を始めて、二時間が経つ。だが内容は、今のように、レオの渾身の攻撃を青年が受け流すだけのものだった。

能力を全力で使い続け、体力も残り少ないレオとは対照的に、青年は汗一つかかず、呼吸も乱れていない。

「……勝負は付いた。これ以上は無意味だ」

完全に戦局を圧倒しているはずの青年は、対峙するレオにそう告げると踵を返そうとする。

「待てよ。何が「勝負は付いた」だァ?……俺はっ、まだ生きてるぞ!」

「息も絶え絶えな貴様が、吐く台詞とは思えぬな」

「この「戦い」は殺し合いだろが!相手を仕留めねェままで、勝った気でいるんじゃねえよ!!」

レオは力を振り絞って、再び能力を発動しようとするが……

「!!ぐうっ……」

今まで以上の激痛が足に走り、本能が能力の発動を抑えた。立ったままでいるのが不思議なくらいの、鈍い痛みが足を襲う。

「若き者が、死に急ぐものではない。それに……私は、決して人を殺さぬ。例え「戦い」であったとしてもだ」

青年は感情を押し殺した顔で言うと、宵闇が降り先が見えない森の中へと消えていく。

「くそォッ!!まだ俺は負けてねェ……負けてねェぞォォッ!!!!」

手負いの獅子の咆哮は、更けていく夜の空に轟いた。



謎の少女……エリクシルは、九品恵莉として姫梨ヶ丘学園に在籍している。

そして、僕を含め、生徒の中には三人の能力者が紛れ込んでいる。

偶然……なのか?

まだ契約していない六人目とやらまでここの学園の生徒だとしたら、本気で疑ってもいいだろう。

今からでも、少しずつ調べてみても何か……

「志輝くん?……聞いてますか?」

突然、トントンと僕の肩が指で優しく突かれる。

「……ああ、すまない」

「もう……やっぱり、聞いていなかったんですね」

曖昧な返事をするとアエリアは、千里がいつもするような、ぷくっと頬を膨らませて怒る様子を見せた。子供か。

「ですから、隔離空間のお話です。志輝くん、まだ隔離空間の説明は聞いてないみたいですから」

エリクシルが千里に呼ばれて家に来た翌日、僕はアエリアに前からの疑問をぶつけていた。

昨日は結局、千里と遊んだ後すぐに帰ってしまったから、色々なことについて聞く機会を失っていたのだ。

「隔離空間とは、能力者のみが使える、現代社会へ「戦い」の被害を出さない為に構築される世界です」

アエリアは何故か少し嬉しそうに説明を始める。かなめや千里もそうだが、アエリアはエリクシルと違い、見ていると表情がよく変わる。

……いや、エリクシルと比べる方がおかしいのか。

「各能力者は一日二回まで、隔離空間を発現できます。やり方は簡単です。頭の中で、球体が弾けて拡がっていくイメージをしながら、「隔離空間、発現」と唱えるだけです」

球体が弾けて、拡がっていくイメージ……?よく分かりにくいな。

「でしたら、牛乳を思い出してくださいっ」

「ぎゅ、牛乳?」

さすがの僕でも詰まってしまった。何故牛乳なんだ。

「牛乳のパッケージによくあるような、雫が落ちた時に王冠みたいに弾けるイラストがありますよね?雫が零れるところから、弾けてその波紋が拡がっていくまでの流れを思い浮かべると簡単ですよ」

……まあ、確かにそれならさっきよりかは分かりやすいが。

「牛乳、好きなのか?」

「ええ、とっても好きですよっ」

接してきた期間は短いが、この時のアエリアは、恐らく今までで一番いい笑顔をしていた。

そんなに好きなのか、牛乳。

「どうです?試しに一回、発現してみませんか?」

「……そうだな」

いつ襲撃に遭っても、戦闘で周囲を巻き込まないためにもマスターしておく必要があるだろうな。

僕は頭の中で、零れゆく一滴の雫が落ち、それが波紋となって拡がっていくイメージを浮かべる。

「隔離空間、発現」

意図せずいつもより低い声色で発した言葉と共に、教室の照明が消え、朝の青空が薄暗い紫に染まる。

アエリアが戦闘の度に展開していたものと、全く同じものだった。

隔離空間の発現、成功したようだ。

「わ……一回で成功できるなんて、すごいです!」

何故か感心されてしまった。

しかし、僕にこんな能力まで与えられていたとは。エリクシルめ、実行委員としての役目くらい果たしてから遊びにこい。

「この世界は、一時的に通常の時間の流れから切り離されて出来ます。ですから、発現する前の時間と解除した後の時間はほぼ同時。時間の流れからすれば、この世界で何時間経とうと、ほんの一瞬なんですよ」

周りの生徒達の姿が消えたため、アエリアの声が教室によく響く。

気になっていたのだが……この空間では、「戦い」の参加者や実行委員以外の人間はいなくなるんだな。

戦闘に無関係な人間を巻き込まない為の空間だから、当たり前だとは思うが。

「この空間の中で動けるのは、「戦い」に関する人間だけなんだな?」

「はい。といっても、隔離空間の範囲にも限界はありますから、その範囲内にいる人だけですが」

この世界全てが隔離されるわけではないのか。

「その範囲はどうなっている?能力者を中心として展開するのか?半径は?範囲は発現した能力者によって違うのか?」

「わわ、いきなりたくさん質問されても困ります……」

……すまない。

「申し訳ないのですが、それらはまだ、よく知りません。世界には境界があって、範囲はとても広いってくらいしか……」

「……そうか」

近いうちに、どうにか距離を測ってみるべきだろうな。

もしかしたら、未来眼と同じように、使うたびに範囲が広くなっていくのかもしれないが。

「……ところでアエリア、この空間は、どうすれば解除できる?」

発現する方法は聞いても、解除する方法はまだだからな。

「それなら……」

アエリアが説明しようと口を開いた時。

突如、学園中に大きな衝撃が響いた。

「きゃあっ」

「く、襲撃か!?」

レオか?一ノ宮時雨か?六人目?それとも……陽祐か?

教室の窓を開けて、外を見る。

すると、校庭に誰かが立っていた。こちらを、見ている?

遠いのでよく見えないが、この隔離空間内で動ける人物だ。実行委員か参加者か、どちらにしてもさっきの衝撃に関係しているはず!

「し、志輝くんっ?」

僕は教室を飛び出し、校庭へと走る。



校庭に着くと、教室の窓から見た人物に加え、もう一人……過去からタイムスリップしてきたかのような印象の、いかにも侍といった見た目の青年がいた。

何故青年が侍のように見えたか……それは、腰に差した日本刀が全てを物語っている。

「おやおや、もう一人来ちゃったかあ。残念残念」

窓から見えた方の人物は、まるで骨格標本が服を着たといった形容がよく当てはまる、細身の男性だった。気の弱そうな顔をして、スーツの襟を整えている。

「じゃあもう一度、自己紹介しようかな〜。ボクはフィアーズ。実行委員だよ。よろしく、お二方」

長く伸びた前髪を払って、ぺこりとお辞儀をしてくる実行委員……フィアーズ。

常に目を細めているせいか、不気味な笑みを張り付けているように見える。エリクシルとはまた違った、思考の読めない奴だ。

「今の校舎の衝撃は、お前らか?」

フィアーズが実行委員だとすれば、この侍はそのパートナーの能力者だろう。

僕はいつでも未来眼が使えるように、左目に手を翳す。

「……違う。私は、彼とは違うパートナーだ」

すると、侍の方が、僕の考えを否定してきた。ならフィアーズは、誰の……?

「さあ、能力者たちよ、「戦い」の始まりだ。それぞれの求めるモノの為、命を奪い合い、殺し合えっ!」

フィアーズが突然叫びを上げたかと思うと……紫の空に突然、紅蓮の光が煌めいた。

僕はその光の元……校舎の屋上を見上げると同時に、未来眼を発動させる。

薄い銀のフィルターがかかる左目の視界には……僕の今いる位置が、爆発する映像が映った!?

間に合うかっ?

僕は出来る限りそこから離れようと、不恰好だが前に飛び込む。

瞬間。僕の背中で、何かが爆発した。

「ぐっ!?」

爆発に巻き込まれなかったものの、その爆風によって砂のグラウンドを転がっていく。

くそ、一昨日も風で吹き飛ばされたというのに。

「少年、上だ!」

侍の声で我に返る。僕の真上から、巨大な紅蓮の火球が迫っていた。

速度、大きさ、炎の密度……これは、避けられない上に、一撃で消し炭になる。

こんなところで、僕は……っ。

「林に迅風、剛を以て剛を断つ。抜刀!」

侍の声が聞こえたかと思うと、僕の頭上の火球が、縦に斬り開かれて僕の両側に着弾する。

「秘技、朧半月……無事か、少年。下手に動かずにいたお陰で、直撃は免れたようだな」

いつの間にか刀を抜いていた侍は、すでに何かを斬った後のような、刀を振り下ろしたままの状態で声を掛けてくる。

まさか、侍は最初の位置から動いていないのに、あの火球を斬ったというのか……?

「……ああ。すまない、助かった」

僕は体勢を立て直すと、屋上を見上げる。

この炎の主は一体……

「……やっぱり、こんなオモチャみたいなもんじゃ、簡単にやられてくれないか」

声は、空から降ってきた。

瞬間、僕の背後に再び炎が燃え上がる。

今の、声は。

「まさか、能力者同士で助け合うとは思わなかったな。……流石は志輝だ」

「お前……どうして」

振り返ると、鼻先を炎が掠めて戦慄する。

すぐに後ずさると、屋上から降りてきたらしい炎の主は、痛々しい苦笑を浮かべていた。

「僕を殺したくないんじゃ、なかったのか?……陽祐」

名前を呼ばれ、陽祐は虚ろな目で僕を見つめた。

「……すまない。悪いが死んでくれ、志輝」

陽祐は、ゆっくりと、僕に拳を向けて告げた。

彼の両腕は……あの“事件”の時のように、紅蓮の炎に、包まれていた。


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