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力の結晶

『図体の大きさが君の取り柄だと思っていたんだけどなあ。まあいいけどね、どうやら目的は果たしてくれているようだし』

実体の無い実行委員、ファミリア。僕に魔王眼の能力を与えた、本来のパートナー。

「ファミリア……」

『魔眼、開いちゃったんだね朔来志輝。なら、ボクとの秘密の関係ももう隠せないかな。ふふっ』

妖艶な笑みを浮かべ、ファミリアは実体なき光の身体をこちらに近づけてくる。

鬱陶しい。どういう構造をしているのだろうか、このホログラムは。

「か、関係、ですか?」

『そうさ。でもそれはボクから宣言することじゃないと思うんだ。ね、朔来志輝? こういうの、男の子から言ってもらいたいよ、ボクは』

ファミリアの微笑に対比するように、アエリアの表情が曇っていく。

僕が奴らの仲間だと勘違いしそうな言い回しを敢えて選んだな。

「ややこしい言い方をするな。……ファミリアは僕の本当の担当らしい。不本意だがな」

『随分嫌われてしまったようだね。ボク、何か気に障ることでもしたかなあ?』

眉根を下げるだけの、形だけの落胆を見せ、そのホログラム体は恐怖に囚われている男に向かう。

目的は男ではなく、背負っているリュックのようだが。

『君がこのタイミングで魔眼を開いてしまったのは計算外だったけれど、まあ結果オーライって感じかな。スペリオルももう使えないみたいだし、ちょうどいいや』

言いながら、ファミリアの身体を作る緑光がその形を崩すと、その光が男……スペリオルのリュックの中に吸い込まれていく。

『“絶対”と、能力者レオ・マイオールの血を持つアルーフ。揃えることができたよ』

もはやどこから声が聞こえるのか。耳ではなく頭で聞こえるような声が、僕達の身体を震わせる。

それに……レオが、何だと言うのか。アルーフとは何だ。何故ここでその名前が出てくる。

「志輝ィッ! 左だ避けろォッ!」

と、思考に意識が集中している時だ。

「ガアァッ!」

聞くものを戦慄させる咆哮と共に、凄まじい突風が襲ってきた。

咄嗟に魔王眼を発動し、無理矢理体を右に捻って地面を転がる。間一髪、左腕の袖を掠めただけで、回避することができた。

「グルルゥ……」

突風の正体は、僕を瀕死まで追い込んだ、あの獣だ。

まずい。陽祐もアエリアも、自分の身を守るだけの能力も行使出来ないほど限界が近い。

魔王眼が動物相手に有効なのかは流石にわからない。身体強化だけでは成す術がない、能力者のような獣には分が悪すぎる。

『良いタイミングで帰ってきたねアルーフ。仲間の臭いでも嗅ぎつけてきたのかな』

獣はスペリオルのリュックに近付くと、その場で体勢を低くし、それに威嚇の眼光を向けた。

あの獣も、目的はリュックの中身なのか。ファミリアの態度に対して、飼いならされているようには見えないが。

『思い出さないかな、朔来志輝。このアルーフを見て、「戦い」の脱落者レオ・マイオールのことをさ』

レオ・マイオールと、獣。

確かに、獣と初めて相対した時にも感じた。見た目から戦い方まで、似通った所が多過ぎる。

わざわざファミリアが口にするのだ、その間には何か関係があるのだろう。ろくでもない何かが。

『参加者に与えられた能力は、常人を遥かに超える力を扱う。その力を行使することは、人間という枠組みから外れていくということだ』

人間を超えた能力を持っているから「能力者」。そんなこと、誰でも分かりきっている。

何故急に、この話を。

『「戦い」が始まってから今日に至るまで、君達は一体何回能力を行使したのだろうね? たくさん訓練しただろうし、殺し合いもしてきた。それはもう、数えきれないよね』

「それがどうした」

『能力を使う度に強くなるのって、どうしてだろうとは考えなかったのかな? 自分の限界が目に見えて広がっていくことに、何の疑問も持たなかったのかな?』

「何が言いたいんだお前はッ?」

陽祐が吠える。ファミリアは変わらず嘲笑を含んだ声を漏らし、その怒りの炎に油を注ぐ。

そして口にした。ろくでもない事を。

『能力者は身体なかみに獣を飼っているのさ。獣が宿主に力を与える。獣は能力が使われる度に強く育って、ついにはその宿主を喰らい尽くす。そうして現れた獣は純粋な力の結晶として、“絶対”を扱うに相応しい血を流してくれるんだ』

その声が、言葉が、鉛のように僕たちにのしかかってくる。

能力者の中に、あれと同じような獣がいる。宿主を食い破り、肉の檻から出たがっている獣が。

だとすれば、あのアルーフと呼ばれた獣は。

『本来は殺し合いの中で能力を強くしてもらって、勝ち残った最後の一人だけが獣になるつもりだったんだけどね。君たちは殺し合いじゃなくて団結しちゃうし、レオ・マイオールは勝手に予想以上の力まで育てちゃうしで、その予定は滅茶苦茶になっちゃったよ』

あれは、レオだというのか。

「グアァッ!」

獣は後ろ足を風に変え、その風圧で一気に跳躍しスペリオルに飛び掛かる。

鋭い爪が振り下ろされ、そのリュックを人間ごと刈り取るように狙う。

『こら、おとなしくしなさい』

爪がリュックの繊維にすら触れることなく、突如強く発光した緑光に獣が吹き飛ばされる。

あの光は能力を無効にするだけじゃなく、風のように圧力を持っているのか。その証拠にリュックの皮がボロボロに破れ、風に飛ばされていた。

獣はファミリアの威圧する緑光に危機を感じたのか、距離を取って様子を伺っている。

今は僕やアエリアたちに敵意が向けられていないらしいことが、唯一の救いか。

『あんまり遠いところに行かれると困っちゃうなあ。疲れちゃうじゃない』

声を受け、獣がまた一歩距離を置いた。ファミリアの声から滲み出る威圧感に、僕達の足も震えを帯びる。この行方も分からない声がまた、不安を煽ってきて嫌らしい。

リュックが破れたことで露わになった緑光の正体を見て、僕はふと服のポケットに手を当てる。

あれは、以前僕が実行委員を撃退した時に拾った黒水晶と同じモノだ。緑光を帯び、心臓の鼓動のように明暗を繰り返している。

ただし、大きさはその比じゃない。登山用のリュックの中身がそれひとつで埋まるほどに大きい。

「その水晶が“絶対”か? ファミリア」

無駄だとは思うが、できるなら確かめなければならない。

もしそうであったとしたなら、あの獣を水晶に近付けさせるのは得策じゃない。

“絶対”を扱うには獣の血が必要であり、それをまさに目的としているファミリアが近くにいるのだから。

『正解だよ。これにアルーフの血を与えれば、ボクの目的は果たされる。折角だから朔来志輝、担当者をねぎらうつもりであの子をここまで持ってきてくれないかい?』

はぐらかすかと思えば、憎たらしい口調も変えずに答えた。

どういう意図だ、これでハッキリ目的のモノが分かった以上、僕はこいつの目論見を崩すことができるというのに。

僕は漆黒の右目を獣に向けて、意識を集中させる。

『Open Your Eyes...』

脳裏に言葉が浮かび上がると共に、魔王眼の見通す効果を発動した。

獣に対して効果が得られるかはわからないが、実験させてもらう。

「陽祐、アエリア! 僕の合図であの獣の動きを止めて、ファミリアから逃がす!」

「ぐっ……ああ、わかった!」

「は、はいっ……」

二人とも能力を限界まで行使しているために身体の動きは鈍いが、この危険な状況を察知し動こうとする。

『そこまで堂々と作戦会議されるといっそ清々しいんだけどさ、ボクがそれを見逃すと思うかい?』

予想通り、ファミリアは水晶から飛び出し、緑光のホログラム体となって再び僕の前に現れた。

「思わないな」

『だろう? 君が協力してくれればすぐ終わるのに、ボクが動くのって結構大変なんだよ?』

ファミリアはやれやれといった様子で僕と獣の間まで移動する。このホログラム体を作り出すのも、こいつ本人の能力によるものなのだろう。常時発動型で能力無効能力まで扱うのだから、消費が激しいらしいことも頷ける。

それがどういう構造モノなのか、見極めてやる。

僕の右目の意識は、獣ではなくその前に立ち塞がるファミリアに向けられた。

『まさか、ボクに魔眼を見せるつもりかい? やってごらんよ』

こいつは実体が無い。どんな能力かも分かっている以上、少ない力で無力化させられないことは承知の上だ。

こいつには問答無用、ボディイメージを崩して身体を動かせなくする!

魔王眼の視界がより一層黒みを増した。対象の全てを見通した合図だ。

「お前にはじっとしていてもらうぞ」

『お前にはじっとしていてもらうよ』

『……あらら』

二人から同時に、同じ言葉が発せられる。

ファミリアは油断しているのか遊んでいるのか、無効化能力を使わずに僕の支配を受けた。

気味が悪い、早く獣を逃がすのが良さそうだ。

「今だ!」

僕の声を合図に、陽祐とアエリアが力を振り絞って獣に向かう。

獣は僕の支配を受けてはいないが、その敵意が未だファミリアと“絶対”に向かっているようで、逃げ出す仕草が見られない。

「気絶させるだけでいい、煌めけ炎ッ……!」

限界以上の能力行使に顔を歪ませるが、陽祐の拳が熱せられて赤く染まる。

その拳がスッと開き、まるで熱せられた鉄刀のように赤い手刀が獣の首元を叩いた。

獣は最後まで一切の抵抗を見せず、その場に地響きを立てて崩れ落ちた。

「簡易的にコールドスリープを掛けます、離れてください」

アエリアの白い肌がさらに青白く薄く発光し、獣の身体に薄い氷がラップのようにまとわりつく。

『困ったなあ。どうしてくれるんだい朔来志輝、せっかくのチャンスが台無しじゃないか』

「知らないな。お前はこのまましばらく、あのスペリオルとか言う奴とここにいるんだな」

『それは本当に困るんだけど』

最後により一層強い静止の力をファミリアの身体に掛けて、僕は強化された力を使って獣を軽々背負った。

「帰るぞ」

今度こそ、二人を休ませてやらないといけない。

動けない実行委員二人を置いて、僕達は山を下りて行った。



強力な相手に力で負けても、戦闘自体に勝つことに関して魔王眼の能力は役に立つ。

これをさらに強化できれば、実行委員はおろかこの「戦い」にだって容易に生き残れるだろう。

だが……それは僕の中の獣を喜ばせるだけなのかもしれない。

変わり果てたレオを背負い、孤児院へ帰る僕達の前に。

「あんた達……シキ、そいつは……?」

会わせたくなかった、レジストが迎えに来た。

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