第五章 9
深い闇の中だった。
どこまでも沈んでいくような、重たい空間。
押し潰されるような圧力が、ルカの体にのしかかっていた。
「……」
ルカは、ただうずくまっていた。
膝を抱え、顔を埋める。
逃げ場はない。
だが――動く気力もなかった。
その時。
「ねぇ」
また、あの声がした。
「……」
ルカは答えない。
「ねぇってば」
しつこく、同じ調子で話しかけてくる。
「……放っておいてくれ」
かすれた声で、ようやく言葉を返す。
「そんなに一人になりたいの?」
「……ああ」
間を置かずに答える。
「そっか」
少しだけ、声の調子が変わった。
「じゃあ、一人にしてあげる」
「……」
ルカは顔を上げなかった。
だが、その次の言葉に、わずかに反応する。
「でも、その前に――見せたいものがあるの」
静かな声だった。
押し付けるような強さはない。
それでも、不思議と拒めない響き。
「……」
「一緒に来てくれる?」
少しだけ、迷う。
だが――
「……わかったよ」
ルカは、ゆっくりと立ち上がった。
その瞬間。
景色が変わる。
暗闇は消え、目の前に広がったのは――
見覚えのある場所だった。
「……ここは……」
小さな公園。
草の匂い。
土の感触。
風に揺れる木々。
「なんか……見覚えがある」
ぽつりと、呟く。
「この公園で遊ぶの、好きだったでしょ?」
あの声が、すぐそばで響く。
姿は見えない。
だが、確かに“隣”にいる気配があった。
「あなた、どんぐりが好きだったわ」
「えっ……?」
反射的に足元を見る。
そこには、小さなどんぐりがいくつも転がっていた。
ころころと、無造作に。
懐かしい光景。
「……ほんとだ」
思わず、小さく呟く。
「どんぐりの中身って、見たことある?」
「えっ……いや、ないよ」
「見てみたら?」
軽く、促される。
「……うん……?」
ルカは、ひとつどんぐりを拾い上げた。
近くにあった石の間に挟み、力を込める。
パキッ、と乾いた音。
割れた殻の中を、覗き込む。
「……何か、入っていた?」
「うーん……」
ルカは首をかしげる。
「特には……何も……」
「なんか、白っぽいかたまりが少しあるだけ……」
拍子抜けしたように言う。
すると――
「そう……」
優しい声が、答えた。
「でも、それが――」
少しだけ、間を置いて。
「この大きな木になるんだよ」
ルカは、はっとして顔を上げる。
目の前にそびえる、大きな木。
幹は太く、枝は空へと広がっている。
その存在は、圧倒的だった。
「……えっ……」
思わず、見上げる。
「何もないものが……この大木に……?」
信じられない、というように。
その時だった。
胸の奥で、何かがわずかに揺れた。
ほんの、小さな感覚。
だが――確かに、そこにあった。
――
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