表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/55

第五章 7

霧のような意識の中で、ルカはゆっくりと目を開いた。


――そこは、見覚えのある場所だった。


懐かしい匂い。

柔らかな光。

聞こえてくる、穏やかな日常の音。


「……ここ……」


思わず、言葉が漏れる。


そこは、幼い頃に過ごした町だった。


だが、その景色は、ただの思い出ではない。


ルカにとって――

すべてが始まり、すべてを失った“運命の場所”。


平穏だった日々は、ある日、突然に崩れ去った。


地を揺らす咆哮。

空気を裂くような異音。

そして――迫り来る、大型魔獣の群れ。


「逃げろ!!」


誰かの叫びが響く。


人々は混乱し、我先にと逃げ惑う。

泣き声と怒号が交錯し、町は一瞬で地獄へと変わった。


その中で――


「ルカ、こっちよ!」


母の声に導かれ、ルカは必死に走る。

すぐ隣には、姉の姿。


だが――その時だった。


両親は足を止める。


「……ここに隠れなさい」


震える声で、母が言った。


近くの茂みに、ルカと姉を押し込む。


「絶対に、動いちゃダメよ」


「すぐに戻るから」


優しく、だが強く――そう言い残して。


父と母は、振り返らなかった。


そのまま、魔獣の群れの方へと飛び出していく。


「ま、待って……!」


声にならない声が、喉の奥で詰まる。


次の瞬間――


轟音と悲鳴が、すべてを飲み込んだ。


――静寂。


いや、違う。


ルカの耳には、自分の心臓の音だけが響いていた。


ドクン、ドクン、と。


隣では、姉が震えている。


ルカも同じだった。


体は硬直し、指一本動かせない。

声を出そうとしても、喉が凍りついたように動かない。


ただ、恐怖だけが、全身を支配していた。


どれくらいの時間が経ったのか――


やがて、足音が近づいてくる。


ザッ……ザッ……と、規則的な音。


それは、魔獣のものではなかった。


視界の端に映ったのは――


奇妙な防護服に身を包んだ、複数の人影。


無機質な装備。

顔すら見えない仮面。


その一人が、手にした機器に目を落としながら、通信を行っていた。


「……はい。反応を確認」


低く、感情のない声。


「核の保有者らしき対象を発見しました」


一拍の間。


そして――


「……了解。対象者以外は、緊急対処します」


その言葉の意味を、ルカは理解できなかった。


だが、本能が告げていた。


――危険だ、と。


次の瞬間。


強引に腕を掴まれる。


「っ……!」


抵抗することもできず、ルカは引きずり出される。


「やめて……!」


姉の声が響く。


だが、それもすぐに遮られた。


無機質な手が、二人を引き離す。


「いやだ……!」


届かない。


届くはずもない。


ルカは――何もできなかった。


ただ、恐怖に縛られたまま。


声すら出せずに。


引き裂かれていく、唯一の繋がりを――


見ていることしか、できなかった。


――それが。


ルカの、すべての始まりだった。




――

新たな活動報告があります!

ぜひ、ご参照ください





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ