第五章 6
霧の中。
淡い光が、ゆらりと揺れる。
その中心で――
ルカの意識が、ゆっくりと浮上していく。
「……ん……」
重い。
体が、思うように動かない。
視界も、ぼやけている。
「ここ……どこ……?」
声がかすれる。
その瞬間――
「目覚めたか、ルカ」
低く、落ち着いた声。
ルカの視界が、わずかに開く。
そこに立っていたのは――
「……ヒマリ?」
だが、違う。
姿も、気配も。
まるで別の存在。
「我は、陽摩羅」
「陽毬の完全形態じゃ」
静かに名乗る。
「お主を取り戻しに来た」
「取り戻す……?」
記憶が、断片的に蘇る。
渦。
空間。
そして――消失。
「……僕、どうなったのかな?」
「お主は、この繭に取り込まれた」
簡潔に、告げる。
「管理者が、お主を変えようとしておる」
その言葉と同時に――
〝目覚めを確認〝
無機質な声が、空間に響く。
〝ルカ〝
〝あなたは、選ばれた存在〝
「……ベルナか!」
陽摩羅が、わずかに視線を向ける。
〝あなたは、核を持つ者〝
〝そして、その力は既に、わずかに解放されている〝
ドクン……
ルカの心臓が、強く脈打つ。
「核……?」
〝本来、それは守られるべきもの〝
〝特定の者の中で継承され、世界の均衡を保つ存在〝
淡々と続く説明。
〝通常、それが使われる事はない〝
〝子孫へと受け継がれるべきもの〝
「……えっ、受け継がれる?……」
〝ルカは、通常とは違う変化をしている〝
即答。
〝そして本来は、核が七つ揃えば――〝
一拍。
〝完全なる守護神が、解放される〝
〝その為のもの.....〝
静寂。
ルカは、何も言わない。
ただ、受け止めている。
〝ベルナは願う〝
〝あなたの、更なる進化を〝
「……更なる?」
〝その為の触媒がある〝
光が、ひとつ現れる。
淡く、脈打つ輝き。
ルカの目の前に浮かぶ。
〝これを受け入れれば、あなたは進む〝
「やめよ」
陽摩羅の声が、鋭く割り込む。
一歩、前へ。
「それ以上は、不要じゃ」
圧が、わずかに空間を歪める。
「ルカは、これ以上進む必要はない」
沈黙。
ルカは、光を見つめたまま動かない。
「……これを使えば」
ぽつりと呟く。
「僕は……変われるの?」
〝進化する〝
「……強く、なれる?」
〝保証する〝
その言葉に――
ルカの指が、わずかに震えた。
迷い。
ほんの僅かな、躊躇。
ケイタの顔が浮かぶ。
ミイアの声。
さっきまでの自分。
(……怖い)
胸の奥で、小さく響く。
(でも……)
ゆっくりと、息を吸う。
「……僕は」
言葉が、途切れる。
視線が、揺れる。
それでも――
逸らさない。
「僕は……強くなりたい!」
小さく。
だが、確かに。
「必要なら……それを、受け入れる」
静かに、決める。
「なに……」
陽摩羅の目が、わずかに細くなる。
「ルカ……それは――」
「大丈夫だよ」
ルカは、少しだけ笑った。
「怖いけど……でも、やる」
「僕が決めたんだ」
沈黙。
そして――
陽摩羅は、ゆっくりと息を吐く。
「わかった……好きにするがよい」
背を向ける。
「その代わり――必ず戻るのじゃ!」
「うん」
短く、強く頷く。
ルカは、手を伸ばした。
光へ。
一瞬、止まる。
ほんのわずか。
――そして。
触れた。
スッ……
意識が、沈む。
深く。
どこまでも深く。
光が、遠ざかる。
霧が、暗転する。
そして――
ルカの存在は、静かに精神の奥へと沈んでいった。




