第五章 3
「ルカ!」
ケイタの声が、霧の中に弾けた。
「キャア!!!」
ミイアの悲鳴。
――一瞬。
それだけだった。
さっきまで、そこにいたはずのルカが。
……消えた。
何も残っていない。
気配も、痕跡も。
ただ、空間だけがぽっかりと空いている。
「……なんだよ、これ……」
ケイタの喉が乾く。
ヒマリは――動かない。
その場で、しばし。
完全に、茫然。
だが。
ゆっくりと、顔を上げた。
その目が、変わる。
鋭く。
冷たく。
そして――ケイタ達へ向き直る。
「オタンコ!わらわは、これからコマのところへゆく」
「あとは、お前達で何とかするのじゃ!」
真っ直ぐに。
微笑んだ。
「えっ、それはいいけど……ルカの居場所、わかるのか?」
「ふっ……わらわには、無理じゃがの」
一拍。
「他にも方法はある!」
その瞬間――
ヒマリの体が、光を帯びた。
パチッ……パチッ……
小さな閃光。
次第に、強く。
激しく。
輪郭が、揺れる。
――膨張。
シルエットが、大きくなる。
霧が、弾かれる。
光が、脈打つ。
バチバチバチッ!!
空間が、震える。
そして――
収束。
ひとつの“形”へ。
静かに。
立っていた。
……異質。
明らかに、さっきまでとは違う存在。
大人びた姿。
巫女服を基調に。
しかし、その各所には――鎧の意匠。
軽やかさと、戦闘性。
相反するものが、同居している。
「ええ〜〜っ!!!」
ケイタとミイアの声が、完全に重なる。
「えっと……あなたは?」
再び、ハモる。
「我は、陽摩羅!(ヒマラ)」
静かに。
だが、圧がある。
「すべてを破壊する、戦闘巫女じゃ」
空気が、ピンと張る。
「あの……陽毬さんの、お知り合いの方ですか?」
ケイタ、やや距離を取る。
「我は、陽毬の完全形態じゃ!」
即答。
「ルカを取り戻しにゆく……すまぬが、後はたのんでよいか?」
わずかに、微笑む。
「陽毬ちゃん……立派になって……」
ミイア、少しうるっとする。
「いや、それはちょっと違うと思うが……」
ケイタ、即ツッコミ。
「ケイタを頼むぞ、ミイア!」
「おっ!話し方がまともになってる!?」
ケイタ、さらに驚く。
――無視。
完全スルー。
陽摩羅は、一歩前へ。
ルカが消えた空間へ。
スッ……
両手を、差し込む。
「……!」
空間が、反応した。
チリッ……
小さな光。
次の瞬間――
ビキッ!!
亀裂。
空間に、ひびが入る。
陽摩羅は、それを――
グッ……
力で、押し広げた。
ミシ……ミシ……
裂け目が広がる。
人が通れるほどに。
「では、我はゆくから!」
振り返る。
一瞬だけ。
「ルカを取り戻して、お前達と、また合流する!」
言い切ると――
迷いなく。
その亀裂の中へ、踏み込んだ。
スッ……
消える。
――直後。
パキン。
亀裂が、閉じる。
光も、消える。
何もなかったように。
静寂。
残されたのは――
ケイタと、ミイア。
そして。
元通りの、霧の空間。
「……すげぇな」
ケイタが、ぽつりと呟く。
ミイアは、まだその場所を見つめていた。
何もない空間を。
ただ、じっと。




