第五章 2
ケイタは目を細めた。
「しかし、ここは第一層以上に霧が濃ゆいな……」
視界がにじむ。
空気が重い。
(うん!なんか思考が、上手くまとまらないよ!)
「俺は、目がしぱしぱする!」
乾く。
焼けるような違和感。
「うん?ミイア?どうした!」
横を見ると――
ミイアが、立ち止まっていた。
ぼんやりと。
何かを感じ取るように。
「えっ、ああ、ごめんなさい!」
「なんか……はっきりわからないけど……体が呼んでいるような気配がするの!」
「えっ、マジかっ?」
「どっちだ?」
「う〜ん……こっちの方!」
ミイアが指差す。
――その先。
ガーディアン達が向かう、同じ方向。
「そうかっ……」
一拍。
「じゃあ、俺達もあいつらのウォーキングに付き合うか!」
軽く肩を回す。
「アハハハハハッ!そうだね!」
ミイアの表情が、少しだけ明るくなる。
――そして。
一定の距離を保ったまま。
ケイタ達も、歩き出した。
同じ方向へ。
同じ流れへ。
霧の奥へ――
……
少し進んだところで。
違和感。
ルカが、落ち着かない。
横を――ちら、ちら。
何かを探すように。
「ルカ!どうした?」
反応が遅い。
「おいっ!ルカ!」
ルカが振り向く。
「えっ、何?」
「いや、何かあったのか?」
「う〜〜ん……」
迷うように視線をさまよわせる。
「なんか……変な渦巻きみたいなのが、そこにあるんだ」
「ケイタには、見えない?」
指差す先。
ケイタは、目を凝らす。
……何もない。
「いや……何もないぞ?」
「やっぱりね……」
ルカは、どこか納得したように頷いた。
「おそらく……僕にしか見えない類のものじゃないかなって」
「なんとなく、わかるんだ」
その“何か”を、じっと見つめる。
「ルカ!変な感じはしないの?」
ミイアの声に、ルカは少しだけ考える。
「う〜ん……今のところは――」
――その瞬間。
ピタッ。
表情が消えた。
無表情。
感情が、抜け落ちる。
スッ……
右手が、ゆっくりと伸びていく。
――何もない空間へ。
「……っ!」
ヒマリが、跳ね起きた。
「やめよっ!コマ!」
「それに、触れるでない!」
普段とは違う。
鋭い、強い声。
――しかし。
間に合わない。
ルカの指先が、空間に触れた瞬間――
スッ……
消えた。
音もなく。
抵抗もなく。
――存在ごと。
「……は?」
ケイタの思考が止まる。
ミイアの息が詰まる。
空間には、何も残っていない。
ただの、霧。
ただの、空間。
そして――
ヒマリが、ゆっくりと地面に落ちた。
トン……
小さな音。
「…………」
動かない。
視線だけが、鋭く一点を射抜く。
ルカが消えた、その場所を――
ただ、じっと睨んでいた。




