第四章 7
霧の奥――魔獣の群れは、すでに消え去っていた。
残るのは、静寂と、わずかな焦げた匂い。
「どうじゃ!オタンコ!魔獣は片付けたのじゃ!」
「すぐに褒美を用意せよ!」
胸を張る陽毬。
(私も、やったんだけど…..)
ミイアが心の中で小さくつぶやく。
「はいはい!見ておりました」
ケイタが軽く手を上げる――その時。
〝ドスン!〝
〝ドスン!〝
空気が震えた。
床が、揺れる。
「……なんだ?」
霧の奥。
闇が、ゆっくりと形を持つ。
〝グッギャア〜〜ッ!!!〝
現れたのは――
天井に届きそうな巨体。
岩のように隆起した黒い外殻。
全身に走る、赤黒い亀裂。そこから瘴気が噴き出している。
腕は異様に長く、地面を引きずる。
指先は鉤爪。擦れるたび、石を削る音が響く。
顔――というより、頭部は歪な塊。
中央に、ひとつだけ開いた巨大な眼。
濁った光が、こちらを捉えた。
「なんだ!こいつは!」
圧。
空気が押し潰される。
「ほう……なかなか、デカいヤツじゃな!」
陽毬が前へ出る。
「うむっ!こいつも、ついでにわらわが片付けてやろう!」
「ついてまいれ!ミャー!」
「……….」
(私って、従者扱い?)
ミイア、小さくため息。
二人、前進。
巨大魔獣が腕を振り上げる。
――来る。
ブンッ!!
風圧が走る。
地面が砕ける。
「っ!」
ミイアが即座にマナを展開。
透明な障壁。
衝撃がぶつかる。
ドンッ!!
衝撃波が弾け、霧が吹き飛ぶ。
「ほう、防いだか!」
陽毬、笑う。
次の瞬間――踏み込む。
「遅いのじゃ!」
マナが爆ぜる。
一直線。
巨大魔獣の懐へ。
爪が振り下ろされる――
消える。
陽毬の姿が、霞む。
背後。
「ここじゃ」
ドンッ!!
マナの衝撃が、背面に叩き込まれる。
巨体が揺れる。
「今っ!」
ミイアが両手をかざす。
空間が歪む。
場が整う。
マナが収束。
巨大魔獣の動きが――鈍る。
「よい援護じゃ、ミャー!」
陽毬、再加速。
連撃。
ドンッ!ドンッ!ドンッ!!
衝撃が積み重なる。
外殻が、軋む。
〝グッギャアアアアッ!!!〝
咆哮。
腕が振り回される。
だが――遅い。
「終わりじゃ」
陽毬が手を掲げる。
凝縮。
一点。
――解放。
ズドンッ!!!
閃光。
衝撃。
そして――静寂。
巨大な影が、崩れる。
音を立てず、消滅した。
霧だけが、ゆっくりと戻ってくる。
「どうじゃオタンコ!わらわ達のチカラはっ!」
「ワッハハハハッ!」
(何か、私、付き人扱い?)
ミイア、再び思う。
「はいはい!大変、素晴らしかったです!」
ケイタ、即対応。
横で――
ルカは、何も言わずフードを深く被った。
そして、そのフードのおかげで、今回の被害は回避された.....
その先。
霧が、不自然に吸い込まれている場所があった。
裂け目。
巨大な、空間の歪み。
「ここが、次の階層への入り口という訳か!」
ケイタが覗き込む。
(なんか…..さらに、場が不安定そうだね…..)
ライムの声が、わずかに低い。
「そうだな!」
ケイタ、短く返す。
そして。
「ヒマリ様っ!また、降ろしてもらえるかっ?」
「よいぞっ!しかし、褒美を忘れるなっ!」
「へいへい!」
(まだ、食うのかよっ?!)
霧が流れる。
次の階層へ――進む。




