第四章 6
白い霧をかき分けながら、一行は出口を目指して進んでいた。
足音が、やけに重い。
その時――
「ケイタさん!この方角の先には、かなりの数の魔獣がいるみたい」
ミイアが足を止め、前方を指す。
空気が、わずかに張り詰めた。
「えっ、本当かっ?」
ケイタが眉をひそめる。
「ライム!お前も感じる?」
わずかな沈黙。
(う〜ん、僕にはあまりわからない…..でも、その方角には、かなりの数の悪意がある!)
「えっ、悪意か…..いやな、状況だな!」
霧の奥が、重く歪んで見える。
「ライムさん、なんて?」
ルカが小声で聞く。
「なんか、嫌なヤツがいるそうだ!」
「……それ、雑すぎない?」
ルカが即ツッコミ。
だが、その瞬間。
「ふむ」
陽毬が一歩前へ出る。
「――あの感じだと、まとめて片付けた方が良いぞ!」
「まとめてって、そんな便利な事ができるのか?」
ケイタが半信半疑で返す。
「おいっ!ミャー!ちょっと協力せよ!」
「えっ、ミャーって、私の事?」
ミイアが目を瞬かせる。
「そうじゃ!似たようなのは、お主しかおらんじゃろう?」
「私っ!猫じゃないんだけど…..」
一拍。
「でっ、何?」
「お主と、わらわで、アイツらを片付けるのじゃ!」
陽毬はぐっと顔を寄せる。
「ちょっと、耳をかせ!」
「ええっ…..」
ミイアが近づく。
ひそひそ、ひそひそ――
短い打ち合わせ。
そして。
陽毬が振り返る。
「オタンコ!2人であやつらを片付けるから、褒美を用意するのじゃぞ!」
「ええっ?まあ、お団子でいいんだよな?」
「うむっ!さっきのふた種類と、その他に、違うヤツも用意するのじゃ」
「よいな?」
「わかった!じゃあ、さっさとやってくれ!」
即決。
「と、いう訳じゃ!ゆくぞっミャー!ついてまいれっ!」
(もう!…..私ってば、いつの間にか猫にされてるっ!)
ミイア、内心ツッコミ。
「はいっ、はいっ!わかりましたっ!」
二人が前へ出る。
霧の向こう――
蠢く影。
低い唸り。
獣の気配が、一気に押し寄せる。
「来る……!」
空気が震えた。
その瞬間。
ミイアが両手を広げる。
マナが収束する。
淡い光が、空間を満たす。
――放つ。
薄く、広く。
空中に、巨大な膜が広がった。
陽毬が、すぐさま手をかざす。
「ほう……よいではないか」
指先が走る。
マナが編まれる。
裂けるように分岐し――
網へと変わる。
巨大な、投網。
「いくぞっ!」
「了解!」
二人、同時に踏み込む。
――投げる。
空気が裂けた。
バサァッ!!
網が、魔獣の群れを覆い尽くす。
〝グッギャア〜〜ッ!!!〝
〝グアギャ〜〜ッ!!!〝
悲鳴、連鎖。
網に触れた瞬間。
――消える。
一体、また一体。
光にほどけるように、崩壊していく。
抵抗も、反撃も、ない。
ただ――消滅。
霧の中に、静寂が戻る。
「……終わったな」
ケイタがぽつりと呟く。
その視線の先で。
最後の一体が、音もなく消えた。
(可哀想にな…..)
思わず、心の中で手を合わせる。
その横で――
「さて、褒美じゃな!」
陽毬の声が、やけに元気だった。




