第一章 2
「でさ? おれ……じゃなくて、わたしはさ、事故かなにかで、あんまり記憶が確かじゃないんだ」
「だから、わからないことを教えてくれると助かるんだけど……」
ルカが目を丸くする。
「えっ、そうなんですか?」
「は、はいっ! 僕で良かったら!」
少し照れたように、でも嬉しそうに。
「そうかっ! ありがと!」
「で、早速だけど……この辺に町とかある?」
「ありますよ! 僕もそこから来たんです!」
こうして、二人は町へ向かうことになった。
・・・・・・・・・・・・
森を抜け、遠くに町の影が見え始めた、その時。
ルカが、ぴたりと止まった。
顔色が変わる。
「わっ……来た!」
「えっ?」
問い返すより早く――
ガサッ!
木々を押し分け、数人の男が飛び出してきた。
粗末な革鎧。
濁った目。
いかにもなゴロツキ。
「おいガキ! やっと見つけたぞ! 逃げんなって言ってんだろ!」
「こっち来いコラ!」
ルカが素早くケイタの背に隠れる。
「ケ、ケイさん助けて! ぼく……町の悪い人たちに絡まれてて……!」
ケイタは反射で前に出る。
「お前ら、この子に何するつもりだよ!?」
男たちの視線が、ケイタをまじまじと舐める。
一瞬、戸惑う。
「は? なんだ姉ちゃん……」
「そのガキが俺たちの荷物スッたんだよ!」
「は……?」
振り返る。
ルカ。
額に汗。
曖昧な笑み。
――どう見ても“やりました”の顔。
(ケイタ……これ、完全にルカの自業自得だよね)
「……そ、そうみたいだな……」
男たちが迫る。
「姉ちゃんには関係ねえ。どけ!」
「いや、関係あるよっ! この子は――」
(ケイタ! 下がって!)
瞬間。
腕が、ぷるん、と揺れた。
袖の下で、何かがうごめく。
「えっ――」
ビュンッ!
透明な触手が地面を走る。
「うお!?」「な、なんだこれ!?」
足元を一瞬で絡め取る。
バタバタバタッ!!
豪快に転倒。
さらに――
ピシッ!
ピシャリッ!
額を正確に弾く。
「ぐぇっ」「ぐはっ」「……」
次々と白目。
沈黙。
ケイタ、ぽかん。
「ら、ライム……お前……」
(暴力はよくないけど、ケイタに手を出すのもよくないから……)
(“軽く失神させただけ”だよ)
「軽く……?」
男たちは完全ノックアウト。
危険は去った。
ケイタは慌てて近寄るが――
その横で、ルカは妙に落ち着いた顔。
そして。
男たちが目を覚ます。
事情が明らかになる。
――ルカがスリをして逃げた。
その瞬間。
ルカ、ダッシュ。
「あっ! おいっ!」
止める間もなく、森の向こうへ消える。
男たちは呆れたように笑う。
「あのガキは町でも有名な悪坊主でよ」
「姉ちゃんまで騙されるとはな」
「そ、そんな……」
「まあ、あんたに被害がないならいいさ」
一人が空を見上げる。
「こんな場所でぐずぐずしてると危ねえ」
「もうすぐ日が落ちる」
「俺たちは町へ戻るが、一緒に来るか?」
「案内してやるよ」
予想外に、親切。
ケイタは少し迷い――
「……お願いします」
男たちの後を追う。
森の奥から、どこかでルカの気配が消えていた。




