第四章 2
「……ここが、縫合宮の中……」
ミイアが、小さく呟く。
視線がゆっくりと巡る。
そこは――
見たことのない空間だった。
暗闇。
……のはずだった。
だが。
意外なほど、明るい。
淡く、ぼんやりと光が満ちている。
そして――
空間一面に、霧。
揺らめく。
色が、変わる。
赤。青。紫。緑。
ランダムに、ゆっくりと。
「ミイア、この霧……なんなんだ?」
ケイタが目を細める。
「色、変わってるよな……?」
「う〜ん……」
ミイアも視線を巡らせる。
少しだけ、眉を寄せる。
「おそらく……マナと瘴気の混合物……だと思うけど……」
はっきりとは、言い切れない。
その時――
「なんじゃ、これもわからんのか?」
ぼそり。
ヒマリ。
「これは、マナを瘴気で中和させたものじゃ」
「いわゆる――イデアに近い状態じゃな」
ルカ。
その横で――
ゴシゴシゴシ。
必死に頭を拭いている。
「いやそれはいいんだけどさ……」
「僕の頭の上で、ボタボタ落とすのやめてくれない?」
ぽた……。
まだ垂れてる。
ヒマリ、ちらっと見る。
そして――
「細かいヤツじゃの〜」
ため息。
「男は、もっとどっしり構えんか」
「ええ〜っ!?」
ルカ、即反応。
「この状況でその返し来る!?」
口を尖らせる。
ケイタ、軽く押さえる。
「まあまあ……」
そしてヒマリへ。
「で、ヒマリ様?」
「それなら、この霧って危険じゃないのか?」
ヒマリ、鼻で笑う。
「見ればわかるじゃろ?」
「危険な色はしておらん」
腕を組む。
「危険なヤツはな……」
一拍。
「もっと毒々しい色をしとるものじゃ」
ドヤ顔。
「へえ〜……」
ケイタ、頷く。
(……なんか、ざっくりしてるな……)
ヒマリ、じとっと見る。
「おぬし……」
「わらわの言葉、信じておらんの?」
「いや、そんなことは――」
「まあよい!」
即切り替え。
「それより〝オタンコ〟をくれい!」
「えっ、オタンコ?」
ケイタ、首を傾げる。
「……それって団子のことか?」
「まだ食うのかよ?」
ヒマリ、即答。
「当たり前じゃ!」
ドン。
「ちゃんと働いたじゃろ?」
胸を張る。
「わらわが満足するまで、供給するのじゃ!」
《ケイタ!》
ルカ、小声。
《今度はタレ無しで頼む……!》
切実。
《ああ、了解》
ケイタ、即応。
「じゃあヒマリ様!」
手を広げる。
「今回は別バージョンな!」
「色々食べたいだろ?」
ヒマリ。
ぴくっ。
「なにっ……?」
目が光る。
「他の種類もあるのかっ!?」
完全に食いついた。
ケイタ、ニヤリ。
「ふっ……特別だ」
手をかざす。
空気が揺れる。
――生成。
現れる。
きな粉の香り。
ふわっと広がる。
「ほれっ!」
差し出す。
ヒマリ。
一瞬で距離ゼロ。
「おおおおおっ!!なんじゃこれはあああっ!!」
ガブッ!!
速い。
「オタンコ!!これは素晴らしい味じゃ!!」
もぐもぐもぐ。
目が輝く。
「さっきのタレ付きと!」
「これをそれぞれ10本ずつ出すのじゃ!!」
「えっ、いいけど……」
ケイタ、指をさす。
「その〝オタンコ〟って、俺のことか?」
ヒマリ、即答。
「流れ的にそれしかなかろう?」
さらっと。
そして――
ルカを指差す。
「で、お主は細かいから〝コマ〟じゃ!」
「えええええっ!!!」
ルカ、絶叫。
⸻
その後――
ぽた。
さらさら。
ルカの頭の上には。
タレ。
そして、きな粉。
完璧にコーティングされたのであった。




