第三章 10
(ケイタ? 寝ないの?)
頭の中に、ライムの声が響いた。
(今度は、ライムか?)
ケイタは小さく息をつく。
(ちょっと、考え事をしていてな)
(そう? 何の考え事?)
(なんだ? 気になるのか?)
ライムが、少し得意げな声で答える。
(だって、これでもパートナーだからね!)
ケイタは少し黙る。
そして、ゆっくりと言った。
(……これから行く場所には)
(おそらく、何らかの罠が待っている)
静かな夜。
考えが、自然と重くなる。
(俺たちには、その罠に対抗する力があるのか……?)
ライムは、少しだけ間を置いた。
(そうだね……)
そして、あっさり言う。
(無いことも、ないと思うよ!)
(ライムは楽観的だからな?)
ケイタが苦笑する。
すると、ライムがすぐに反論した。
(失礼だなっ!)
(楽観的なスライムって、結構レアじゃない?)
(……まあ、それはそうかもな)
ケイタも、思わず笑った。
だが、ライムは続ける。
(でね)
声が、少し真面目になる。
(単に楽観的なわけじゃない)
(……と言ったらどうする?)
ケイタの眉が上がる。
(えっ? 何かあるのか?)
ライムはゆっくり答えた。
(……今までの戦い方ってさ)
(単に、ケイタが主体で戦ってただけでしょ?)
(えっ!?)
ケイタが思わず声を上げる。
(そういえば……)
頭の中で整理する。
(確かに……そうなのか?)
ライムは続ける。
(僕たちは、二人いるんだから)
少し得意げに。
(僕が主体の戦い方があってもいいと思わない?)
(…………?)
ケイタは黙り込む。
そして、ライムの言葉を頭の中で整理した。
・ライムは大型魔獣に変化可能
・内部エネルギーはまだ余力あり
・武装拡張も可能
……つまり。
俺たちは、まだ本気じゃない。
ライムが、少し楽しそうに言った。
(だからさ)
(僕たちも、かなり強くなれる可能性を持ってるってこと!)
ケイタは、ゆっくり頷く。
(なるほどな……)
少しだけ気が軽くなる。
(希望がないわけじゃない、ってことか?)
ライムは、正直に答えた。
(まあ、まだ未知数の部分も多いけどね)
少し沈黙。
そして、ケイタがふと口を開く。
(それにしても……)
(ライム、なんか賢くなってないか?)
ライムは、きょとんとした声で言った。
(うん?)
(これは全部、ケイタの情報から読み取ったことだよ!)
さらっと続ける。
(だから、ケイタも同じ情報を把握してるはずだけど……)
ケイタが、ゆっくり言う。
(それって……)
少し間。
(俺をディスってないか?)
ライムが首を傾げた声。
(えっ?)
(デスがどうかした?)
ケイタは、しばらく黙った。
(……いや)
(……いいや)
そのやり取りを――
すぐ近くで聞いていたミイアが、
そっと目を細める。
理解したのか。
それとも、ただ面白かったのか。
「ふっ……」
柔らかな微笑み。
その笑みの意味を、
ケイタはまだ知らない。
――いや。
この世界の多くの者が、
まだ知らない。
すべての歪みが。
どこから始まったのかを。




