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第三章 6 世界の状況を語るエルネス

族長エルネスは、ゆっくりと言葉を落とした。


「森が乱れている」


静かな声。


だが、重い。


「瘴気の流れが……まるで“誰かに引っ張られている”ようだ」


ケイタが一歩前へ出る。


「引っ張られてる……?」


エルネスはうなずいた。


「そうだ」


少し間を置き、


「瘴気が、ひとつの“穴”へ集められている」


森の奥を見るような視線。


「魔人の王――デミュートが作ったと言われる」


低く続ける。


「禁断の瘴気溜まりへ」


ルカが、息をのんだ。


「デミュート……!」


エルネスは静かにうなずく。


「魔物たちも落ち着きを失っておる」


指先が地面をなぞる。


「魔獣化の数は、以前の五倍以上」


空気が重くなる。


「人間の国も」


「魔人の領土も」


「亜人の森も……」


ゆっくりと、言葉を重ねた。


「すべてが“不安定”になっているのだ」


ケイタの胸の奥が、ざわついた。


(瘴気が集められてる……)


思考が巡る。


(それって……ベルモントの目的とも繋がってるのか?)


疑問は浮かぶ。


だが――


答えはまだ、見えない。


その時。


エルネスの視線が、ミイアへ向いた。


じっと見つめる。


「お前さん……」


ゆっくり。


「瘴気の流れを“戻した”な?」


ミイアが、ふわりと浮き沈みする。


少し怯えたように。


「えっと……はい」


小さく頷く。


「ちょっとだけ……」


エルネスの目が細くなった。


「その力」


静かに言う。


「普通のスピリットでは使えぬ」


一拍。


「マナと瘴気の“均衡点”に触れた者だけだ」


横で、シャルナが口を開いた。


「ティランの森では」


腕を組みながら言う。


「昔、“調整者バランサー”と呼ばれる存在がいたと伝わっています」


視線がミイアへ向く。


「ミイアさん……」


少し間を置いて。


「あなたは、それに近いのでは?」


ミイアは視線をそらした。


揺れる光。


「どうなんだろ……」


小さな声。


「ボク、自分の力の全部は覚えていないし……」


そして。


少しだけ、微笑む。


「でも」


ケイタとルカを見る。


「ケイタたちと一緒なら……思い出せる気がする」


エルネスは、しばし黙った。


森の風が、静かに枝を揺らす。


やがて――


言葉を紡いだ。


「危険もある」


低い声。


「おぬしの力は、瘴気に近づきすぎると……」


わずかな沈黙。


「霧散する可能性がある」


重く続く。


「二度と戻らんかもしれん」


その瞬間。


ケイタが、反射的に口を開いた。


「ミイアを危険な目には合わせません」


強い声。


一瞬言葉を探し、


「……できるだけ」


族長は、ふっと微笑んだ。


「口の利き方は人間だが……」


ケイタを見る。


少し楽しそうに。


「お前、優しいな」


そして――


「美しき戦士よ」


ケイタの肩が、ビクッと跳ねた。


(美しき……)


思考が止まる。


(いや俺、男――!)


心の中で叫ぶ。


(……やっぱ黙っとこ……)


横で。


ルカだけが、ニヤニヤしていた。





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