第三章 4 瘴気喰いの“狂走獣(バーサルドッグ)”
茂みが――弾けた。
現れたのは、狼型の魔獣。
骨が皮膚を突き破り、
目は赤黒く濁り、焦点が合っていない。
全身から瘴気が噴き出している。
暴走。完全に正気を失っていた。
ルカの顔が、さっと青ざめる。
「あれ……【狂走獣】……!」
声が震える。
「瘴気を摂りすぎて、自我を失った魔獣だよ!」
ケイタは迷わず前へ出た。
「ライム――両腕バルカン!」
ぐにゃり。
スライムが形を変える。
ケイタの両腕が、金属の機構へと変形した。
だが、その瞬間。
ケイタの背筋を、冷たい感覚が走る。
(こいつ……速い……!)
次の瞬間。
バーサルドッグが弾丸のように跳んだ。
地面を抉り、一直線。
一瞬でケイタの間合いへ――
「くっ……!」
ケイタが迎撃の姿勢を取った、その時。
霧が――割れた。
すっと。
ミイアが、
ケイタと魔獣の間に浮かび出る。
「ごめん」
小さく息を吸い。
「少しだけ……“力”使うね」
ぱぁっ。
霊体のミイアの身体から、
淡い青の光が広がった。
その瞬間。
バーサルドッグの動きが――
カクン。
急停止。
「えっ……?」
ケイタが目を見開く。
狂ったように渦巻いていた瘴気が、
突然――逆回転を始めた。
「なにこれ……」
ルカが思わず叫ぶ。
「魔獣の瘴気が……剥がれていく?」
ミイアは静かに手を伸ばした。
指先が、光る。
「――【精流還元】」
光が広がる。
やわらかい青い波紋が、
バーサルドッグを包み込んだ。
ジュッ――
黒い瘴気が剥がれ落ちる。
体表から、
雨のように地面へ落ちていく。
ボタボタと。
やがて。
そこに残ったのは――
息を荒くする、
普通の狼型魔物だけだった。
ケイタは、しばらく言葉を失った。
そして、ゆっくりとミイアを見る。
「ミイア……」
信じられないという顔。
「今の……いったい……?」
ミイアは少し照れたように笑った。
「少しだけ“瘴気の流れ”を正常に戻しただけだよ」
肩をすくめる。
「ボク、もともと【マナと瘴気の調整役】だったの」
ケイタとルカは、思わず顔を見合わせる。
ただの霊体じゃない。
世界の“エネルギーそのもの”に干渉できる存在。
――かなり危険な能力だ。
だが。
ミイアは小さく肩を落とした。
「……でも」
身体が少し揺らぐ。
「長くやると、ボク自身が霧みたいに崩れちゃうから」
苦笑。
「今は……これが限界かな」




