プロローグ 2
ケイタは森の中を歩いていた。
正確には、“歩いている感覚があった”。
自分という存在の自覚はある。
だが、身体の輪郭が曖昧だ。
(今、俺どうなってるんだ……?)
外界の様子は感じ取れる。
しかし、目も鼻も耳もない。
感覚だけが、ある。
(いまね、マスターの形は、ぶよぶよの二足歩行だよ!)
頭の中に声が響く。
(顔のところは、感覚器官なし!つるん!)
(だから誰だよ!?)
(ぼくだよ! マスターを食べたスライム!)
(いや、だから食った側がなんでフレンドリーなんだよ!)
(だって、同化したんだもん! ぼく、自分っていう認識が芽生えたの!マスターのおかげ!)
(……え、俺、生きてるの?)
(うん! ふたりとも生きてる! ぼくたち、おともだち!)
(いや、そこは仲間とかじゃないのかよ!?)
(食べた=ひとつになった=おともだち! ちがう?)
少しだけ、しょんぼりした気配。
(……いや、泣きそうになるな! まあ、生きてるならいいけど!)
(わーい! じゃあ、おともだち! マスター!)
(そのマスターって何だよ)
(名前をつけてほしいの! そうしたら正式にティムされるの!)
(ティムって何だよ!)
(パートナーになるってこと!)
(……なるほど、契約的なやつか)
(うん!)
(じゃあ……スライムだから、“ライム”でどうだ?)
一瞬の静寂。
(ライム……ぼく、ライム!?)
強烈な光が弾けた。
身体が震える。
魔力が暴走する。
(ちょっと待て! 光りすぎだろ!)
(完全同化が進んでる! ちょっと制御むずかしいかも!)
森全体がざわめいた。
周囲から無数の気配。
(マスター、ご飯の気配だよ!)
(この世界、物騒すぎない!?)
(この世界はね、全部がご飯で、全部が食べる側なんだよ!)
(ブラック企業よりブラックだな!?)
魔物の群れが迫る。
(どうする!?)
(思い浮かべて! マスターの世界の武器! ぼくが形にする!)
(できるのかよ!?)
(やってみる! でもちょっと暴発するかも!)
(暴発は困る!!)
ケイタは思い浮かべた。
――マシンガン。
次の瞬間、ぶよぶよの腕が変形する。
金属質の質感が浮かび上がる。
(精度まだ低いよ!?)
「もういい、撃て!!」
〝ズガガガガガン!!!〟
森が吹き飛ぶ。
⸻
魔物も、木も、地面も巻き込む。
(おい!! 森まで壊すな!!)
(狙い雑! マスター雑!)
(初操作だよ!!)
だが魔物は減らない。
むしろ増えている。
(この身体、動きにくい! 変身できるか!?)
(できる! でも安定しないよ!)
ケイタは思い浮かべた。
理想の姿。
軽く、俊敏で、バランスのいい体。
光が弾ける。
感覚が戻る。
視界が開ける。
「……見える」
だが。
そこに立っていたのは、
華奢な少女の姿だった。
「……は?」
(ケイタの理想、これだった!)
「服は!? 服どこいった!?」
(服ってなに!?)
「最低限の常識!!」
慌ててイメージを修正する。
今度は衣装が形成される。
アイドル風の華やかな衣装。
「……よし」
(なんでこの姿なの?)
「別に、いいだろっ!」
(俺の、押しなんだよっ!)
魔物が迫る。
ケイタは腕を構えた。
マシンガンが再び唸る。
「よし……やるぞ、ライム」
(うん! ケイタ!)
舞台衣装の少女が、森を駆ける。
最弱モンスターだったはずの存在が、
異世界で最初の戦闘を始めた。




