第三章 2
「今の、わたしの身体は“仮の姿〝なの」
ミイアは静かに言った。
「本当の肉体は、どこかで眠ってる……」
一瞬、視線が揺れる。
「ずっと、その場所が分からなかった。でも──」
淡く光る瞳が、ケイタとルカを順に見つめた。
「あなたたちと一緒に戦った時……」
小さく息を吸う。
「かすかに“繋がり”を感じたの」
部屋の空気が張りつめる。
「目覚めを待つ器の反応」
「きっと……近づいてる」
ルカが息をのむ。
無意識に、手が伸びた。
「ミイア……手、触っていい?」
少しの間。
「……うん。少しだけなら」
ルカの指先が、そっと触れる。
ふわり。
柔らかい。
けれど重みはほとんどない。
まるで、温もりを持った綿雲。
「……ふわふわだ」
驚いたように呟く。
「ほんとに“生きてる”みたい」
ミイアは小さく笑った。
「生きてる、よ……一応」
ほんの少し、寂しそうに。
「肉体がないだけで」
その笑みの奥にある影を、ケイタは見逃さない。
(……早く、取り戻さないとな)
自然と、拳が握られる。
――――――
ミイアは手を胸に当てる。
表情が変わる。
真剣。
「ケイタ、ルカ……」
「おぼろげだけど、“ある場所”が浮かぶの」
「そこへ行けば……きっと、もっと分かる」
ケイタが問う。
「場所、分かるのか?」
「正確じゃない」
首を振る。
「でも、方向は分かる」
「近づけば、きっともっと強くなる」
テーブルの上の地図へ、光の指先が触れる。
淡く輝きながら、ゆっくりと一点へ向かう。
止まった。
「北西」
「この大陸の奥――」
「“イグナ=グレイル山脈”の方角」
ケイタとルカが同時に息をのむ。
そこは、
魔物濃度、世界三指。
常識が通じない領域。
通称――“魔境帯”。
部屋の空気が、ひやりと冷える。
だが。
ケイタの口元が、わずかに上がった。
「……上等じゃん」
「ちょっと遠足には、刺激が足りなかったところだ」
(ケイタ、ワクワクしてる?)
(してない)
嘘だった。
イグナ=グレイル。
物語は、いよいよ“核心”へ向かい始める。




