第三章 旅立ち、新たなる世界へ
街門をくぐると、夜のバリエスは昼とは別の顔を見せていた。
露店の明かり。
焼き肉の香ばしい匂い。
酒場から漏れる笑い声。
人の熱気が、夜気を押し返している。
「さっそくギルド寄るか。報告もしなきゃだし」
ケイタが歩き出した、そのとき。
袖が、くいっと引かれる。
「ケイタ……ちょっと、相談があるんだ」
「ん?」
ルカは言葉を探すように視線を泳がせる。
そして、ミイアを見る。
「……ミイアのこと、もう少し詳しく知りたい」
声が少しだけ低い。
「ボク……彼女を見てると、胸がざわざわして……」
自分でも戸惑っている顔。
「なんでか分からないけど、放っておけない気がするんだ」
ミイアが目を丸くする。
「ルカ……あなた、わたしを……?」
「ち、違うっ!!」
真っ赤。
「そういう意味じゃなくて!」
ケイタが間に入る。
「まぁまぁ」
苦笑。
「その話は、ギルドの部屋借りてからにしよう」
「路上で“スピリット事情”を語るのは、さすがに目立つ」
三人は、冒険者組合バリエス支部へ向かった。
⸻
ギルドの扉を開けると、暖かな光と人の声が迎える。
受付のナリアが顔を上げた。
「あら、ケイさん!」
ぱっと表情がほころぶ。
「おかえりなさい。依頼は無事に?」
「ええ。魔物は片付いたわ」
“美少女モード”の微笑み。
周囲の男性冒険者たちが、ざわりとする。
ケイタは気づかないふり。
(視線が痛い……)
(人気者だね)
(やめろ)
⸻
案内された小部屋。
扉が閉まり、ようやく静寂が戻る。
ミイアは椅子に腰かける。
だが、完全には沈まない。
座面がわずかに透ける。
半実体。
その証。
「なぁ、ミイア」
ケイタが切り出す。
「今の姿……完全じゃないんだろ?」
「さっきの戦いでも、体が揺れてた」
ミイアは、静かに頷いた。
彼女の身体は、光の粒子が集まって形を成している。
だが――
指先だけ、時折“肉”を持つように変わる。
生々しいほどに。
「普段は……霊体なんだよな?」
恐る恐る訊く。
ミイアは少し照れながら言う。
「うん」
「ボクたちスピリットはね」
腕を撫でる。
粒子が集まり、指先がしっかりと形を持つ。
「気配を薄くした“霊体”と」
「負荷をかけた“半実体化”を行き来できるの」
光が、ふっと揺らぐ。
「でも……完全な肉体には戻れない」
声が、少しだけ弱くなる。
「それは……“本物の体”を取り戻さないと」
部屋の空気が、重くなる。
ケイタとルカが息をのむ。
「……つまり」
ケイタがゆっくり言う。
「君たちの“体”は、この世界のどこかにある?」
ミイアは、はっきりと頷いた。
瞳に、迷いはない。
「うん」
胸に手を当てる。
「ちゃんと“感じる”」
「ボクの体は……まだ壊されてない」
小さく、しかし確信を持って。
「どこかに、保管されてる」
その言葉が、
これからの旅の方向を、はっきりと示した。




