第二章 8 ある町の宿屋・夜
小さな暖炉の火が、赤くぱちぱちと弾ける。
宿屋の一室。
外は静かな夜。
ミイアは窓際に浮かび、淡い光を揺らしている。
ルカとケイタは、ベッドに腰かけていた。
しばらくの沈黙。
火の音だけが響く。
やがて――
「……助けてくれて、ありがとう。」
ミイアが、ぽつりと呟いた。
「わたし……逃げ続けて……疲れちゃって……」
声は小さい。
でも、確かに本音だった。
ルカがやわらかく笑う。
「なら、ここで一息つけばいいよ」
少し肩をすくめる。
「もう追っても来ない……たぶん」
だが。
ミイアは首を横に振った。
「……ううん」
表情が曇る。
「わたし、自分の身体を取り戻したいの」
暖炉の火が揺れる。
「このままじゃ……ちゃんと生きてるって言えない」
ケイタが前のめりになる。
「身体がある場所……知ってるのか?」
ミイアは、ゆっくり頷いた。
「うん。でも……位置は断片的にしか思い出せない」
胸に手を当てる。
「たぶん、封じられてる」
「それに……きっと罠」
空気が少し冷える。
「ベルモントが……わたしにそう仕掛けたんだと思う」
その名が出た瞬間。
部屋の温度が一段下がった気がした。
ケイタは深く息を吐く。
「……なるほどな」
少し考える。
そして、顔を上げる。
「じゃあ、一緒に探しに行くか?」
ミイアの目が、大きく見開かれる。
「え……?」
「いいの? 危険だよ? 本当に?」
ケイタは軽く笑う。
「まあな。危険なのは今さらだろ?」
肩をすくめる。
「放っておけないしな」
ルカも胸を張る。
「僕も行くよ」
視線をミイアへ向ける。
「ミイア一人で危ないところへ行かせられないし」
少しだけ照れたように、そっぽを向く。
ミイアの霊体が、ふわりと震える。
胸に手を当てる。
瞳が潤む。
「ありがとう……本当に……」
暖炉の火が、三人を照らす。
揺れる影が、壁に重なる。
ケイタは心の中で呟く。
(ここからが、本格的な始まりだな)
七人の真実。
魔王の完成。
ベルモントの野望。
そして――
ミイアの身体を取り戻す旅。
小さな部屋で交わされた誓いが、
世界を動かし始めていた。




