第二章 5 ベルモントの刺客、森に出現す
ケイタの胸奥で、何かが覚醒しかけた――
その瞬間。
――ズズズッ。
森の瘴気が、黒い波のようにうねった。
空気が、重く沈む。
ルカが顔を上げる。
「……なんだよ、この嫌な感じ……」
ただの恐怖ではない。
肌にまとわりつく、粘ついた悪意。
ミイアが震えながら後ずさる。
「ち、違う……これは自然の瘴気じゃない……!」
霊体が揺らぐ。
「“誰かが意図的に送り出してる”……!」
ケイタの背筋を、氷の指がなぞる。
「……気づかれたのか?」
問いかけた、その直後。
――グルルルル……ッ!!
森の奥から、低く重い咆哮。
地面が震える。
木々が軋む。
影が裂ける。
現れたのは――
黒ずんだ皮膚の魔獣。
狼に似た体躯。
だが背からは瘴気の角が突き出し、
瞳は血のように赤い。
四体。
その存在だけで、空気が歪む。
そして――
さらに奥から。
ズシン。
ズシン。
体高三メートルの巨体。
熊のような姿。
だが、腕は鉤爪へと変異し、
口元から瘴気が滲み出ている。
地面が沈む。
森が、息を止める。
ミイアの声が裏返る。
「っ……これ……デミュートの瘴気で“強化”された魔獣……!」
「普通の魔物とは……比べ物にならない……!」
ルカが一歩下がる。
だが、逃げない。
「ケイタ……来るぞ!!」
魔獣たちが低く唸る。
赤い瞳が、三人を捉える。
ケイタは深く息を吸う。
(ライム、準備は?)
(ボクはいつでもいけるよ、ケイタ!)
腕が、ぐにゃりと波打つ。
骨のように硬化。
金属音が森に響く。
――ガシャン。
《腕部ガトリング(ケイタ想像式)》
砲身が回転を始める。
「来な……相手してやる!!」
その瞬間。
狼型が地を蹴る。
速い。
巨体も同時に踏み込む。
ケイタが引き金を引く。
――ドドドドドドドドドッ!!!
弾丸の雨が、夜の森を裂いた。
だが――
赤い瞳は、まだ消えない。
本当の戦いが、始まる。




