第二章 2 パリス村、幽霊調査の始まり
十数体の魔物を撃破した翌朝。
ケイタたちは依頼完了の報告のため、村長宅へ向かった。
村人たちは笑顔で迎える。
温かい料理。
焼きたてのパン。
素朴だが、心のこもったもてなし。
「若いのに大したもんだ!」
「本当に助かったよ!」
(なんか……ちゃんと冒険者してるな、俺)
談笑の最中。
囲炉裏の向こうで、村の老婆がぽつりと呟いた。
「……最近、夜な夜な森に“白い影”が出るんだよ」
場の空気が、わずかに変わる。
「娘の泣く声にも似ていてねぇ……」
ケイタの胸の奥が、ちくりと痛んだ。
理由のない違和感。
幽霊?
今の身体なら、恐れる必要はない。
なのに。
(……妙だ。このざわつき、なんだ?)
無意識に拳を握る。
「その場所、どのあたりですか?」
老婆は森の奥を指差した。
ケイタは静かに頷く。
「調べてみます」
⸻
一度町へ戻り、冒険者組合で報告。
報酬を受け取り、装備を整える。
その夜。
宿で荷物をまとめていると――
コン、コン。
戸を叩く音。
開けると、ルカ。
いつもの飄々とした顔ではない。
「……そのさ。今日、また村に行くんだろ?」
「うん」
「オレも行っていいか?」
ケイタは目を細める。
「どうしたの? 珍しいじゃん、“自分から手伝う”なんて」
「うるせーよ」
視線を逸らす。
「別に手伝いたいわけじゃないし。
ただ……なんか、気になっただけだ」
強がり。
でも、その奥に焦りがある。
ケイタは小さく笑う。
「じゃあ、行こう」
ルカは何も言わず、頷いた。
⸻
霧の深い森。
空気が重い。
音が吸い込まれるような静寂。
白い影が出ると噂された場所へ近づいた――その時。
――ひゅん。
冷たい風。
耳元を掠める、か細い声。
「……来ないで……」
木々の間。
淡く揺らめく光。
少女の霊体。
長い髪が、風もないのに揺れる。
瞳は怯え、
身体は半透明に揺らぐ。
ケイタとルカを視認した瞬間――
「あなたたち! またわたしを捕まえに来たのね!」
声が震える。
魔力が跳ねる。
「えっ!? いや、俺たちは――」
言葉は届かない。
少女の周囲に、光が集束。
刃のような魔力が放たれる。
ヒュンッ!!
ケイタは咄嗟にルカを抱え、横へ跳ぶ。
地面が裂ける。
「待って! 俺たちは追ってなんかじゃない!」
「嘘! ずっと追われてきた! もう、嫌……!」
悲鳴混じりの声。
攻撃は止まらない。
ケイタは防ぎ、受け流し、距離を取る。
(ケイタ、この子……本気で怯えてる)
「わかってる!」
その時――
「ミイア!」
森を震わせたのは、ルカの声。
焦り。
怒り。
そして、悲しみ。
霊体が止まる。
光が揺れる。
ゆっくりと、ルカへ視線が向く。
「……え?」
震える瞳。
「ル……カ……?」
空気が、変わる。
森の音が戻る。
ミイアは一歩、また一歩と近づく。
ルカは歯を食いしばる。
視線を逸らす。
ケイタは悟る。
この二人は――
ただの偶然ではない。
ミイアの声は、かすれていた。
「まさか……あなたも、逃げてきたの?」
その問いは、
ケイタの胸をざわつかせ、
ルカの奥深くを抉った。
森の霧が、三人を包む。
そして――
長く封じられていた“七人の真実”が、
静かに、動き始める。




