所詮、その程度。
家族4人で遊園地へ行った。
一言で言えば、行って良かった。
私以外の皆は、「楽しかった。」と言った。
私は、それに合わせて「楽しかったね。」と言った。
私は、ずっと体調が悪かった。それは精神的なものでもあり、身体に出るものでもあった。
だが、遊園地ではそれを全面に出すことなく楽しめた。
子供達に、久しぶりのキラキラした思い出を作れたであろう事が嬉しかった。
しかし、どうしてもムリは出た。
上の子とジェットコースターに乗る度に、頭痛に襲われた。乗り物に乗る乗らないに関わらず、いつ呼吸が苦しくなるかもわからず、心の奥でビクビクしていた。
薬は飲んでいるから、
今日は旦那がいるから、
ここは楽しい場所だから…
きっと大丈夫。
最後まで、楽しめる。
そうやって過ごしていた。
夕方
上の子がキラキラした目で私に言った。
「ママ、さっきパパと乗ったあの落ちるやつ乗ろうよ!大きな叫び声を上げて、その声の大きさを競うんだよ!ジェットコースターよりは怖くないからさ!あれなら頭も痛くならないよ!」
彼女なりの私に対する優しさだった。
それに対して、私は、こう言った。
「ママさ、もうジェットコースター乗りすぎて、声カラカラだからさ、一緒に乗るけどさ、◯◯がさママの分まで大きな声出してよ〜。」
対する彼女の返答はこうだった。
「え〜!!!一緒に叫ぼうよ!!!」
私達の一部始終を聞いていた、年配のクルーが私に向かってこう言い放った。
「お母さん!せっかくの遊園地なんだから、お子さんと一緒に叫んであげなさいよ!」
と。
大声で。
笑顔で。
(…何も知らないくせに。)
私の中に黒い感情が溢れた。
(どんな想いで、どんな経緯でここに私が来たか、あなたにわかるはずがないのに。)
遊園地に来るまでの数カ月間は、色々事情があって、私は寝込んだり、病院に通ったり、とにかくボロボロだった。
だが、私は努めて子供達の前では、元気なニコニコ面白いママとして振る舞った。
毎日。毎日。毎日。
私にとって、子供達の心の平穏が第一だったからだ。だからこそ…。
あなたに私の苦しみの何がわかる。
しんどい身体を駆使して、なんとかこの日なら家族の為に頑張れそうと、ようやくここへ来た私の何がわかる。
家族の笑顔を第一優先した私の何がわかる。
ずきずきと心に刺さった矢は抜けない。
「そうだよ〜!!ママ一緒に叫ぼうよ〜!!」
味方の声援を受けて、彼女が嬉しそうに言う。
「よ〜し!!それなら最後に思いっきり叫ぶかっ!!」
私は完璧に良い母を演じた。
乗り物が上へ行き、そして落下する。
「ギャーーーーーー!!!!わーーーーーー!!!」
「すごい!!ママ!!さっきパパと乗った時よりめっちゃ大きい声出てる!!」
「ほんとだ!!◯◯デシベルだね!!すごーい!!」
そんな私達のやりとりを聞いていたのか、例の年配クルーの表情は満足そうだった。
(そうだろう、そうだろう、ここは思い出を作る遊園地だからね。)
彼の心の声が聞こえた気がした。
彼に会釈をして、私はまた、完璧な母親の立ち去る姿を演じた。
心の傷は広がり続ける。
最後に、私達家族は、観覧車に皆で乗って、遊園地を後にした。
皆、遊び疲れていたので、回転寿司に寄って…。
家に着き、最高の1日だったと、子供達は言った。
私は、本当に嬉しかった。
彼女達の笑顔と比べたら、私の受けた傷なんて、どうって事ない。
呼吸は、少し苦しい。
一粒、薬を飲んだ。
◇
このエッセイを書こうかどうしようか、頭の中でぐるぐるしていた時、はたと私は気がついた。
私は、例の年配クルーの言葉に、ひたすら傷ついた訳だが、冷静に考えて、彼には彼なりの美学があったのかもしれないと。
例えば、彼が幼少期、親といい思い出が少なくて、目の前で子供のお願いを無下に断る私の言葉が許せなかったのかもしれない。
毎日、仕事場で、色々な親子を見て、思う事があったのかもしれない。
もしくは…本当に…。
そこまで思い至って、結局、私は、彼と同じように、彼を見た目や物言いだけで判断していたのだと気がついた。
彼が私の背景を知らないのと同じ様に、私も彼がそこで働いている背景を知らない。
だから…。
結局、私も、彼も、その程度の人間だったって事だ。
彼に腹がたった私。
私に腹がたった彼。
同じ穴のムジナだ。
気持ちが悪い。
傷は、まだ癒えない。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。




