第7話 幼なじみは「普通」に戻れない
その日は、朝から嫌な予感しかしなかった。
理由は簡単だ。
未来視が、うるさい。
具体的な映像は見えない。
ただ、頭の奥で「来るぞ来るぞ」と警報が鳴り続けている。
(これは……ミサキだな)
的中した。
「ユート、おはよ!」
いつもより明るい声。
いつもより近い距離。
そして――
「今日、一緒に帰れる?」
(来た)
俺は、逃げなかった。
逃げると、余計にこじれる。
曖昧にすると、暴走する。
「今日は……用事ある」
嘘だ。
だが、線引きだ。
ミサキは一瞬、固まった。
「そっか」
笑顔。
でも、その奥で――
何かが切り替わったのが分かった。
未来視が、反応する。
――放課後。
――校舎裏。
――ミサキが泣いていない。
――包丁も、ない。
代わりに。
「なんで、白雪さんなの?」
……言葉だ。
今回は、言葉で殺しに来る。
放課後。
俺は、逃げずに呼び止めた。
「ミサキ」
「なに?」
明るい。
明るすぎる。
(このテンションのときが一番危ない)
「ちょっと話そう」
場所は、校舎裏。
人気はないが、未来で刺されない場所だ。
ミサキは腕を組んで言った。
「最近さ、ユート変だよ」
「そうだな」
否定しない。
「私のこと、避けてる」
「……線を引いてる」
その言葉に、
ミサキの眉がぴくっと動いた。
「幼なじみに?」
「幼なじみだから、だ」
沈黙。
風が吹いて、
ミサキの髪が揺れた。
「白雪さんとは、引いてないよね」
来た。
俺は、ちゃんと答えた。
「引いてる」
「嘘」
「嘘じゃない。
ちゃんと話しただけだ」
ミサキは、しばらく俺を見つめてから、
ふっと息を吐いた。
「……ずるいよ、それ」
声が、少し震えている。
「急にちゃんとした顔してさ」
未来視が、反応しない。
刺される未来は、
見えない。
代わりに見えるのは――
すれ違い続けた時間。
「私さ」
ミサキは、視線を逸らして言った。
「ユートがいなくなる未来、
一番想像できなかった」
胸が、少しだけ痛んだ。
「だから、怖かった」
未来で殺される理由が、
少しだけ分かった気がした。
「でもさ」
ミサキは、いつもの笑顔を作る。
「選ぶなら、ちゃんと選んでよ」
それは、
責めじゃなかった。
要求だ。
「中途半端が、一番きらい」
未来視が、一瞬だけ映す。
――未来。
――ミサキは泣いている。
――でも、俺は死なない。
【結果:生存/関係不安定】
(……よし)
「分かった」
俺は、はっきり言った。
「今は、誰とも付き合わない」
ミサキの目が、見開かれる。
「でも」
続ける。
「逃げもしない」
沈黙。
数秒後、
ミサキは小さく笑った。
「……それ、ずるいけど」
一歩、前に出る。
「嫌いじゃない」
好感度が、
上がらなかった。
それが、
こんなに嬉しいとは思わなかった。
「じゃあ」
ミサキは、背を向けて言った。
「ちゃんと見てるから」
「何を?」
「ユートが、誰を選ぶか」
去り際、
彼女は振り返らなかった。
その夜。
神崎から、短いメッセージ。
『幼なじみルート、分岐成功』
(成功って言っていいのか?)
『でも注意』
『彼女は
「選ばれなかった未来」に一番弱い』
画面を閉じて、
俺は思った。
(……全員、地雷抱えてるの前提なのかよ)
でも。
これまでのことで俺は確実に、
流される側から、選ぶ側に変わっている。
それだけで、
続ける理由には十分だった。




