第3話 生徒会長は笑顔で逃げ道を塞いでくるんだが
その日の昼休み。
俺は確信していた。
――今日は、何かが起きる。
理由は単純。
朝からずっと、未来視がノイズ混じりなのだ。
いつもなら
「誰に」「どう殺されるか」がはっきり見えるのに、
今日は違う。
見えるのは――
長い影と、逃げ場のない廊下。
(これ、絶対ろくなことにならない)
そう思った矢先。
「相沢ユウトくん」
背後から、澄んだ声。
振り返った瞬間、
俺は反射的に一歩下がっていた。
そこに立っていたのは――
生徒会長・九条レイナ。
・成績トップ
・品行方正
・教師からの信頼MAX
そして、
未来で俺を最も冷静に殺していた女。
「生徒会長……なにか?」
「少し、お時間いいかしら」
笑顔。
完璧な営業用スマイル。
だが、
俺の脳内にはすでに未来が流れている。
――生徒会室。
机に追い詰められる俺。
九条先輩は微笑んだまま、
首元に手を添えて――
【好感度:急上昇】
(上がるな上がるな上がるな!)
「用件はここでお願いします!」
俺は全力で距離を取った。
しかし。
「逃げる前提なのね」
その一言で、
周囲の空気が変わった。
「……え?」
「大丈夫よ。取って食べたりしないわ」
未来では、取ってた。
「最近、あなたのことをよく聞くの」
九条先輩は俺との距離を、
一歩ずつ、正確に詰めてくる。
「幼なじみと仲がいい」
「白雪さんとも親しい」
「でも、誰とも付き合っていない」
やめて。
情報を整理しないで。
「不思議だと思わない?」
「……何がですか」
「あなた、好かれる行動しかしていないのに、
決定的な一線を越えない」
――ゾクリ、とした。
この人、
気づいている。
「それってね」
九条先輩は微笑んだまま、
耳元で囁いた。
「期待させるのが、いちばん残酷なのよ」
未来視が暴発した。
――生徒会室。
――俺は椅子に座らされている。
――九条先輩は、泣いていない。
――ただ静かに、手を伸ばして――
【好感度:MAX】
【死亡確率:極大】
(感情ないタイプが一番怖いんだよ!)
「誤解です! 俺、誰にも期待させてません!」
「無自覚、というのがいちばん罪深いの」
詰んだ。
完全に逃げ道がない。
その時、
九条先輩のスマホが鳴った。
一瞬だけ、
彼女の視線が逸れる。
俺はその隙に、
全力で後ずさった。
「……逃げるのね」
その声には、
ほんの一瞬だけ――
寂しさが混じっていた。
(今の、見間違いか?)
俺はそのまま走り去った。
廊下の角を曲がった瞬間、
未来視が静まる。
(……助かった?)
だが。
その夜、
ベッドで目を閉じた瞬間。
――未来が、更新された。
そこには、
今までと違う光景があった。
九条レイナが、
誰かに向かって言っている。
「今回は……まだ、早いわ」
“今回は?”
俺は、嫌な確信を得た。
この人――
殺す未来を、選んでいる。
好感度が上がったから殺すんじゃない。
何か別の理由で、俺を殺す未来を許容している。
(……この世界、思ってたよりヤバくない?)
こうして俺は知った。
ヒロインの中には、
未来を知っているかのような存在がいる。
そして――
本当に詰んでいるのは、
まだ先だということを。




