九話 再開
指定された喫茶店で、先に着いたありすは緊張して座っていた。彼女の前には、ホットココアが置かれている。先に勝手に注文していいのか迷ったが、何も頼まずにいるのはお店に失礼な気がして、好きなココアを注文した。
ありすは学校帰りの制服姿で、学校の近くの喫茶店で『KAI』と会う約束をしたのだ。三船には話していない。多分知らない人と会うと言えば、反対されると思ったからだ。『KAI』は、もう一人同じ夢を見る人を連れて来るといった。また、二人はありすの学校の近くに住んでいるとも言っていた。
ありすは社交的だが、見ず知らずの人に会うのは緊張して落ち着かず、何度もスマホのホーム画面を開いては消してを繰り返している。
ここから、窓の外に広がる景色の中にバス停が見える。バスが到着して、色々な人が降りてくる。その中に、違う制服だが仲の良さそうな二人が見えた。美少女と美青年だ! と思ったが、二人ともスカート姿だ。イケメンの女子と美少女の組み合わせは、ありすに馴染みがなくて新鮮だった。じっと二人を見ていると、長い黒髪の美少女がありすに気が付いたようだ。こちらに向かって歩いて来ながら、隣のイケメン少女に何かを囁いている。あまりにも彼女達を見過ぎていたので、ありすは失礼な事をしているのではないかと思い目を逸らそうとした。しかし、イケメン少女がありすに向かって手を振ってきた。ありすはそこでようやく二人が待ち合わせをしている人物だと気が付いて、小さく頭を下げた。
「ごめん、バスが送れちゃって――ありすさんだよね? 俺は、翔惟だよ」
喫茶店の扉が開くと、二人は迷わずにありすが座る席にやって来た。
「はい、黛ありすです」
「俺は、君のSNSに連絡した比江森翔惟。こっちは、俺たちと同じ夢を見てる濱野麗空さん」
「私もお邪魔して、ごめんなさい」
申し訳なさそうに頭を下げる麗空に、ありすはあわてて言葉をかけた。
「いいえ! 同じ体験をしている人が多くて、嬉しいです。ボク一人では、何も解決できなくて困ってたんです」
そう言うと、麗空は「ありがとう」と言って、とても綺麗に笑った。
二人はありすの正面に座ると、翔惟は珈琲で麗空は紅茶を頼んだ。
注文の品が前に並ぶと、翔惟はタブレットをカバンから出して広げた。そうして、何かのページを開く。
「先に、君の話を聞かせて貰っていいかな? 俺達はもう話し合っていて、ここに情報を書いてるんだ。あとで君に読んで貰うよ」
「分かりました、夢なので少し曖昧な所があるんですが……聞いて下さい」
ありすは少し冷めたココアを一口飲んで、二人に改まって向き直り自分の見た夢の話を始めた。そうして、三船に聞いた話も「こんな話もあるんです」と付け加えておいた。
「本当に、偶然に同じ夢を見るなんてありえないわ――これは、本当の事よ。その三船先生のお話に通じるものを感じるわ。だって、翔惟と会った時懐かしい気がしたし黛さんとお会いして、やっぱり懐かしい気がしたわ」
ありすの話を聞いて、麗空が真顔になる。隣の翔惟も同じように頷いた。彼女は、ありすの夢もタブレットに書き込んでいた。
そうして、書き終えるとそのタブレットをありすに差し出した。
「これは、俺と彼女の夢をまとめて書いたものだよ。ゆっくり読んで――しかし、アリスタイオスの見た光景か……」
ありすは、翔惟から受け取ったタブレットを開いた。そうして、翔惟の夢と麗空の夢を読む。
「私達の夢の続きを、黛さんが見ているのね。でも、やっぱり負けたのね……逃げた女性も、何処かにいるのかしら?」
「やっぱり、それぞれの見ていた姿が俺達の前世だと思わないか? 話をするのを忘れていたんだけど、プテリュクスの戦士が倒れているリュコスの戦士に話しかけている夢を最近見たんだ。プテリュクスの戦士はディミトラって名前らしい。リュコスの戦士は、カイロス。アンジェリキは――多分、ヴロヒの乙女の名前だと思う。そして、レオーンの戦士のアリスタイオスと異端者、これが俺たちの見る夢の主な登場人物だ」
翔惟の言葉に麗空は頷き、タブレットを読んでいるありすも頷いた。
「名前を考えてみると、やっぱり俺達の前世だって言われてもおかしくない。『カイロス』と、翔惟。『アリスタイオス』と、ありすさん。『アンジェリキ』は……少し名前をずらして、麗空。それぞれが見ている名前と同じなんだよ。これも偶然とは思えない」
翔惟は、テーブルに置かれている紙ナプキンにそれぞれの名前を書いた。それを眺めると、麗空は頷かざるを得ない。ありすは、熱心にタブレットを見ていた。
「ディミトラは、アリスタイオスを探せと言っていた。そして、記憶を封印されていると。アリスタイオスを見つければ、ディミトラは迎えに来ると言っていた。もしかしたら、ディミトラが迎えに来るかもしれない」
翔惟は、真剣な顔で二人にそう言った。
「ボクが……アリスタイオス、なのかな?」
裏切者に捕まった時の、あの絶望感――確かに、自分が彼ならあの絶望感を理解したことが分かる。
「オモルフォスを助けて――ディミトラは、そう言っていた」
翔惟の言葉に、ありすと麗空は顔を見合わせた。麗空の夢の記憶では、アリスタイオスとアンジェリキは産まれた時からの幼馴染。一番仲の良かった二人だ。
「ディミトラが来て、俺たちに説明してくれればすっきりするんだけど……」
翔惟も、冷めた珈琲を口にして予想しか出来ない状況に頭を悩ませていた。




