YAMAGUCHI
「YAMAGUCHI?」
戦時において、大切なこと。
国家、軍人、士気、食料、資源、兵器、信念、金!
「それは何者なんだ?」
結果だけを知る者達にとっては、勝者と敗者が分かれば十分なことである。なにしろ、その過程を聞けばどんな奴でも耳を塞ぎ、目をとじる。戦争を望む者達はどうして、戦場に現れないのであろうか?
「知らんのか、ダーリヤ?」
「人類の進歩以外に興味などない」
最強の軍人。いや、地球上の人類で唯一、”惑星”と同規模と評価される超人を持つ国家であろうと、戦争において必ず行われることだ。
「俺が行く。敵など始末すればいい」
「止せ!お前がいくら、ロシア最強……いや、世界最強の人類だとしても、……補給部隊と個の強さはまるで違うものだ」
いずれ、その大国を背負うことになる、初々しさ残る最強の彼。ダーリヤ・レジリフト・アッガイマンと
「YAMAGUCHIならば、必ず、前線の部隊に物資を届ける。それで良いのだよ」
ピンポーン
「そいつはただの日本人だろ?」
どこにインターフォンがあっただろうか?
仕事の依頼を受け、
「ちわーっす。日本郵便の山口でーす!荷物の集荷をしに来ましたー。住所氏名と料金の方をお願いしまーす」
YAMAGUCHI こと 山口 の登場である。
地球上にいる人々が、ノホホンと、平和を謳歌し安心して暮らせる日々のため。
今日も引き受けた荷物を完璧にお届けます。
その姿。紛れもなく、日本郵便の男である。
「…………貴様、1人か?」
「どっからどー見ても1人だろうが。あんたは?」
お互いの出会いは、睨み合い。ダーリヤに見降ろされても淡々と集荷する荷物を確認する、山口は微動だにせず
「YAMAGUCHI!!よく来てくれた!!すまないが、この物資を前線の戦地にいる同士達に届けて欲しいのだ!!頼む!!」
「お仕事ですのでね。まぁしかし、お高いですよ?仕事とはいえ、命を捨てる気もないんだ」
ここもそうだが、お届け先もまた銃撃戦が行われている場所である。大型トラックで運ぶほどの大量の荷物……ではなく、大型飛行機を使用するくらいの大量の物資である。どう考えても部隊が必要なレベルの量だ。兵器とは、食料とは、衣類とは、……なによりも戦場という危険な場所では、物が欲しい!!
その補給という重要な役目を、
委託する!!……だって、YAMAGUCHIが来てくれるんだから!!
「言っておきますけど。俺は戦争嫌いだから、どっちでもいいから早く終わらせろ。日本に帰りたいからな?」
「は、はい」
「肩入れとかもしない。情報を互いに漏らすことはないですからな?」
「OK」
……軍事に関わることを委託する。委託されるわけで。そこの深いやり取りはなしであり、荷物を引き受けお届ける。そして、料金を支払ってもらう以外のなにものでもない。
「じゃ、私は完璧な仕事をするんで。しっかり、振り込んでくださいよ」
「は、はーい」
そうして、沢山の物資が山口が運転している超超超大型のトラックに載せられて、空港の方へ走っていくのであった。その一連の様子を見ていたダーリヤは
「只者ではないな。……俺も向かっていいか?」
「え!?いや、ダーリヤも結局行くんじゃ、意味がない!敵が全滅するだろうが!意図が違う!」
「あの山口という男。我が国に招きたいほどだ」
奴は……只者ではなかった。
なんたるスピードにして、なんと正確な積荷作業、機械を要する場面においてもその身体1つで持ち上げる様。日本人だと侮っていたが、奴もまたとんでもない身体能力の持ち主であり、その稀有な力。
「輸送、補給において、最善の男かもしれない」
ゴオオオオォォォッ
「ちゃちゃーっと、終わらせますか。物資の届けは早い方がいい」
会社専用の大型飛行船に荷物を積み終えてフライトする山口。空路を使えば、15分でその戦場の近くに辿り着く。またそこから戦地に向かわなければならないわけだが
「ん?」
大型トラックも、この飛行船も操縦しちゃう山口ですら、少し驚いた。そんなところに現れるのは、鳥達だってやりもしない。だが、1人の男がここに乗り込もうとしていた。気付いた山口は、自分の危険などまったく気にもせずに、窓を開けてそいつに注意をする
「おーい、あんた。そんなところに立っていたら、轢き殺しちまうぜー」
「ここで十分だ。山口。お前、ロシアに来い。我が国のため、人類の発展のためにお前は必要だ」
「いや、そーいう勧誘はお断りだ。つーか、あんたは?」
飛んでる飛行船と共に、空中という場所で極々なんとなく、並走をかましてくる超人。
「ダーリヤだ」
「そうか。……そこを走ってると邪魔だから、もうちょい左側を飛んでろ」
「お前の飛行船に遅れはとらないぞ」
ジェット機じゃないにしろ……飛行船と互角に飛んで走れる男がいる。それに山口は注意をしただけ
「あっそ、轢かれんじゃねぇーぞ。俺の仕事がなくなっちまう」
飛行船でうっかり人をはね飛ばしたら、免停になってしまうことを心配するだけであった。
そして、飛行船は目的地より10数キロ離れた地点にて、着陸する。その直前で気付いていたが、ダーリヤは確認する。
「どーやって、この物資の数々を届けるんだ?」
「あ?普通に届けりゃいいじゃん」
山のようにという言葉が相応しい物資の数々。これを飛行船から落とすのかとも思ったが、それでは荷物が汚れてしまう。そーなってもいい、そんなことなど言ってもいられないが。
「普通にな」
「トラックや車も見当たらないが?」
「まー、見とけ。……あ、荷物を盗むなよ。ダーリヤ、あんたは強そうだから、ここの物資を護っておけ」
山口は積載する段階で、非常に大切なモノ、大切じゃないモノ、慎重に運ぶモノ、早く届けたいモノなどなど、ちゃーんと物資を分けていた。
まずはやはり、早く届けたいモノ。
「あーーっ!!重いぜ!」
普通ーーーーに、持ち上げる!箱に詰まったモノを6個の箱を抱えながら。
「飛行船の中にあった、台車を使えば?」
「地面がグラグラでガタガタじゃねぇーか!!丁重に扱うのは、俺が抱えた方が100%安全だ!それに早いんだよ!!素人は黙ってろ!」
かなり常識的な発言をするダーリヤにキレる山口であったが、そこから彼は
「じゃあな」
常識的だと思って、お届け先である戦地に向かって走っていくのである。ここから10数キロはあるというのに
「あれが日本の飛脚か?」
いや、戦地だからこそだ。山口は確かに重たい荷物を抱え、さらには走っているという状況ではあるが。それが車を超すほどの速度で移動し、その足音もまた無音にして軽い。
戦場から舞い上がる粉塵、銃撃音、悲鳴……そんな不吉をそのままにして、彼は戦地へと駆けていくのである。なによりも
「こいつは弾と爆弾だから、戦場の奴等にね」
住所だけでなく、記載された氏名に対しても気遣う。顔写真付きのおかげで、戦場で戦う兵士達に届けるもの
ドガガガガガガ ガガ
「くそ!弾が尽きた!!このままでは……」
「カノルフ様、お待たせしました」
「ふあぁっ!?」
「氏名とご住所、兵士のナンバー合ってますか?ご確認お願いします。荷物はマシンガンの弾でーす。新調の重火器が何点か」
補給を求めている者達に対し、的確な後方支援。相手側からすれば、敵の攻撃が続いていくのは苦しいものである。
「ご要望のロケランでーす!」
弾切れ、バッテリー切れ、故障、負傷、……あらゆるモノを最前線に届けることもできる男。
「へー、1往復目、終わりー。すぐ戻らないと」
山口は6箱全部配り、再び飛行船の方へ走っていく。今度は荷物がない分、車を超えての、雷速だった。
「サンキュー、ダーリヤ」
「……軍人に直接物資を渡す必要はないだろ?その手前の拠点で十分だ」
「それはテメェの上官に言えよ。こっちは金とってるんだ、キッチリした仕事するんだよ」
またしても荷物を選んで運ぼうとする山口。自分も超人の枠を超えている存在だと、確信しているダーリヤをして、それに近しい力を持っていながら、その力を物資の支援に当てる男。
もったいない。
「じゃ、また行くぜ」
荷物を抱えて戦地へと走っていく、山口。
その様子にため息をついて、荷物を守ってあげる、ダーリヤ。
今まさに、お互いを殺し合う銃撃戦となっている場所。そこにまた、山口が物資を届ける。
「お待たせしましたー」
「なんで普通に荷物を届けに来るんだよ!?」
受け取る事になる兵士だって、そりゃあ驚くのであるが。有難くはある。しかし、敵側からしたら好ましくない補給だ。
「敵を手助けするお前!!そんなに死にたいのか!!」
相手から見ても明らかに、軍人とは違う恰好の奴が戦地に来ている。戦場を舐め腐った容姿。平和しか知らない男に向けられた弾幕は、薄い紙の厚さに等しいほどの隙間を作っていた。
山口が荷物を抱えながら、避ける事には造作もなく。
ガシィッ
「どこの誰だか知りませんが、お客様のお荷物を汚そうとしたりするの、止めてくれませんか?」
「ふぁぁっ!?」
「こちらは、大切なお客様がお待ちされてる、お荷物なんですよね~」
「よ、妖怪か!?この男っ……!!ぐおぉっ」
撃ってきた兵士の頭上に、荷物を抱えたまま、山口は立つ。そして、彼がどれだけの重量を持っていたかは兵士が地面に叩きつけられて分かるものであり、かつ、妖怪の類と思わせる速度で弾幕を避けていたか。そしてなによりも彼が持っていた荷物に、一切の傷はない。
「あ~っ、いけね」
その表情は、兵士達に銃口を向けられている男の顔ではなく。うっかり、敵陣に入ってしまったとかのものではなく。物資を届ける仕事にしては、好ましくないこと。
「寄り道しちまった」
そんな感覚で彼は、仕方なく、しっかりとお客様の荷物をお届けするために。
パンパンッ
「ちょっと、一時休戦してくれ」
「敵を殴り倒してるーーーー!!?」
邪魔だったから、敵兵7人ほど、倒しちゃった…………。
「今だ!!捕虜として捕えろ!!」
「仲間を殺した敵を許すな!!」
肩入れはしねぇと言ったのに、結果として、入ってしまった。そんな動きをしていた兵士達 = 山口のお客様達に対し
「あー!!面倒くせぇな!!お前等も俺に殴り倒されろ!!」
お客様達もぶん殴って倒し、
「まずは拠点に帰りやがれ!!俺の前で戦争なんかするんじゃねぇ!!」
10何人もの軍人達を一度に運びながら、軍事拠点にお届けしてあげる山口。それは敵兵も、敵の軍事拠点にお届けするくらいには律儀にやっている。
数時間にも及んでいた銃撃戦は、山口の介入によって、一時休戦となった。
「ダーリヤ!!あんた、偉いのか!?」
「お前こそ何をやっているんだ?」
文句を言いながら、飛行船に戻って来た山口。ダーリヤも律儀に物資を護りながら、山口の行動には
「軍人でもない奴が勝手なことを……」
「だから、あんた!!この戦争を止めろ!馬鹿らしい!!」
「あぁ?」
敬意をやや感じながらも、こいつを始末してやろうかという、優先順位になる。始まっている戦争を止めろだと?
「たかが補給支援の分際で」
「お前が戦え!!補給して、戦地のために戦う兵士の身にもなれ!!その兵士の家族の身にもなれ!!」
「そんな気概など、人類の進歩になんの役にもたたん」
「今、役に立ってないお前がそれを言う事じゃねぇよ」
……戦争は何かを生み出す。それは大勢の人々が失ったから、気付けるものがある。
逆に平和は何かを失う。それは大勢の人々がそれが当たり前な事だと認識するからだ。
「「!!」」
山口は知らない。しかし、ダーリヤも知らない。
お互い知らなかったし、お互いに別の存在の異常者。あれほどの身体能力を持つ山口が、防御するしかなかったというくらいの、蹴りだった。あれほどの身体能力を持つダーリヤが、一撃で殺せないばかりか、防御されたという、蹴りだった。
ゴオオオオォォォォッ
止んだはずの銃撃戦は、小鳥達がピーチクパーチク喋っているくらいの平和に感じるレベルだった。
それを物語るように山口の身体は、10キロは吹っ飛んだと分かる。なぜなら、ダーリヤ達の軍事拠点で山口の身体が止まったからだ。ダーリヤの方が100%勝つ。誰1人も敵わない、身体能力を持つ男。
「ったぁ~…………こんな蹴り、初めてガードしたぞ」
山口は防御したとはいえ、彼の一撃で、頭から血が出るくらいにはなっていた。
「なんだあいつ!?……あんな野郎、誰が勝てるってんだ!?」
そう言いながらも立ち上がる山口は、数秒を要した。元々、戦闘なんかするタイプじゃないし、好んでいない。なによりも平和が好きな男だ。
一方で、手段を考えていないだけだが、過程としての戦争は大いに結構という男。
すでに山口の眼前に立っていた。山口なんかとは比べるに値しない存在。
「家族など不要だ。なにせ人類は集合体であり、常に進歩せねば、滅ぶのだから」
「!……………」
こいつとは、相容れない。いや、こいつと仲良くなれる奴などいないと思う。それくらいの邪悪な瞳をしながら、純真な表情には夢を持っている事を誇りに思う人間。
話ししても意味がない。いきなり攻撃してくるし
「……まぁいい。俺を蹴り飛ばした事は許してやる」
「……俺の蹴りによく反応できたな。それができた奴は少ない。もったいない男だ」
ダーリヤの称賛なんか受け取らずに、山口は自分の仕事に戻る。届ける物資を確実に届けるため。さっきは軍人達が求めた武器・それに準じる物資だった。
しかし、それ以外にだってある。
「お待たせしましたー」
食料、衣類、嗜好品、娯楽、医療品などなど……。戦争に必要なモノでもあり、生きていくモノが届けられていく。
「うおおぉぉぉっ!!」
「ありがたいぃっ!!」
戦場で兵士達はそのことを大層に喜んだ。死ぬかもしれない場所を忘れさせてくれるような、幸せな物資の数々。帰りたいという気持ちを作り、必ず生きたいと願う瞬間。
味覚は喜び、肌は温もりを知り、心が温まる。お金で知れることが多い中で、環境を極限状態にまで追いやられて知ることはなんと惨いことか。
「これにて仕事は終わりです。また、ご利用願いますね」
別に物資を届けるだけに限らないけれど、こんな当たり前の事を、わざわざ戦場にまで来て知るべきもんじゃないだろう。
山口は笑顔で去ろうとするも、心の中では、結構大きめの舌打ちをしながら平和を望んでいた。あれほどの喜びは、平和ならいくらでも味わえるというのに。
「ん?」
「山口。お前、戦場に立て。そこがお前の立つべき場所なのだ」
「俺に命令するんじゃねぇ、ダーリヤ」
ダーリヤもまたこの軍事拠点に残っていた。しかも、
「つーか、普通にカロリーメイトを食してるんじゃねぇ、俺が運んだモノだろ?働いてねぇ奴がもらうな!ムカつくんだよ!」
「我が国が買い取っているものだ。私が食べてて何が悪い?あとで兵士達の労いくらいはする」
「お前はここで戦ってねぇだろ!!もういいからよ!帰るぜ!頼みたいことあったら、連絡寄越してくださいね!」
惜しいなーって、2人共、意見は違えど分かっていた。
さっさと終わらせる力がお互いにあるにも関わらず、そうしない。似非の平和であり、似非の戦争を続けているだけだ。
「戦争なんかしてねぇーで、豊かな暮らしを続ける努力をしろ。ロシア最強の男!兵士さん達から聞いたぜー」
「………………」
そんなことはできない。
山口がダーリヤの勧誘も、その考えなどにも、まったく興味にしないで去ろうとする。
言えることはいくらでもあろうに、山口にとっては、もう次のお仕事だ。それくらいのテンポで行かなきゃいけない。
だって、戦争よりも平和の方が多くて長いんだから。
「…………ふん、戦場のない国の男が。それは幻影に過ぎんというのに」
だが、しかし。
ダーリヤが自ら動きさえすれば、敵の軍人など羽虫の如く。そして、味方など必要のないモノ。なぜなら、彼に敵う人間などいないのだから。
◇ ◇
「でな、これがあの超有名なテロリストにして、賞金首が30億になったイスラ〇系の、あの男のサインよ!直筆だぜ!」
「「「おおぉぉ~~~!!」」」
それくらいの声が挙がるに相応しい、故人となった者のサインが書かれた配達証を見せびらかす。
「いや~、あの時は爆撃の嵐の中、荷物を抱えて戦地を走り回ったんだぜ。地下通路まで入ってご本人に届けに行ったからな!」
「荷物はなんだったんですかー!?山口部長!」
「春画ー!(意味は自分達で調べてね)」
山口部長は酒の席にて、この仕事で一番自慢できた事を部下達に語る。
それは
「あいつ等だって、AM〇ZONや楽〇とかの通販するんだよ!世界はな、みんなが思っているくらいに、平和を望んでいるんだよ!!戦争しているあいつだって、今欲しいモノがあるんだよ!!」
それが山口が望んでいる、全世界への望みである。
これを見ている者達にとってはすでに何気ない事であろうが。
それが当たり前になって欲しいし、そうじゃなかったって思っていて欲しい。平和と戦争の間のままでいて欲しいのだ。
「そんなことが……当たり前で、嬉しいことだってよー……全世界がそーなって欲しいのよ!!俺が世界最強になるよりも、この世界が一番幸せにしたいのが、俺の夢っつーか、……俺の生涯そのものだ!」
できることしかできねぇーけど。
山口というこの俺が。
……もし、いなくなった時。もし、急に死んでしまった時。
この世界にはまったく影響はありませんでした(笑)
それくらいに地球のみんなが、平和を謳歌し大切にし合えるためにも。
自分のできることだけは、やっていきたいものだ。




