お主が秘術使い?
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「ここは忍者同士協力しないか?」
そう提案をされた瞬間、左近の中にあった敗北感は吹き飛び、冷静さを取り戻す。
なるほど、確かに秘術使いである自身を引き込めば確実に彼らの戦力は上がる。
けれど、果たして自分にメリットはあるのだろうか?
一忍として慎重に相手の提案を受けた時のことを考える。左近自身、現状は中々に不味い状況だ。敵は常に自分のことを追ってきているのに地下であるために逃げ場がない。現状分かる出口は一つだけで、まず間違いなくその場所にも兵士が待機している。最悪、凶悪な罠が置かれているかもしれない。この状況を打破する術を求めているのも事実だ。
(う~む、だがなぁ、協力相手は養成施設の生徒が二人。
秘術はなく、一人前の忍という訳でもない。
その上態々こんな場所まで潜り込んだとなればこいつらには何か目的があるのだろう。手を結んだ場合、当然儂も手伝わなくてはならん。
只でさえ窮地に追いやられているというのに更なる鉄火場に身を投げ出すなど論外じゃ。なしじゃな、なし!
…それに、儂より身長が高くてイケてる奴を見ると腹が立つんじゃ!)
多少、私情が混じりつつも慎重に検討した結果、左近は養成施設の二人と手を組まないことを選択した。
当然、表面上は私情が混じっていることなどおくびにも出さない。忍たるもの取り繕うのは得意なのだ。
「…悪いが、断らせて貰おう。秘術使いでも無く、忍びとしても半人前のお主らと組んでも生存率が上がるとは思えん。」
「…ひ、秘術使いってことなら一応僕がそうだよ」
そう声をあげたのは提案してきた忍――ではなくその後ろに隠れていたまん丸のフォルムをした気弱そうな少年だった。
左近の頭が一瞬⁇で埋まる。
「…お主、何を言っておる。
お主のような不摂生な子供が秘術使いじゃと?家名はなんじゃ?」
「えっと、鼯鼠。鼯鼠米太郎」
「鼯鼠家?聞いたことのない家名じゃな。
忍術協会に身を寄せていることと言い、大したことのない秘術なんじゃろ?」
「え、えっと、忍術協会に入ったのはパパが、父上が今の時代、主君もいないのに在野で活動を続ける意味が無い。それよりも忍術協会の技術を学んだ方が先があるって」
(…な、なんと、理解のある御父上!――じゃない。
なんと身勝手でうらやま…けしからん奴じゃ!
秘術使いとしてのプライドはないのか!プライドは!)
「ふん、話にならんな」
「そ、そんなぁ」
もうここにも、こいつらにも用はない。
肩を落とし、これでもかと落ち込んでいる米太郎の横を通り抜けこの場を後にしようとした所――声を掛けられる。米太郎にではない。左近に提案を持ちかけた忍びに、だ。
「待て」
「なんじゃ?何を言おうと儂の考え変わらんぞ?」
「いや、協力関係を結びたいと言ったことは忘れてくれて構わない。だが、米太郎への侮辱撤回してもらいたい」
「はぁ、言った筈じゃぞ?儂の考えは変わらんと」
「なるほど、忍者にしては周りが見えない奴だと思ってはいたが、どうやら人の話も聞けないらしい」
「なに?貴様儂に喧嘩を売っているのか?」
「いやいや、ボクは喧嘩なんて売っていないよ。無駄な諍いは嫌いなんだ。忍者なんでね」
「…先ほどから回りくどい。言いたいことがあるのならはっきりと言え」
「ふふっ、いや、僕らと合流する前大立ち回りをしていたの、あれ君だろう。
初め見た時は何の騒ぎか分からなかったけど、君が秘術使いだと聞いてピンと来たよ。
雷を扱う秘術使い雷電家。有名だからね。
でもまぁ有名なのも合点が言ったよ。人目も気にせずあんな風に力を誇示すれば有名にもなるってもんだよ」
――左近の放つ殺気によって空気が凍り付く。
「…貴様、それ以上我が雷電家を愚弄するようなら、殺すぞ?」
「はははっ、忍べない上に短気と来たか。本当に忍者に向いてないね。
…因みに偉そうにしてるとこ悪いけど、君は既にボクらの施しを受けてるんだよ?」
「はぁ?何の話じゃ?」
「監視カメラさ。こうしてボクらがゆっくり話せているのもボクらがここら一体の監視カメラに細工をしたおかげなんだ。
…ほんとにこんなことにも気が付かないなんて見込み違いもいい所だ。
ああ、話は以上だから行きたいならさっさと行ったら?ボクらも君みたいな半端な忍者と手を組みたくはないからさ。少し休めて良かったね。ボクらのお陰で」
(安い挑発じゃな。
確かに監視カメラの件、気づくことが出来なかったが、ここら一体のカメラが機能していないのならそれを利用して儂だけでも逃げるとするかのう…………)
左近は忍として冷徹に判断を、判断を――、
「グチグチグチグチと!聞いておれば好き勝手言い寄ってからに!本当に癪に障る奴じゃな貴様は!
良いじゃろう!手を組んでやる!
儂の華麗な忍術の前にお主らが跪くのが今から見物じゃな!」
……下せなかった。
「そうかい?それじゃあ、よろしく頼むよ。それと、今から言っておくけど君は必ず米太郎への侮辱を撤回することになるよ」
「はっ!言っておれ!」
安い挑発と分かっていながらも、左近はいつの間にか踵を翻し、相手の提案を飲んでいた。
提案してきた忍者は余裕たっぷりの笑顔と共に手を差し出してくる。
それを、乱暴に握り返しながらも心の中で頭を抱えながら――、
(しまったぁぁぁぁぁぁ!挑発に乗ってしまった!)
猛烈に後悔していた。
そんな中、挑発してきた当の本人は左近の心情など知ってか知らずか――、
「ああ、因みにボクの名前は蓮。よろしくね」
マイペースに自己紹介を初めた。
4話目を明日の22時30分に投稿します。




