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未熟な忍者と侮るなかれ!!  作者: ☆☆☆宮☆☆☆太郎
プロローグ
1/11

妾は変な奴と出会ってしまったようじゃ

※この作品は法律違反を助長するものではありません。

※皆さん法律は守りましょう。

とある私有地の山の中、息を切らしながらも懸命に走る一人の少女がいた。体中を生えている枝で切り、生傷を作りながら、着ている服を泥で汚しながら、それでも少女は懸命に()()()

後ろからは発砲音と静止を促す怒号が聞こえてくる。

銃弾が少女の隣を通り抜け、幹へと刺さる。鉛玉ではなく薬品の入った小型注射器を飛ばしているようだ。

捕らえることを目的とした動き、けれど態々年端もいかない少女に対し、怒鳴りながら発砲する時点で真っ当である筈がない。

それを証明するように少女は表情を引き締めると、静止を無視して足により力を籠める。けれどそれが良くなかった。

全力以上の力を出そうとした結果、少女は足を縺れさせ転んでしまう。

しかもここは山の中、傾斜があり、一度勢いよく転ぶと傾斜に従いそのままゴロゴロとボールのように転がり落ちてしまう。


枝が体を切りつける。石が体にめり込む。隆起した地面で宙に投げ出され、重力に従いまた地面に叩きつけられる。

転がり落ちている影響で三半規管が乱れ、気分が悪くなる。


けれど、その地獄にも終わりが来る。ゴロゴロと転がりながらも運よく大きい茂みに突っ込み少女は減速を始める。そして少しずつ速度を落とした所で大きな木に激突した。


「ゲフっ」


肺から空気が抜けたことと突然の痛みにより少女らしくない野太い声が口から洩れる。

けれど、そんな乙女の恥辱と引き換えに少女は大きな怪我を負うことなく止まることが出来た。更に言えば、追手を蒔くことも出来た。散々な目に遭ったが結果だけ見れば上々と言えるだろう。


そう、ここで災難が終わっていれば、少女もそう思えただろう。


「いてっ」


木の上から何かが落ちてきて頭に当たる。そちらへと目を向けるとどうやら空き缶のようだ。


「いてっ」


また木から何かが落ちてくる。やはり空き缶だった。


「いてっ、いてっ」


又もや、木から空き缶が落ちてくる。しかも二本だ。いや、違う。

木へと視線を移した少女は木に大量に乗っている空き缶の山を見つける。ここは空き缶がなる木なのか?冗談抜きでそう思う程の空き缶の量。

そして、それらが――、


「うギャァァァァ」


少女へと降り注いだ。


空き缶の中に埋もれる少女、けれど、それで泣き出すほど子供らしい感性はしていない。少女は空き缶の中から這い出てくる。

そして怒りから目を吊り上げ、怒りを隠そうとしない乱暴な足取りで木へと近づくと――、


「誰じゃ!!木の上なんかに空き缶を捨てたのは!木の上はゴミ箱じゃないんじゃぞ!!」


思い切り、空き缶の木へと蹴りを入れた。


するとザワザワと葉が揺れだす。まだ何か落ちて来るのか、少女は一歩二歩と後ろへと下がり警戒する。けれど、その程度の警戒ではどうやら甘かったらしい。少女へと何かが落ちてくる。


「ゲブッ」


空き缶とは比べ物にならないくらい重い。押し潰され蛙のような声が出る。

少女は反射的に自分の上に落ちて来たものをどかそうと手を動かす。動かし、気付く、大きく、ごつごつとしているが、温かく、脈打つ感覚。何より人工物でしかあり得ない触り心地。


「人?」


その言葉と共に少女に覆いかぶさった人間が目を開け、体を起こす。


「おお?落ちてしもうたか…。こんなことここ最近は無かったんじゃがなぁ」


奇しくも少女と似たような古風な喋り方の青年だった。青年は下敷きにしている少女に気が付くと目を丸くする。


「んん?何故子供がこんな所にいる?親はどうした?」


青年は少女を純粋に案じているようだったが、この山にいる人間だ。安心は出来ない。少女は青年が体をどかしてくれたタイミングで青年から距離を取る。


そして、何時でも逃げ出せるように、姿勢を低くすると青年に逆に質問をぶつける。


「お前こそ、こんな所で何をしている?」

「儂か?儂は月見をしておったのじゃ。そしてそのまま寝た。」

「月見?ここじゃなくても良いじゃろう!」


少女の疑念は尤もだった。月見ならここじゃなくても家でも出来る。というかキャンプ場なら兎も角、私有地の山の中で月見をする意味が分からない。

そんな少女の心情を察したように青年はふっと笑う。


「…儂。家を追い出されてるんじゃ。…仕事も辞めてしもうて、これからどうやって生きて行こうか迷っててのう」

「な、なるほど?」


青年はそっと少女から目を逸らすと、体を丸めながら自嘲気味に笑った。ついでにまだ残りがあったのか、酎ハイの缶を開けるとグビっと思い切り呷る。


「ぷはぁ~、そんで人気の無い森の中でサバイバル生活を送ってるって訳じゃ。サバイバルも意外と悪くないぞ、食いたいときに飯が食えて、寝たいときに寝れる。唯一の欠点は人が作った物が手に入らない点じゃな。特に貯金が尽きれば酒が買えん。」


今度、自分で酒が作れないか試してみるか、飄々とした態度でそう言ってのける男に少女は思わず顔が引き攣る。


(こ奴、当たり前のように酒税法に違反しようとしてるんじゃが!!)


自分を追っている人間とは無関係のようだが、それはそれとしてとんでもなくヤバい犯罪者予備軍…不法侵入をしているから既に犯罪者なのだろうか?が現れ、少女の背筋から冷や汗が流れる。

けれど、目の前のヤベェ男はそれに気づいた風もなくマイペースに話かけてくる。


「それで?お主はこんな所で何をしているんじゃ?」


再度、男が質問をしてくる。それに対し、少女はこんな人間に自分の事情を話していいのかと一瞬逡巡するも――、


(まぁ、この男の存在も施設の人間にバレれば必ず殺される。なら教えてやった方が良いか)


善意から話すことを決めた。

勿論、この男が施設関係者に自分を売る可能性もあった。だが、それをした所で金銭が手に入る可能性は万に一つも無い。ならばこの青年の為にも話して逃げるように促した方が良いだろう。


「妾は山の上の施設で実験動物にされており、今は脱走中の身の上じゃ。お前もさっさと逃げい、見つかれば殺されるぞ?」

「成程、では忠告に従いさっさと退散するとするかのう」


青年は意外にも少女の忠告を聞き入れ、この場を立ち去ろうとする。

それを横目に少女も青年とは別の道を行こうとする。けれど――、


「ん?お主は何処から出ていくつもりじゃ?そちらは有刺鉄線で通れぬ筈じゃが」


その言葉を受け、少女の動きはピタリと止まる。…言われてみればこんなヤバい施設が山の中にあるのに外から簡単に人が入ってこれるようにしている筈がない。

ならば、闇雲に山を降りても行き止まりに差し掛かって捕まるだけなのでは?その不安が少女の脳裏に過った。


「の、のう。お前、出口が分かるなら一緒に降りても良いか?」

「あ~、まぁ見つかれば儂、どうせ死ぬんじゃろ?なら良いんじゃないかのう…」

「そ、そうか!なら短い間じゃがよろしく頼む!」


歓迎しているという訳ではないものの、同行に関しては問題ないという返答を受け、少女は安心から息を吐いた。

脱走を企ててから踏んだり蹴ったりな気もするが、結果としていい方向に進んでいる。

きっと脱走も結果として成功する。

根拠のない自身が少女の中で芽生える。


けれど、現実は当然そんなに甘くない。


「兵士がおるのう」


青年の言っていたことは事実で山には有刺鉄線が張り巡らされており、一部だけ以前脱走を企てた者の仕業か小さな穴が空いている。

山を一周ぐるりと回ったとしても恐らくあのような小さな穴は他の場所には開いていないだろう。ならば、意地でもあそこから出る必要があるが――、


「なにか、策はあるか?」

「う~む、策か、煙玉は持っておるが、果たしてそれで逃げ切れるかのう。あっ!」

「どうした!何か思いついたのか!?」

「柵はあるのに策はない!なんつって!」


途轍もなく寒いギャグを披露しながら一人ゲラゲラと笑う青年を横目に少女は死んだ目になる。目の前には無数の兵士が出待ちをしているにもかかわらず、自分の相方は寒いギャグを披露する犯罪者予備軍の酔っ払い。どう考えても詰みである。

こんな男と一緒では成功する逃亡も失敗に終わってしまう。少しの可能性ではあるが、他に同じような穴が空いている場所が無いか探すとしよう。少女はそう思い青年に声を掛けようとする。けれどそれよりも早く青年が口を開いた。


「どうやら見つかってしまったようじゃ」

「なっ!」


青年の言葉を受け、柵の前の兵士たちに目を向けるも気づいている様子はない。

少女は安堵の溜息を吐くと、青年を睨みつける。気づいてなどいないではないか、そう言おうとした。けれど――、


「後ろじゃ、後ろ」

「え?」


少女は青年の言葉に反射的に後ろを振り向く。けれどやはりそこには誰もいない。そう思ったのも束の間、景色の一部にノイズが走ると20を超える兵士たちが姿を現した。


「なっ!!」

「何故気づいた」


兵士の一人がそう問いかけてくるが、青年はつまらなそうにしながら酎ハイの缶を開ける。

一体何本持っているのか。


「ぷはぁ、原理はよくわからんが、要は隠れ蓑の術じゃろ?音は誤魔化せておらんし、突然吹く風などのアクシデントにも対応しきれておらん。若干ラグがあったんじゃよ。

…後はまぁ、殺気?」

「そうか、それはお前を殺して被検体を連れて帰った後に研究者たちにでも伝えておこう。」


兵士は青年に銃を向ける。

このままでは青年は死に、自分は捕まるのだろう。ならば――、


「ちょっと待て!」


少女は青年の前に出ると手を広げて青年を庇った。元々少女の捕縛が任務である兵士たちもこれをされては銃口を下げざるを得ない。


「…そこをどけ、被検体T1」

「いいや、どかん。この男を殺そうものなら、妾もここで死んでやる!!」

「…捕らえろ」


銃で駄目なら、銃を使わなければいい。青年は多少洞察力に優れているようだが、これだけの数の兵士を一人で捌ける筈もない。青年から少女を引き離し、その後に青年を殺せば済む話だ。そう思っていたのだが――、


「動くな!動けばこの枝で自分の喉を刺す」


どこにでもある。けれど、幼子であれば十分に致命傷になりえる鋭い枝を自らの喉元へと当てる少女。指示を出した兵士も思わず周りの兵士たちに静止を促す。

事態は膠着状態。この場では青年を見逃し、その後別の兵士を向かわせて青年を殺すべきか、本気で悩み始めた所で、青年が口を開いた。


「余計なことをするな。」

「「「な!」」」


その言葉に驚いたのは少女だけではない。兵士たちもまた驚いていた。

それもその筈でこの場で生き残る道はそれしかない。その筈なのに一体青年は何に腹を立てているのか。

何よりも庇った少女からすれば善意を足蹴りされたようなものだ、怒りから目頭を吊り上げながら、青年に向き直る。


「なんじゃ!その言い方は!!」

「庇ってくれなんて頼んでおらん。そもそも儂は庇われるのが好かん。…お前のような他人の為に自分の命を粗末にする奴はもっと好かん。」

「じゃが!あの場ではああするしか助かる道はないじゃろうが!どっちみち共倒れじゃ!!」

「儂は元々お主を売って助かるつもりじゃった。」


青年は当たり前のことのようにそう言ってのける。売り言葉に買い言葉では断じてない。そう思わせる程淡々とした声でその言葉を口にしたのだ。


「助かるつもりじゃった。助かるつもりじゃったのに…お主が儂を庇ったせいで意地でも助けたくなってしもうたじゃろうが!!」

「なっ!」


少女は青年の次の言葉の方に驚く。自分を売って助かろうとするのは分かる。この男に限らず自分の命は大事だ。施設で他人の命をモルモットにする下種共の下にいたが故に少女には自分の命を大事にするということが如何に大切であるか、当然の権利であるかを知っていた。

けれど、助けようとするなんて――、


「…それこそ、頼んでおらんわ!!」

「当り前じゃ!!お主は儂の主君ではないのじゃからな。頼まれたからってそんなことするか!これは自分の意思で決めた事じゃ!」


青年はそう言うと、腰を下げて臨戦態勢を取り、少女に安全な場所まで下がる様に指示を出す。いや、口と手が同時に動き、少女を後ろに投げ飛ばしていた。…指示は実質意味をなしていなかった。

そんな青年の姿勢に兵士たちは嗤う。ゲラゲラと下品に嗤う。状況を理解できずに、或いは理解しながらも子供の前で強がる哀れな青年を小馬鹿にしているのだろう。


「この状況で一体何をしてくれるんだ?ヒーロー君」

「…儂はヒーローではない。むしろヒーローという存在を最も嫌悪するものじゃ」

「そうかい、それは悪かった。それじゃあ詫びだ受け取れよ」


兵士はそう言うと一斉に引き金を引く。

鉛玉が青年の命を奪おうと目にも止まらぬ速度で迫ってくる。


《秘術・雷轟纏衣》


青年が手を大きく動かすとまるでカーテンがあったかのように青年の前に雷の仕切りが生まれる。

鉛玉は突如現れた雷の仕切りに吸い込まれていく。そして鉛玉の動きはそこで止まる。


「なに?」


リーダー格に相当する兵士は片眉を上げ、驚きを表す。

それに対し、青年は若干自慢げに胸を張った。


「この忍法《秘術・雷轟纏衣》は雷の膜を通り抜けた物体に電荷を付与し、反発する力を生み出す。…じゃったかな?詳しくは分からんが、我が主がこの小手と共に授けてくれた忍術じゃ!」


青年の話しぶりから察するにあの小手に秘密があるのか?兵士はそう思案するも、それが無駄な思考であると察し、意識を切り替える。

今重要なのは現実として敵に銃弾を防ぐ術がある、ということだ。

とはいえ、だ。


「成程、お見事。だが、それだけの電力を生み出すとなればそう何度も使えまい。次はどうする?」


未だ兵士たちの有利は変わっていない。兵士は余裕綽々で青年を煽る。それに対し、青年は持っていた酎ハイを投げることで答えた。先ほど飲んでいた酎ハイだ。中身が爆薬なんてことは無い。しかし、ならば何のために…そこまで考えた所で兵士はその酎ハイが意識を逸らすための囮であるという可能性に気が付く。


――が、実際はそう言うわけでも無かった。何故なら青年は酎ハイを踏みつけ空を飛んだからだ。

勿論、投げた酎ハイを踏んで跳び上がることなんて普通は出来ない。ならば、何故出来たかと言えば――、


(中の液体を足に纏っていた電気で気化させ、その急激な空気の膨張を利用し跳び上がったのか!)


けれど、跳び上がったのなら話は早い。空では身動きは取れまい。そう思い銃口を向けるも――、


「一体何本持ってるんだ!」


空から降ってくるアルミの欠片の雨あられ、それにプラスして空ではまるで花火大会のように爆発音が鳴り響く。

しかも、やたら鋭い立体軌道をしており、兵士たちも中々捉えられずにいた。

残念ながら、この中に鳥を撃ち落とす訓練を積んだものはいないのだ。


「クソ、落ち着けお前たち!酎ハイも無限じゃない!尽きて落ちてきたところを確実に処理する」


一見正しい判断に思える指示。だが、当然そう上手くはいかない。人生は不平等だが、理不尽というものは誰にでも襲い掛かるものだ。そして、今回のターゲットは兵士たちだった。


兵士たちの下までアルミ缶が落ちてくる。封は閉じており、まだ中に液体が詰まっていることが予想される。そしてそのアルミ缶がバチバチと光り爆ぜた。

当然、爆発するということはアルミ缶の欠片が辺りに飛び散るということで――、


「「「「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」」」」」


欠片が兵士たちに襲い掛かった。

腕や足なら問題はない。問題なのは顔に突き刺さっている者がいることだろう。そう言ったものは顔に手を当てながら蹲っている。

けれど、青年の攻撃はそれで終わらない。アルミ缶が空から二本三本と落ちてきて兵士たちを襲う。即席の空爆だ。


現場は混乱状態。空を舞う青年を落とそうと銃を乱射する者が後を絶たない。リーダー格の兵士はそれを止めようと声を張るが殆どの兵士にはその声は届いていなかった。

勿論、それでも青年を撃ち落とせれば問題はなかった。問題だったのは――、


「無駄打ちご苦労」


今度こそアルミ缶を囮にし、青年が大地に帰還していたことだ。

空を向いて銃を乱射していた兵士たちは反応が遅れる。

ある程度冷静に振る舞っていた兵士たちは青年の動きに対応は出来たが、青年が投げたアルミ缶に気を取られてしまう。

それも全て青年の読み通り――、


「安心しろ空き缶じゃ」


その隙をついて青年は冷静に行動していた兵士から順に次々と無力化していく。

そしてついに、最後の一人。


「俺だけか…」

「ほう、やたらと話していた男か。」


距離は10メートル。間違いなく銃の方が有利な間合い。

だが、青年は足元に転がっている。否、敢えて転がしておいた酎ハイを爆発させ、高速移動を実現する。

けれど――、


「それはもう見飽きてるんだよ!」


兵士もまた観察を続けていた。勿論空中と地上では勝手が違うが、これまでの経験と戦士としての直感が銃口の照準を狂わせない。

距離は約5メートル。


(勝った!)

その瞬間、黒い稲妻…否、稲妻と言っていいか分からない。何か良く分からないものが視界に移った。


《秘術・霆撃雷鈷》


いつの間にか、直ぐ近くまで来ていた青年。

その青年による引き金を引くよりも早い抜刀術によって銃口を斬られる。


「化け物が!」


最後の抵抗とばかりに男はそう吠えるが――、


「恥じることはない。今回は偶々、時を止められただけじゃ。」

「なにを…」


意外にも申し訳なさそうな青年の口調と不可解なその言葉に眉間を寄せながら、男は青年の電撃を受けて意識を失った。


☆☆☆


戦いが終わった。少女は予想外の結末に夢現のまま青年の下まで歩み寄る。


「大丈夫か?怪我は…」

「大丈夫じゃ、それよりもお主はどうじゃ?戦いに巻き込まれて怪我をしたんじゃなかろうな?」


青年を心配する少女の問いは、青年に遮られるような形での返答と、反対に質問を返されたことで途切れる。

けれど、それも少女を心配しての事、少女は首を横に振るう。

それに青年はわしわしと頭を掻きながらそっぽを向くと――、


「それなら、いい」


心底ほっとしたようにそう告げた。

少女はそんな青年の様子にむず痒い物を感じながらもなんと声を掛けていいか分からず口籠る。それにより偶然にも二人の間に沈黙が流れた。

その沈黙もまた、少しいたたまれずに、少女は強引に話を振る。

とは言いつつも、ただ話を変えるための言葉という訳でもなかった。

どういうことかというと――、


「お前は時を支配できるのか?」


それは少女からすれば無視できぬ話であったからだ。

けれど、青年はその内容を鼻で笑う


「出来るか、偶々だと言ったであろう。


出来たのなら、今頃行きたい場所に行っておる。」


一見少女の話を否定しているようにも聞こえる内容。だが、少女には――、


「何故じゃ?お前の手元には目的を叶えるための手段があるのに何故諦めるのだ?」


単純に諦めるための言葉に聞こえたのだ。

青年は少女の言葉に辛そうに顔を歪める。


「試したからじゃ、何度も何度も何十回も何百回も何千回も、それでも無理だったんじゃ」

「なら、次は何万回、何億回と繰り返せばいい。


それに、一人の時より二人いる時の方が案外上手くいくこともある。」

「…そうかも、ん?


お主、ここを脱出した後もついて来る気か?」

「うむ、お前といれば何かと安全そうじゃからな。お前も妾のようなピッチピチの生娘と一緒に入れて嬉しかろう?」

「ピッチピチ?ちんちくりんの間違いじゃろう?」

「誰がちんちくりんじゃ!誰が!!」


そうして睨み合う二人。けれど少女があることに気が付き、カッと目を見開く。


「そう言えば、柵の前の兵士たちは?こうしてはおれん。早く逃げねば…」

「ああ、それなら空を跳んでいた時に倒しておいた」

「手際よ!」


実際に柵のある方に目を向けると兵士たちが倒れているのが見て取れた。


「…やはり、お前と共にいた方が安全そうじゃな。というか、今気づいたんじゃが酎ハイを使って跳べば簡単に柵を超えられたではないか!」

「嫌じゃ、酎ハイが勿体ない。それに音でバレるわ」


その後も他愛もない話で言い合いを続ける二人。

けれど、無事に町まで降りられたことはここで伝えて置こう。


その後、この二人がどうなったのかについては、もう少し先の話になる。


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