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アルタイルの終生 〜 後悔の人生、今世で優しくやり直す~  作者: 葛西 
第一章 ルーヴァ村

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第七話 世界は二つでも心は一つ

この世界は三年に一回祝うらしい。


そしてその三年がまた経ち、明日には俺の誕生日を迎える。六歳だ。

なのに眠気がこない、いや寝ようと思えない。


それは誕生日の前日、寝たら前世に戻っていたから。

前日だった気もするが、あれは真夜中だった。もしかしたら0時を回っていたかもしれない。という事は誕生日の日に俺は世界を行き来していたかもしれないんだ。


そして、明日俺の”誕生日”がやってるかもしれないという事。


外を見ると雪が降っていた。

それは大雪といってもいいほどで雪は絶え間なく降り続けていて、部屋は凍えるように寒い。

ただ、それは火魔法を使わないとの話だ。

うちは父さんが火の魔法を使える為、空気に熱を与える事が可能だ。

だから今は快適に過ごせている。


けれど、温度とかの問題じゃない。

やっぱり、思えば思うほど寝れない、

あぁあ別に前世に思い入れがあったといわれれば、すぐにうんとは言えない。逆にいいえとも言ってるかもしれない。


なのに、前世で過ごした思い出は忘れないし、こっちの世界の方が居心地は良いのに、戻りたいって思ってしまう。

それがいい事なのか悪い事なのかよくわからない。


俺は拳を机に叩きつけた。小さな体が震える。

物に当たりたくなるくらい、自分の心が制御できない。考えれば考えるほど、自分がどういう思いで心が葛藤しているのかもわからない。

「もう……わからない」

その瞬間、頭の中、いわば記憶に出てきた。


拝貴志……俺の顔が浮かぶ。

「お前が……過去に縋ったからまた出てきた。俺はさあの生活辛かった記憶しかないのにお前は戻りたいのか?」


声は聞こえないけれど、頭の奥で響く。まるで、前世の自分が静かに説明しているかのようだ。

「……忘れたいのに、忘れられない……」


涙が頬を伝う。痛みも、怒りも、後悔も、全部入り混じって押し寄せる。

「俺は……こっちの世界で生きていく……」

それはやるべき事だからだろうか、

自分で決めた事だからだろうか、

いや当たり前のことだからなのだろうか。

ただ、この言葉が俺の人生を形作っていた。


俺は深く息を吸う。胸の奥で、前世の残像がかすかに揺れた。

見えなくなったけれど、確かにそこにある。過去は消せない。でも、今の自分はここにしかいない。


小さくうなずき、俺は布団に戻った。


夜のはずなのに、光がやけに眩しい。コンビニの赤い看板が滲み、街灯の輪郭がにじんでいる。アスファルトは濡れていて、靴の裏がペタペタ音を立てる。その感触が妙に生々しくて、体がぞわりとした。

(あぁ、戻ってきたんだ……)


手を見ると大きかった。スマホを握る右手の指は、子どもの指じゃない。

画面に「7月7日」とだけ見えて、胸の奥に何かが引っかかる。思い出さなきゃいけないのに、指で払ってもつかめない。街灯の下に人影が立っていた。黒い輪郭が次第に輪郭を得て、顔の痕跡が現れる。

――拝 貴志。俺だ。


「――ほんとうに、ここに帰ってきたのか?」


声が耳の内側で鳴った。問いかけは、優しくも冷たかった。


「……俺が二人か」


姿はぼんやりとしている。けれど、確かに前の自分だ。

俺が忘れかけていた、自分。

「……どうして、ここに……?」


「お前が、いや、俺が過去に縋っていたからだよ」

その声は、アルの胸の奥に直接届くようだった。

「俺はもう、一度消えたんだ。だけどお前が、思い出を手放さずに頭の片隅に置いてしまったから……また、こうして現れた」

俺は息を詰める。


「……拝 貴志は死んだんだ!そして俺は地球に戻れない……」

「戻れない。俺はお前の過去の記憶から現れた存在だ」

拝 貴志は、もうそこには存在しないはずなのに、形を成していた。


「だから拝 貴志は死んでなんかいない」


それは独立した存在ではなく、アルの心の映し鏡。

過去の自分の残像――とでも言おうか。


「拝 貴志か、俺はアルタイルであり、拝 貴志だもんな」


「あぁ、そうだ」


「……俺は、どうしたらいい?」


「お前が、自分の今を生きる覚悟を持てば、俺は消える」

拝 貴志の輪郭が、少しずつ淡くなる。


「……わかる。わかってるんだ、でも……」

俺は拳を握りしめた。戻りたい、でも戻れない。

今はここで、こっちの世界を生きるしかない


俺は生きる、生きないといけない。そう決意した。ただ、ただ、過去は消えゆくものなのに、頭の中によぎる過去を思い出すと辛くなってしまう。


ただ拝 貴志。俺だ、俺の心の拠り所は言った。


「別に過去の思い出を消さなくていいんじゃないか?過去の自分がした後悔を繰り返さない為にもさ。お前が悩んでる事はさ過去に縋っているからだ。けれど、過去も今も大切にして生きれば良いんじゃないか?アルタイルとして」


「そうかも、しれない……」

「だから、前を向け」

「……うん……そうするよ」


次の瞬間、世界がぎゅうっと歪んで、空と地面がひっくり返るみたいにぐしゃりと崩れた。

「っ──!」


木の天井が視界に飛び込む。

夢だったのか、それとも。胸が激しく鼓動する。匂いはここにある。木のベッド、木の床。現実の温度は確かだ。

けれど、胸のどこかに夏のざらつきが残る。

『ほんとうに、ここに帰ってきたのか?』


あの声がまた囁く。


前の記憶は押し込めて、できるだけ思い出さないようにしていた。だけど、無意識のどこかで引き戻されてしまう。


ーー

そこからの記憶はあまり覚えてない。ただ、出来事は覚えているけど、それを詳しくは思い出せなかった。


朝起きて、学校行って帰ってきて、前とは少し違うが

同じように家族みんなに祝ってもらった。

と言っても父さんと母さんだけだが。

けれどそこにはカレラとセーラもいた。


二人ともとっても可愛いくなっていた。

それは惚れてしまうくらいに……



そんな話は置いといて、カレラとセーラは貴族の娘達だったらしい。

俺は聞いた時驚いた記憶がある。

だってただの幼馴染だと思ってた友達が急に貴族だったってそりゃ驚く。


ただ、貴族だけれども政治や貴族価値観などの教育は受けておらず、ただただ一般的な人という事で過ごしているらしい。


カレラが言うには、当主がそういうのを嫌っているからかのだとか。



けれど、どちらとも数ヶ月後ここを旅立つらしい。

それは、一箇所にとどまっていると狙われる可能性もあるからだ。


政治には関わっていないらしいが、やっぱり当主の娘ならばそういう……言いたくないが、暗殺とか人質などあるのだろう。



ちなみにカレラとセーラは他の貴族同士だ。

あのかくれんぼした時にこの二人も初めて出会ったのだとか。

だからこの二人もまた別々になってしまうのだろう。


……惜しい事をした…..

あんな幼馴染で、仲良くて、それも1000年に一人の逸材だったのに……


はは…….


だが皆んなには内緒だが、とっても甘い出来事があった。それは……最後という事でカレラとセーラが俺のほっぺにチューをしてくれた事だ。


詳しい情景は思い出せないが、それはもういい匂いで鼻血を出した。うん、いい匂いだった。


…...あぁ、辛い事が重なるな。

せっかくの誕生日だったからもっとこっちの世界が好きに思えると思ったのに、なんだか自分がよくわからなくなって、幼馴染がいなくなって。


はぁ、もうだるくなってきたな……





そこから半年ちょっとが経った。

入学式だと気づかせてくれたのは、ドアの外で騒ぐ母さんの声だった。

そう、今日から学校が始まるのだ。

「アル〜! 起きてる〜!? 今日は大事な日よ〜!」


「……うん、起きてるよ」

俺はあの時からよくわからなくなってしまった。

それを俺は言葉に言い表せない、だから余計よくわからなくなって、辛かった。


***


着替えはいつもより時間がかかった。シャツは少し大きくて、ボタンが上手く留められない。母さんが何度も手を添えてくれるたびに、笑い混じりに顔を見せる。

「ふふ、アルはほんと腕がちっちゃいわね」

「大きくなるよ」

「そりゃそうよね、なるなる〜」

母さんの声はいつもどおりで、俺はぎゅっと胸をつかまれる気持ちになる。


父さんも今日は仕事を休んでくれて、一緒に歩く。

「ランドセル、重くないか?」


「ちょっとだけ。でも大丈夫」

「お、頼もしいなぁ。クラスで一番小さいくせに」

「……へへ」

笑いながら歩く。けれど、心の中はぐちゃぐちゃだった。


けれど、道端の花が風に揺れ、胸の中のざわつきが少しだけ和らいだ。


春の優しい風が吹く。歩いていると所々に、桜が咲いていてとても鮮やかだった。


学校へ近づくにつれて人が増えた。手を繋ぐ親子、泣いている子、寝癖のままの子。ワクワクと緊張が混ざるその感覚を、俺はいま確かに感じていた。

ただ、この世界に馴染んでしまう俺が怖かった。


***

長い式典。偉そうなおじいさんの話をぼうっと聞いていると、いきなり名前を呼ばれた。

「アルタイル・アステルくん」

「はいっ!」


思ってたより大きな声が出る。両親の顔が見え、二人ともにこっと笑っている。嬉しいけど、なんだかこそばゆい。


教室で隣になったのは、髪がふわっとしていて、可愛らしさと大人っぽさもあった。

ただ、ちょっとぼーっとした女の子。

「えっと、ぼくはアル」

「……のえ、のえる」

「ん?」


「ノエル、って言ったの……」

「そっか、ノエルちゃん」

ノエルは机に顔を預けてちょっと照れていた。


昼前、ノエルの筆箱が落ちて、俺が拾って渡すと「ありがと」と小さく言われた。声はちっちゃかったけど、ちゃんと届いた。


――たぶん、これで友達になれるんだろうな、と思った。


その後のことはよく覚えていない。ただ外を眺めていた気がする。


***

家に帰って制服を脱いでベッドに転がると、今日のことがゆっくり胸に沈んでいく。母さんのご飯は美味しかったし、父さんはたくさん話を聞いてくれた。だけどどこかで心は疲れていた。



帰宅して、自分の部屋。数ヶ月前に誕生日プレゼントとしてくれた父さんの木彫りの星が置いてあった。

それをずっと見ていると、なぜか過去を思い出す。


前世の街、雑踏、コンビニ、自販機、誰かの足音。ひとりぼっちの自分。

あんなに寂しい人生だったなのに、なのに、

この優しい世界は、どこか“借りもの”に思えてしまう。

胸の奥のもやもやは、次第に怒りに変わる。

「……なんで、戻れないんだ……!」


机を叩き、椅子を蹴り、拳で壁を殴る。痛みが、心のざわつきをほんの少しだけ忘れさせる。物に当たることで、自分の混乱をどうにか外に出そうとしている。

涙が止めどなく溢れ、声にならない叫びをあげる。

「おかしいだろ……もう死んだはずなのに……どうして、生きてるんだよ……!」



思わず机の上の木彫りの星を握りしめる。父さんが夜なべして彫ってくれたんだと思う。

だって父さんの手はキズだらけだったから……

温かさを覚えながらも、心は嵐の中だ。

「なんで、俺はここにいるんだ……」


俺の声は小さく、でも部屋に響き渡る。怒り、悲しみ、恐怖――感情が渦巻き、涙となって流れ出す。


息が荒れて、頭の中がぐちゃぐちゃに揺れる。

「こんなの、いらない!」叫んで星を投げつける。星は壁に叩きつけられ、かろうじて角が欠ける程度で止まった。割れなかったから、余計に苛立ちが募る。


足で椅子を蹴り倒し、机をひっくり返しそうになる。全身の力を木にぶつけたい。壊すことで、何かを終わらせたかった。


でも、手が止まる瞬間があった。

壊したら、戻れない。いや、戻れないのはもう分かっている。けれど、「壊す」という感覚は、現実の温度を奪ってしまう気がして、躊躇う自分がいる。


欲しいのは、破壊ではなく、答えだったのかもしれない。答えが出ない苛立ちが、また俺を震わせる。


涙が止まらない。嗚咽と一緒に、どうしようもない孤独が溢れる。母さんがドアを勢いよく開け、飛び込んできた。


「アルッ! どうしたの!? 苦しいの!?」

母さんの腕に全身を預けて、体を丸める。

父さんも駆けつけて、ベッドの端に腰を下ろす。二人の顔は青ざめていたぎ、俺は全部が温かかった。


「…...わかんない……」震える声で言うと、母さんは言葉を選びながらも、ただ抱きしめ続ける。


父さんは静かに言った。

「入学式もあって疲れたんだろう。アル、今はゆっくりと休んでいいからな」と。

言葉が胸にしみて、少し柔らかくなる。俺は両親に顔を埋め、泣いた。


涙は溢れてくるのに、どこかで落ち着きが戻ってくる。戻りたい気持ちと戻りたくない気持ちが、どちらも消えない。それは矛盾だけれど、今はそれを抱いて生きるしかない。


布団の中で、最後に小さく自分に言った。

(戻れないなら、ここをちゃんと生きてみる。忘れられないなら、それも抱えていく)


そういえば、俺も過去のことを忘れなくていいって言ってくれてたな。


あの時は心がざわついていてあまり覚えていなかった。けれど、あの言葉がとても今では嬉しい。


過去も今も大切に生きろ、か。

それもそうだ、どっちとも大切だ。

なんで俺はどっちかを選ぼうとしていたんだろう。


どっちも大切にすればいいんだ。過去も今も。


窓の外で風がまた吹く。冬の風とは違う、春の風。

記憶は消えない。けれど、父さんと母さんの手は今ここにあって、俺はそのあたたかさがとても心地よかった。


なんでこう皆んな優しいんだろうな……



夜、布団に入り、天井を見上げる。窓から差し込む月光が、木の床に柔らかく落ちる。

“俺は、ここで生きていくんだ。”


前の世界の拝 貴志の姿も、胸の奥で静かに光を放つ。

決して忘れることはできないけれど、今のこの世界で、自分は生きていく。


――たとえ、過去に戻れなくて心が揺れても。

――たとえ、自分がよく分からなくなっても。


俺……アルタイルの物語は、まだ始まったばかりだ。




どうも葛西です!

ここまで読んでくださりありがとうございます!

今回の話を振り返るとアルが”過去の自分”と”今の自分”に向き合わされた話でしたね。


“この世界での”

はじめての入学式。

はじめてのクラスメイト。


そして、幼馴染との別れ。


これが数ヶ月にわたって色々とありました。

書いてはいませんが、とてもストレスが溜まっていたと思います。


だから物に当たってしまう。そして、自分に当たってしまう。


これまでとは少し違う温度での物語だったと思います。


優しさに包まれていながら、その優しさに「本当の自分」が埋もれてしまいそうになる――そんな危うさ。

地球の記憶と、異世界での今。


二重のリアルが交差する中で、主人公アルが壊れかけ、そして救われる場面を描くのは、正直に言えばかなりしんどい執筆でした。


でもだからこそ、この話には僕自身の中でも特別な想いがあります。


“過去も今も大切にして生きれば良い”


このセリフが、あなたの中にも何かを残してくれたなら、とても嬉しいです。


「自分ならどう受け止めたか」――もしよければ、そんなあなたの“生きる意味”の一片を、教えてほしいです!


では、また次の俺話でお会いしましょう!


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― 新着の感想 ―
ようやくアルタイルが新しい人生を受け入れたんですね。 (*´ω`*)
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