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第五話 笑顔の重み

夜風がカーテンを揺らしていた。

窓の隙間から忍び込んだ冷気が、頬をそっと撫でる。

眠る前、俺は仰向けになって天井を見つめていた。

この世界に来て、もう一年半。

明日は誕生日──三歳になる。


……父さんと母さんは、祝ってくれるだろうか。

「……まぁ、いいか」


ぽつりと呟いて、目を閉じる。

穏やかな夜のはずだった。

けれど次に目を開けたとき、俺はアスファルトの上に立っていた。

――え?


街灯が等間隔に道を照らし、コンビニの看板が夜空ににじむ。

耳に届くのは車の走行音と、スマホをいじる高校生たちの笑い声。

ここは……俺が死んだ場所。


慌てて見渡す。息が荒くなる。

夢だ。夢に違いない。

けれど、冷たいアスファルトの感触、街の空気の湿り気――すべてが現実のように鮮やかだった。

気づけば、足は勝手に懐かしい店へ向かっていた。

TUTAKAだ。

自動ドアを抜けると、本棚の並びは昔のまま。


自然とラノベコーナーに歩いていた。

『異世界転剣録』

あの日、俺が手に取ろうとした本。

けれど背表紙には見慣れない番号が並ぶ。

十巻で止まっていたはずが、十四巻まで出ていて、帯には「完結」の文字。

「……終わったんだ」


嬉しい。だけど悔しい。

買うことも触ることもできない。

ただ、自分が消えた“後”にも世界はこうして続いていた。

胸が詰まるような思いで俺は言葉が出なかった。

そして、足はもっと懐かしい場所へ。


──家。前の世界の、俺の家。

玄関は開いていた。

鍋の匂い、リビングのテレビの音。

「ねえ、見てよ、はくとの写真」

「ほんとだ……懐かしいなぁ」

声。確かに父と母の声だ。


だけど、俺の「ただいま」は届かない。

姿も見えない。声も触れもできない。

「……会いたかった、よ」

声が震えた。

頬を濡らす涙。もう流れないと思っていたのに。


俺はここにはいない。

帰るべき場所は、もう別にあるんだ。

視界がにじみ、耳鳴りがして――


次の瞬間、布団の中に戻っていた。

拳を握る。

こっちが現実だ。

けれど、またあの場所に行ける気がして、恐ろしかった。


それでも同時に、不思議な安心感もあった。

今日は、誕生日。

「……こっちの世界で生きているんだ俺は」


なんだか世界5分前仮説を思い出した。

世界そのものが5分前にできていて、過去の出来事全てが偽物という仮説だった気がする。


もし俺が前の世界の記憶が偽物だったら?

なら今俺は新たな人生というより、偽物の記憶を持たされた新しい自分であり、今から生き始めようとする俺ってことか。


こんなふうに思うと都合が良いのか悪いのかよく分からないが、前の世界は記憶だけで、経験なんてしてなかったんだ。


だから過去の記憶なんてあったかもしれない。それでいいんだ。そうそれで。


もうアホらしくなってきた。やっぱり変なこと考えるんじゃなかった。気が狂ったな、あるわけない。

忘れよ…..




目を覚ましたとき、枕は涙で濡れていた。

窓から射す朝の光は、まるで夜の出来事なんてなかったかのように部屋を照らす。

「……夢、だったのか?」


けれど胸の奥はまだ痛む。

あの空気、あの匂い、すべてが消えていない。

「おはよう、アル。もう起きたの?」


母の声が階下から響いた。あたたかい、変わらない声。

「朝ごはんできてるわよー!」


でも一瞬、“どっちの母さん”だろうと迷ってしまう。

「……うん。今行くよ」

階段を降りると、食卓には目玉焼きとトースト、スープ。

そして母の笑顔。

「誕生日おめでとう、アルタイル」

その一言に、胸の奥が軋む。


「ありがとう……母さん」

言葉が少し震えた。

「今日は、アルにとって特別な日ね!」」

答えに詰まり、俺は庭へ出た。

冷たい空気。草の匂い。

けれど、どこか遠くで街の雑踏が聞こえた気がした。

「……どっちが本当の家族なんだろう」

答えはない。どちらも本物で、どちらも大切。


そのとき父が現れた。

鋭い眼差しで、しかし穏やかに言う。

「誕生日おめでとう。お前が生まれてくれて、本当によかった」

胸が熱くなる。涙をこらえ、うなずいた。


俺は町へと出ようと思った。三歳だがもう外へ出るのは許してくれる。

「行っています」

「まってくれ、アル。一緒に行こう」


俺はプロキオと何時間か歩いていた。昼食も美味しいのを食べ、カッコいい木剣も買ってくれた。

プロキオは俺を喜ばせようとしてくれていた。

「なぁ、アル。俺はどんな生き方でも応援するからな。だから楽しく生きてな」

そんな暖かい言葉は俺の涙腺を刺激した。


言って欲しかったようで、皆んなが言ってくれない言葉。でもプロキオは言葉にして伝えてくれた。

嬉しい。とても……


顔に出てたかな。今からは作り笑いでもいい、心配させない為にも笑おう。


午後、町へ出かけ、帰ってきた家には――

「アル、おかえりなさい!」

「おかえり!」

「誕生日おめでとー!」


飾り付けられた部屋、笑顔の家族、そしてそこにはカレンとセーラがいた。

机には母の作ったケーキ、三本のろうそく。

(……俺、祝ってもらってるんだ)

願いを込め、息を吹きかける。

炎が消えた瞬間、拍手と笑い声がはじけた。


夜、家族だけになって父がプレゼントをくれた。

プロキオの手には、革の手帳があった。

「お前の思ったこと、感じたことを、ここに書き残せ」

手のひらに伝わる重み。


「俺も昔もらったんだ。当時はこんなもの要らないって思った。けれど、今では思うんだよ。そこに感じた感情、思いが俺なんだなって」

「辛い時。自分で自分が分からなくなる。そんな時、これを見て振り返ると俺はこんな人生を歩んだんだって。

ただ楽しかった事を見たりするだけでも、心は泣きたくなるほど気持ちが整理される。そこで思うさ、頑張ろって」


「ありがと、父さん」

プロキオ、いや父さん。どんな思いで俺にこれを預けたかは分からない。ただ自分を見失わずに生きろって思いがあった気がする。

「まぁ、単純に学んだこと書き込んだり、自由に使っていいからな」

「はい」


その時急にアルシラが笑った。

「なに、父親ヅラしてるのよ」とそれはそれは大爆笑。

「なんだよ、いいだろうが。それに俺はもう父親だ」

「そうね、親の意識は持ちましょうか。ただあなたが父親って……ね〜」

何があったのかは知らないがとてもなごましい光景だ。


それでアルに〜、と言いアルシラは木箱に入ったものを俺に渡した。

「あけてみて」

「うん」

開けてみると、そこには赤ちゃん姿の誰かと、アルシラと父さんが描かれたブローチだった。


ガラス上から見ても、誰が誰だか分かるくらい絵が上手い。俺の赤子姿ってこんな見た目だっけ?と俺は心の中で笑った。


形は星型、いや宇宙? 

星の形では大体5本にとんがっているが、これは7本の形だ。宇宙に見えるのは、この星形の色が主に黒だが、少し青っぽいような。そう宇宙色だ。

いやはやとても綺麗だ。

何より、家族全員が描かれた紙切れが綺麗にブローチとの間に挟まっている。


すごい技術だ。忘れてはいけないのが、これをアルシラが描いたことだ。


「すごいね!」

「ふふっ、ありがと」

と笑って俺を持ち上げた。


「もし、辛いことがあったら私たちを忘れないでね。強く強く生きてほしい。ただ一人じゃきっと人間の限界はやってくると思う、その時は私たちを頼って」


「私たちだって辛い時頼りあったもしあの時頼らなかったらどちらとも死んでた…..だから辛い時頼ってほしい」

あぁ、愛されてるって感じる。なにより居心地がいい。とても心が暖かい。

アルシラ、いや母さん。ありがとう。言葉にするのは照れくさい。だから心の中でも感謝を…..前は、感謝なんて口にできなかったな。


…..やっぱり、言おう。ここから言えなかったから、いつか本当に親に感謝することができなくなってしまう。


「あの、母さん!ありがとう嬉しいよ」

「あらあら、本当に可愛い子」

俺たちは感動のハグを…..


その時父さんが大爆笑した。

「アルシラこそ母親らしいな」

「なによっ!私だってもう母親なんですから」

「それにカッコつけちゃって〜」

「あなただって、私よりもかっこつけてましたー!」


と喧嘩?というよりはいじり合いなのか?微笑ましいよな、多分。だってどちらとも楽しそうだったから。


「でも、あの時。本当にどちらも頼ろうとしたから生きているのよね…..」

「あぁ、そうだな。もしあのまま頼らなかったら、精神がもたなかっただろうさ」

二人は思い出を振り返るように言葉で思い出していた。


聞いてみたい。ただこれを聞くのは野暮だろう。

二人の思い出は二人だけのものだ。

ただいつの日か、話してくれるかもしれない時を楽しみにしてよう。



その夜、アルタイルは初めて自分の言葉を記した。


――三歳の誕生日。

たくさんの人に祝ってもらって、たくさん笑った。

転生していちばん、幸せな日だった。


三行日記だ。とても幼児ぽく書いてみた。年齢に沿って文章力が上がるのもそれまた一興だと思い、そうすることにした。

もしかしたら、いや無いと思うが、

もしみられたら転生した子供ってことがバレちゃうな。

でもそんなことしないと思うけど、それほど信頼できる人たちだ。


母さんが毛布を直し、優しく囁いた。

「……楽しかった?」


こくりと頷く。

母は安心したように微笑んだ。

(こうしていられるなら、人生って幸せなんだな)


俺は目を閉じた。

夜は静かに、優しく、溶けていった。


――その幸せが、いつまで続くかを知らぬまま。



どうも葛西です!


今回はちょっと世界5分前仮説というのを入れましたね。

アルが

「過去の記憶が偽物だったら?」と


本作では気が狂うという言い方をしましたが、

本当は自分への救いのために考えたことです。


ただ、もし本当に偽物だとして、アルがそれで救われるのかと言ったらそれは別ですがね。


もしよかったら調べてみて下さい。

これを見てもどうなるわけではありませんが、

自分はこれを見て、もしこの仮説が”本当”なら過去の記憶は偽物ということになりますよね、なら恥ずかしく生きる必要なんてないんじゃない?というポジティブな意で受け取りました。


私がこの仮説をよく理解できてるかは怪しいですが、多分この事で合ってるはず!!

一応調べたんですがね笑


でもこの仮説は正しさなんてありません。

正しいのか、それとも正しくないのか、そんなの誰にも分からないんです。答えが無いという方が正しいでしょうか。


この仮説は”真実”を問うようなものです。

だからこそ”今”は本物です。

私が皆さんに伝えたかったのは今この瞬間がかけがえのない本物の世界だよってことを伝えたかったです。


なんか色々と偉そうなことを言ってますが、多分ですが、この仮説の80%くらいしか理解していません笑


これは別に5分ですが、私としてはこれを最後の寿命まででいいと思いますよ笑


そう考えた方が今生きる時間が、本物だったのが偽物になってしまうから。


なんかこれ以上喋ってたらボロが出そうですのでやめときます笑 もしかしたらもう出てるのかも?


でも、作品を作る時みんなに考えてもらいたいなって思って、この仮説を取り上げさせてもらいました。


本当にアルが住んでる世界は世界5分前仮説の世界なのかもしれませんし、そうじゃないかもしれません。


それは!まぁ、私次第ですね笑


こう話してるとほんとボロが出てそうで怖いですね笑

ですので、終わりにしたいと思います。

第六話でまた会いましょう!またね〜!


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― 新着の感想 ―
素敵な誕生日と日記帳ですね〜。 (*´ω`*)
物語の展開が変わってきたね! 誕生日のシーンが特に好きかな。 これからも頑張って!
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