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第三十四話 水魔法が紡ぐ奇跡の舞台

放課後の訓練場。

カリナは腰に手を当てて叫ぶ。

「ノエル! もっと勢いをつけなさい! ノエルの水は弱すぎる!」

ノエルはむっとして返す。

「カリナこそ荒すぎるよ! 水は暴れて形が崩れる、見てられないね!」

「なに!?」

「ふん!」

水魔法の練習は、すぐに言い合いから始まった。だが数日も一緒にやれば、互いの得意不得意が見えてくる。

カリナ → 出力は高いが制御が甘い。水流が豪快すぎて形が崩れる。

ノエル → 繊細で正確。だが出力が小さく迫力に欠ける。



二人は何度も失敗し、びしょ濡れになりながらも、次第に呼吸を合わせ始める。

「……ちょっとはマシになったかもね」

「そっちこそ、勢いはそのままで、ちゃんと形になってきたじゃない」

言葉は素直じゃないが、二人の動きは確実に噛み合ってきていた。



ーー数日後

観覧席にはエレナ先生を加えて教師陣や上級生他学年の生徒までもが集まる。そして村の人達までもがここに集まっていた。

訓練場はまるで舞台のような緊張感。

「第一組、前へ。」

澄んだ声でロイ先生が名を呼ぶと、二人の生徒が舞台に上がった。

緊張からか表情は硬いが、杖を握る手には迷いがなかった。

「……やるぞ。」

「ああ!」

詠唱と共に水が舞い、やがて小さな氷の塔が伸び上がる。

その白き光景に観客席がどよめく。

「おおっ!」

「きれい!」

塔はゆっくりと高く成長した。だが、制御は長く続かなかった。

表面がひび割れ、氷片が次々と崩れ落ちる。

観客は息を呑み、教師の一人が無言で首を振った。

「惜しいな……」

「制度は十分だが、仕上げが甘い。」

氷片は砕け、小さな塔は呆気なく崩れ落ちた。

拍手が送られるが、それはどこか同情の色を含んでいた。


アルはその様子を、真剣な眼差しで見つめていた。

彼の隣ではルイスが腕を組み、ぽつりとつぶやく。

「やっぱり、どの組も練習不足だな。見てて危なっかしい。」

「……そうだな。」

アルは短く答えつつも、胸の奥がじりじりと熱くなるのを感じていた。

――自分たちの番が来たら、どう見えるんだろう。

――本当に、うまくやれるのか。


魔法、それも“魅せるための演舞”となると、正直自信はなかった。

(……練習では何度か形にできた。でも、ここは舞台だ。みんなが見ている前で……)

思わず手のひらに汗が滲む。

緊張を隠すように拳を握り締めると、隣のルイスがちらりとこちらを見た。

「おい、顔こわばってるぞ。大丈夫か?」

「べ、別に……」

アルは慌てて視線を逸らし、深呼吸をする。


次に名を呼ばれた二人は、自信ありげな笑みを浮かべながら舞台へと歩を進めた。

「次は見てろよ!」

すごい自信だな…そういえば小学校の授業でみんなの前で発表する時、何故だか涙目になってたっけ。緊張が怖さになったんだろうな。前に出て発表したら小さな声で早口で終わらせた記憶がある。

その時詠唱と共に水が渦を巻き、小さな竜巻へと変わっていく。

空気を巻き込み、唸るその光景は迫力十分。

しかし観客席へと竜巻が移動し水しぶきが飛び、思わず顔を覆う声があがった。

「きゃっ!」

「冷たっ!」

笑いとざわめきが混ざり、教師は目を細める。

「制御が粗すぎる。力を示すだけでは芸にはならん。」

渦はやがて力尽きるように消え、舞台に静寂が戻った。


次々と組が演技を披露する中、やがて「カリナ&ノエル組」の番がやってくる。

「ふん、見てなさい! 私達の本気を!」

「うん、絶対に成功させる!」

二人は手を掲げ、水流を生み出す。

最初はノエルの繊細な糸が舞い、細い水線が空を走る。そこへカリナが豪快な奔流を合わせると、まるで細い糸に力強い布を織り込むように、大きな水の幕が広がる。

さらに二人が同時に動くと、水幕が折り重なり、光を受けて虹のように輝く巨大な水鳥の幻影を描き出す。

「な、なんだあれは……!」

「水で……鳥を……!?」

観客がざわめき、教師たちも唸る。二人の水鳥は舞い上がり、訓練場を旋回し、最後に大きく羽ばたいて消える。その瞬間、観客から自然と拍手が湧き上がった。

カリナとノエルは、息を切らしながら顔を見合わせる。

「やったね!」

「……ふん、悪くないわ!」と照れながらも口元がにやけていた。

ノエルも笑っていた。

「二人とも仲良しだな」それにしても、すごかった。水で鳥を作る、あれは中々難しい。どれだけ練習をしたかが疑える。

二人ともすごいな。前世の俺は怖くて早く早くと逃げようと立ち向かわなかった。だが今世は後悔しない為に生きるんだ。だからこそ”今”から頑張るんだ。そう後伸ばしにするな。今だ。今。やれ俺。


「二人とも頑張ったな!」と大きく声をかけた。まずはここからだ。大きな声をかけるのは恥ずかしいけれど、ここから出来なかったら意味ないもんな。それと今はこういうワチャワチャ出来る雰囲気だからな。

その言葉にカリナとノエルも気付いて、手を振ってくれた。

カリナなんか私を見てというように、ノエルに負けないよう大きく手を振っていた。それに気付いたノエルも負けじと大きく手を振っていた。

それを見たクリフは仲が良いのか悪いのか苦笑いしていた。そして、それに気付かないアルに呆れていた。

「おい、アル。次の番俺らだぜ!頑張るぞ」

「そうだな、魅せつけてやろう!」変わらなくていい。ただ成長する為に頑張るんだ。


「次――アルタイル•アステル。ルイス•カスパロフ。舞台へ。」

ざわ……と観客席が揺れる。

前回授業で見せたアルの一戦が、すでに噂となっていたのだ。

だけども「よし。行こう。」そう呟いた。

好奇心と期待が入り混じった視線が、一斉に二人へと注がれる。

アルはごくりと唾を飲み込んだ。

舞台へと歩き出す足が、少し重い。

だがその横で、ルイスがにやりと笑った。

「行こうぜ、アル。見せてやろう。俺たちの水魔法を。」

クリフはアルの顔に塗っている覚悟に言う。

「緊張なんてただの妄想だぜ?俺らはこの三日でやれるだけ練習した。俺ららしくいようぜ!そうすれば緊張は居場所を失うさ。」

俺は気にかけてくれたことに嬉しかった。だからこそ涙が出そうだったが、グッと堪えた。

そうだ、緊張のヴェールなんか剥がしてしまえ。そしてただ楽しむだけだ。

そして、舞台裏に着く。

「頑張ろな、クリフ」

「そうだな!アル」

そう言いながら俺らは舞台へと入っていった。


舞台中央に並んだアルとルイス。

観客のざわめきが遠のき、静寂が場を満たす。

教師が手を振り下ろした。

「――始め!」


合図と同時に、二人は魔力を流し込む。

まずは小さな水球。掌の上にふわりと浮かび、光を反射して淡く輝く。

観客から「お?」と小さな声。

派手さはない。だが、その水球の揺らめきは驚くほど滑らかで、他の生徒たちとは一線を画していた。

ルイスが水球を軽く投げ上げる。

アルが指先をひと振り――水球が弾け、無数の細かな雫が舞台上を舞い散った。

照明を受けて光るそれは、まるで星屑のよう。

「……きれい……」

観客席の女子が思わず息を呑む。

アルは心臓が跳ねるのを感じながら、次の動作へ。

彼の魔力とルイスの魔力が重なり合い、足元から水の流れが生まれる。

すうっと舞台を走る水流は、やがて二人を中心に円を描き、渦となった。

「おぉ……!」

観客席がざわめく。

アルは額に汗を浮かべながらも、必死に魔力を制御する。

――ここからが本番だ。

「ルイス!」

「分かってる!」

合図とともに、ルイスが渦を持ち上げた。

渦が螺旋を描いて天へとのぼり、やがて空中で大きな水の花を咲かせる。

観客が息を呑む。

しかし、終わりではない。

アルが両腕を広げると、水の花びらがばらばらに散り、再び舞台へと降り注ぐ。

その雫の一つひとつが細かな糸となり、舞台を縦横に織り上げ――

――水の幕が完成した。

「わぁぁぁ……!」

観客席から歓声が上がる。

透明なカーテンのような幕。

その奥に立つ二人の姿がゆらめく

ルイスが剣を抜く。

幕がぱん、と弾け――

水滴が一斉に飛び散り、きらめく光の雨となった。

その中をルイスが駆け抜ける。剣先から迸る水の刃。

アルはそれに合わせて水流を操り、剣閃をさらに美しく演出する。

「すげぇ……!」

「今までの組と全然違う……!」

そしてクリフが剣に纏う水を振り払う。

観客の興奮が最高潮に達したとき、二人は最後の大技へと移る。

アルとルイスは同時に魔力を使う。

二人の魔力が交わり、舞台の上に巨大な水柱が立ち上がる。

轟音を立てて天井まで伸び――

――次の瞬間、花火のように弾けた。

飛散した水滴が虹色に輝き、観客全員の視界を覆う。

その美しさは息を呑むほどで、誰もが声を失った。

やがて静かに水が消え、舞台にはアルとルイスが立っていた。

二人とも肩で息をしながら、互いに顔を見合わせ――にやりと笑う。


一瞬の沈黙のあと。

「――すごい!!!」

会場が揺れるほどの拍手と歓声が巻き起こった。

「一回で終わらず、ここにいる観客を楽しませようとするような美しいショーだった。」とロイ先生は拍手をしていた。


その時「アル〜!すごかったわよー!」と大きな声で誰かが言う。こんな村の人達も集まるような大勢の中誰だと思ったら。

母さんだった。「かっこよかったわよ」と大きな声で言う。父さんはそれを止めずにグッとポーズしてやがる。 

忘れていた。親も見にきているんだった。今日の朝なんだがおかしいなと思ったんだ。母さんは「楽しみ〜」と、父さんは「たくさん食べていけよ」と緊張で気付かなかった。

まぁでも終わった事だ。これが始まる前じゃなくてよかった。

そう浸っていると、クリフが「頑張ったな」と声をかけてきた。「ああ、楽しかった」。

その後は他のペア達が演技を続ける。

俺たちの水魔法のショーのインパクトには及ばなかもだが彼らには彼らなりの工夫が光り、観客はしっかり楽しんでいる様子だった。

席に戻ると、カリナとノエルが手を取り合いながら笑っていた。

「アル、すごかったよ!」

「……私も次はもっと頑張る!」

 二人の声に、俺は自然と笑みを返す。

「あぁ…やり切った」

舞台の熱気と魔力の残滓が、まだ肌に残っている。

 肩の力が抜け、心地よい疲労感が全身に広がる。

俺は袖の端で、観客席に目をやる。

そこには驚きと感動が入り混じった表情が並ぶ。

今日のショーは成功だった。


けれど、これはただの始まりにすぎない。こんなに楽しいことがあっても、忘れられない。虚無の王はどうなったのか、そして三大英雄を見つけられるのか、そして俺が家族を守る事。

まだ始まったばかりだ。


今回の話は、アルとルイス、カリナとノエルの水魔法ショーを描いてみました。

剣術の方が得意なアルですが、魔術で魅せるところに注目してもらえると嬉しいです。

カリナやノエルたちの反応も、これからの成長に繋がるように描きました。

舞台は終わったけれど、物語はここからまた大きく動き出します。

次回も楽しんで読んでもらえたら嬉しいです。


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