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アルタイルの終生 〜 後悔の人生、今世で優しくやり直す~  作者: 葛西 
第一章 ルーヴァ村

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第二話 見知らぬ街、外への第一歩


*****


勇者と魔王の逸話


昔々――若くして勇敢な少年がいました。

人々は彼を“勇者”と呼んでいました。


ある朝。勇者テアイルは目を覚ます。


外が騒がしい。何事かと思えば、魔王の軍勢――魔族が攻めてきていた。

すでに村の外では交戦状態。


眠気を振り払いながら、テアイルは考える。

「今日は豊作の日だぞ……。わざと狙ってきたのか?」

(そうか、そうだよな……しくじったな)


太陽は雨雲にのまれかけていた。嫌な予感がする。

そのとき、宿屋のドアが叩かれた。

「勇者様! 魔族が攻めてきています!」

「……やるしかない、行こうじゃないか」

勇者テアイルは果敢に外へと飛び出していった。


――だが、彼がどう戦ったのかを見た者はいない。

村には戦える者など一人も残っていなかったから。


皆、魔王討伐のために北の大陸へ向かっていた。

体調を崩していた勇者だけが後れを取り、ひとり村に残っていたのだ。

しかし、その状態でも彼は強かった。


水属性の彗星級魔法グラゾーノを放ち、ただひとりで魔族を押し返した。

村人たちは涙を流して勇者テアイルに感謝した。


その日は“豊作の日”。収穫は減っていたものの、村は宝物庫のように実りであふれた。


やがて勇者テアイルは怒りを胸に北へ向かう。

道中で二人の勇者と出会い、北東の嵐が吹き荒れる海を越え、ついに魔王城へ。

そこにいたのは、体格は大きく禍々しいオーラを放つ魔王だった。


戦いが始まると大地は揺れ、

町では地震が起き、人々は恐れた。


それでも三人の勇者は退かなかった。

苦戦の末放たれた大魔法が魔王を貫き、ついに討伐を果たす。


人々は歓喜した。彼らは「三大英雄」と呼ばれ、村では毎日のように宴が続いたという。

――おしまい。



おぉ〜……すごいな。この世界には魔王がいるのか

……ところで、なんで俺言葉を分かるのかって?


寝て起きたら、自然に理解できるようになっていた。

もしかしたら前世の記憶があるからなのかもしれない。


いや、でも言語は全く違う。聞いたこともない言葉だ。



それなのに頭の中で勝手に変換される――。

不思議すぎる。

……まぁ、でもいいか。分からないもんは分からないからね!あははは。


そんなことを考えていると、父親が呟いた。

「何回俺は、この話を読み聞かされたことか」

母親が微笑みながら言う。

「それだけ有名な話ですから」


父親は少し真顔になる。

「……まぁな。けどこれは、一人の英雄が酒を飲みながら語った話らしい。誰かが美談に仕立て直した可能性もある」

まぁある?のかもしれない、そんなの日本の歴史では沢山それで溢れかえっているだろう。



そう感じた瞬間――ズキッ、と頭痛が走った。

強い痛みではない。けれど、ひっかかるような違和感。

痛みはすぐに消えた。気のせいだろうか。


あ、そういえば自己紹介をしていなかったな。


この大きな体の父親と、優しい笑顔の母親。

父親の名前はプロキオ。母親の名前はアルシラ。

そして俺の名前は――アルタイル、らしい。


呼び名は“アル”。

家名は「アステル」。

だから、アステル・プロキオ、

アステル・アルシラ、

アステル・アルタイル。


……うん、現代日本だったら完全にキラキラネーム扱いだろう。


前世の俺の名前は、おがみ 貴志たかし

もう必要のない名前だ。

けれど、忘れたくはない。

あの世界での努力を無駄にしたくないから。


誰にも褒められなかったからこそ、自分で覚えておかないといけない。

まぁ今の俺にはアステル家として生きていく使命があるけどね。


でも、もう一度の人生というのは

当たり前のことじゃない。


けどもしかすると、死んだ人間はみんなこうやって転生しているのかもしれない。


……でも、俺だけ特別、そう考えた方が都合がいい。

そう思うと頑張れる。

本当なら死んでいたはずの俺。

けれど今、ここにいる。

与えられた“特別な時間”。



奇跡みたいな話だ。

不公平で理不尽だって分かってる。

それでも。

もう一度、生き直せる。



夜。

眠っているはずの脳がざわめきはじめた。


――剣を握る三人の影。

――炎に焼かれる空。

――輝く魔法陣。

どれも断片的で意味を成さない。


だが“感情”だけは、鮮烈に流れ込んでくる。

恐怖、怒り、焦り、絶望。

そして、ほんのわずかな希望。


俺は飛び起きる。あれは夢だったのか?

分かるのは、頬に涙が伝わっていたということ。


理由は分からない、けれど確かに思った。

(…..なにかがあった)

その確信だけが胸を締めつける。


――だが、今の俺は赤子。

言葉も、歩くこともできない。

それなのに心だけは叫んでいた。

(また始まる……)






月日が経ち、俺は一歳半になろうとしていた。


赤ん坊から幼児へ――けれど、俺にとってはまだ「歩けるようになったばかり」の不安定な日々で

けれど、毎日は少しずつ色づいていた。


ある日は魔法を見て、そのあの日は、勇者と魔王の御伽話を聞いて、

俺は心が高揚して、魔法を使おうと思った。


そして使ってみたものの、全然ダメで何も変わらなかった。


だからこの結論にも至った。

剣士を目指そうと。

自分的には剣もカッコいいのだ。プロキオの影響だからだろうか、いつも素振りをしているプロキオを見ていると勝手に体が憧れていた。


でも、魔法が使いたいなー

魔法使いってかっこいいし、せっかく異世界に来たんだしさ。




外はまだ寒い。

春の朝。


吐く息は白くはならないが、頬を撫でる空気はひやりと冷たく布団のぬくもりを思い出させる。


鼻をくすぐるのは柔らかな草の匂い。濡れた土の湿り気と混ざり合い、胸の奥まで新鮮な空気が染み込んでいく。


窓から見えた村の畑は朝霧に包まれていて、

昨日まいたばかりの種を守るみたいに、白い靄が大地を覆っていた。


遠くの山にはまだ雪が残っているが、麓には花が咲き始めていて、白い花弁が朝露をまとい、光を受けてきらきらと輝いている。



ここはルーヴァ村。

自然と共に暮らす、小さな村だ。

木造の家々はどれも素朴で、煙突からはゆっくりと朝の煙が立ち上る。

鶏の鳴き声が遠くから響き、畑に向かう人々の足音が土の道を刻んでいく。


「ほら、アル。『おはようございます』って言ってみよっか」

母――アルシラが、やさしい声で俺を抱き上げ、笑顔で語りかけてくれる。


俺はアルシラの腕の中で身体をもぞもぞと動かした。

言いたい。けれど、まだ言葉にならない。喉から漏れるのは、喃語ばかり。

「ぁ、あ……」

その声は自分でも情けなく聞こえる。


アルシラはそんな俺を見て、くすくすと笑った。

「ふふっ、まだ早いかしら。でも、目はしっかりしてきたわね。……ほら、あっちを見て」

アルシラが窓の外を指差した。


風が吹き、畑の隅に立てられた風見鶏がくるくると回る。

その下では、子どもたちが遊んでいた。


小さな魔導石を使って、指先から火花を飛ばしたり、風を巻き起こしたり。

どうやら「魔法ごっこ」をしているらしい。

楽しそうだな……


その光景に、父――プロキオが腕を組み、口を開いた。

「……見ろよ、アル。あれが“魔法”ってやつだ」

魔法まほう

たった三文字なのに、俺の心を強く惹きつける。

あの夢の中で見た色々な魔法、想像の魔法。全てがかっこいい。


まぁあの魔法ごっこ。

日本人だった俺からしたら火花を人に向けるのは危ないと思うけど。

でもやっぱり楽しそうだ。俺も……

胸の奥で眠っていた何かがことん、と音を立てたような気がした。


アルシラが俺の額に口づけしながら微笑む。

「アルタイルが大きくなったら、どんな魔法を使えるのかしらね」


プロキオが笑いながら俺の頭を軽く叩いた。

「楽しみだな。俺みたいに火魔法じゃなくてもいい。お前はお前の力で、道を見つけてくれればな。まぁ俺は剣士だから、剣の道も広げてあげたいけどな」

プロキオは笑って言った。


――魔法。

(俺も……はやく使えるようになりたい)

自分の内に流れる小さな“何か”が震えた気がした。

魔法をもしかしたら使えるかもとは思っていたけど、こう使える前提で話されるのは少し不安で少し楽しみだ。

もし使えたら……


俺が憧れたのは、水魔法と風魔法。

この世界には五大魔法があるらしく、火、水、地、風、雷があって、俺の中では水と風が強く惹きつける。

水は生命を風は自由を。

(なんか……良いな)


そのとき、不意に風が吹いた。

軒下に吊るされた風鈴がからんと鳴り、

部屋の空気がふっと動く。


「……今、なにか感じた?」


アルシラが小さく目を見開き、俺を覗き込む。

その手がわずかに震えている。


プロキオも気づいたようで、俺にそっと手を伸ばしながら目を細めた。

「今の風……アルの魔力が反応したんじゃないか?」


「まさか……まだこんなに小さいのに?」

「いや、あるぞ。稀に生まれつき素質を持っている子がいるって聞いた。魔力が強いと、自然に風や空気が揺れるんだ」

二人は真剣に俺を見つめていた。

……やめてくれ。ちょっと恥ずかしい。


俺だって、いきなり魔力を使ったつもりはない。

ただ、風を感じた瞬間、胸の奥で何かが脈打っただけで――

(もしかして、これが“魔力”なのか?)


初めて実感した、自分の中の“力”。

それはまだ、かすかな脈のようなものだったけれど、確かに存在していた。


――使ってみたい。

この力で、何かを変えてみたい。

この世界で、生きていくために。


窓の外では、風見鶏がくるくると回っていた。

春風に乗って、子どもたちの笑い声が遠くから届く。


ある春の日。

「そろそろ、外の空気を吸いに行ってみない?」


アルシラの声には、期待と少しの不安が混じっていた。

赤ん坊だった俺は、もう自分の足で歩けるようになっていた。けれど、外の世界はまだ“窓越し”でしか知らない。


行きたい。見てみたい。けれど怖い。

胸の高鳴りが不安を呼び起こす。



それでも、俺は勇気を振り絞り外に出ようと思った。

木の扉が、きぃ、と音を立てて開く。


吹き込む風が頬を撫でた。

冷たすぎず、温かすぎない春風。

土の匂い。草の香り。


――世界は、思っていたよりも鮮やかだった。

それも日本よりも、空気は新鮮で美味しかった。

「ゆっくりでいいのよ。ほら、手を握って」

アルシラの手をぎゅっと握り、一歩一歩、土の道を踏みしめる。


小さな石が転がる音。

鳥のさえずり。

川の音。

家の前の畑で遊ぶ子どもたちの笑い声。

そのすべてが、焼きつくように胸に刻まれていく。

(ここが……俺の世界か)


たった数十歩。

それだけで、俺の中の世界は広がった。

空は高く、風は自由で。

胸が、高鳴った。


アルシラが微笑み、俺の耳元で囁いた。

「アル。これから、きっといろんなものを見ることになるわ」

俺の中で確かに脈を打つ。



そこからよちよちと歩いていくと、道の先に人だかりが見えた。


 市場、と呼ぶには小さいけれど、畑の収穫や手作りの品々が並ぶ、村の広場ようなものだった。

立ち止まると、風に乗ってきた焼きたてのパンの香りが鼻をくすぐった。つい顔がほころぶ。

前世でも、パン屋の匂いが好きだったな。


「おや、アルシラさんじゃないか。もうお子さんを外に?」


 にこやかに声をかけてきたのは、顔なじみのような老爺だった。手には籠を抱え、その中には色とりどりの薬草が詰められている。


「ええ、今日がはじめてなんです。まだよちよちですけどね」


 アルシラが笑って答える横で、俺はじっと彼を見つめた。

 見知らぬ人。でも怖くはない。それよりも、こうして自分の存在が誰かに受け入れられていることに、ほんのりと温かさを感じていた。

「……へぇ、目がしっかりしてるなあ。こりゃ大物になるぞ」


 そう言って、老爺は俺の頭をくしゃっと撫でた。

 触れた手はごつごつしていて、でもどこか懐かしい感じがする。



その後は市場で何人かに声をかけられた。そのひとつひとつが、俺の居場所を教えてくれるてみたいだった。


 俺はまだ、この村のことを何も知らない。だけど、少しずつ分かる。

 ここは、人のあたたかさも、風のやさしさも、すべてが繋がっている。


 ――そして、ここが俺の「始まりの場所」なんだ。



 市場のような村を抜けた先の道は少し開けていた。畑の合間に小さな花畑があり、子どもたちの笑い声が風に混ざって聞こえてくる。


 俺はアルシラと手を繋いで視線だけをあちこちに動かしていた。

 見慣れない色。知らない音。すべてが新鮮で、少しだけ胸がざわつく。


「今日は、暖かいわね。アル、気持ちいい?」


 アルシラが、俺の頬にかかる髪をやさしく払った。

 俺はわずかにうなずく。


「ふふっ……可愛い。ねえ、あれ見える? クローバーのお花が咲いてるのよ」


 アルシラは腰をかがめ、指差す先に咲いていた白い小さな花を見せてくれる。

 俺の視線はその花に釘付けだった。


「昔ね、お母さんは四つ葉のクローバーを見つけたことがあるの。すごく小さかったけど、大事に押し花にして……お父さんにあげたのよ」


「ん……あぁ」

 声にならない声が漏れる。


 アルシラは一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに笑って言った。


「……今の、アルの声? 言葉じゃなくても、ちゃんと気持ちは伝わるわ」


 俺の目の前に、視界がひらける。

 広がるのは、果てのない草原。

 風に揺れる草は一面に広がっていて、どこまでも続いていく。


 その先にはぽつりぽつりと木々が見え、さらに奥に、青く霞んだ山が連なっていた。

(……でか……)

 そんな言葉が、思わず心の中でこぼれる。


 いやほんとに、俺の想像してた“田舎”とか“自然”ってレベルじゃなくてまじで異世界っ感じだな。

 風が吹く。髪がふわっと持ち上がり目を細めながら、俺はその風の流れに意識を向ける。

 ――感じる。

 なんとなく、だけど。


 流れ。圧。匂い。空気の振動。

 “風”って、こういうものなんだな……。

「……アル?」


 アルシラが心配そうに俺を覗き込む。

 でも俺は、ただ前を見ていた。

 遠く。もっと先。


 自分の足で歩いて、その先に行ってみたいって思った。なんでか分からないけど、この景色を――ちゃんと自分の目と、心と、力で掴んでみたいって思ったんだ。


「アル……笑ってるのね」


アルシラはほんの少し泣きそうな顔をした。


「ありがとう。こんな場所を好きになってくれて……本当に嬉しいわ」


 ――いや、ちょっと待って。そんな大げさな。

感動シーンみたいな空気やめてくれ……。


俺、今たぶん、口の端ちょっと上がってただけだから!


 でもまあ……この世界は好きだよ。

 ここは、気持ちが落ちつく。

 この世界で生きてくのは案外楽しいかもしれない。


 そのときだった。

 胸の奥が、ふっと熱を帯び、びりり……と微細な振動が体を走る。さっきまでただの風だったのに、何かが“通った”感じがした。


(……今の、魔力?)

 正直、よく分からない。


 でも、確かに胸の奥で、何かが脈打った。


 風が吹いて、草がさわさわと音を立てる。太陽の光は、優しくてまぶしい。

 なんだろうな。

 

 まだ何も分からないけど――少しずつ、自分がこの世界で“動き出している”気がする。

 


世界は自然はやっぱり綺麗だ。

そう思いつつ、にやりと満面な笑みで。俺は魔力に胸を高鳴らせていた。





これからも頑張りますので応援よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
魔法を自由に使えるようになるのが楽しみですね。 (*´ω`*)
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