第三十話 特別授業
今日は、学園でも年に数回しかない特別授業の日だった。
午前は剣術試合、午後は魔術試合。成績だけでなく、学院内の序列にも影響する大事な日だ。
朝から生徒たちは妙な高揚感に包まれ、訓練場の空気は普段よりも熱い。
「おーい、アル!今日の相手決まったぞ!」
教室の入り口から、クラスメイトが声を張り上げて走ってきた。
嫌な予感が胸をよぎる。俺はまだ座ったままの姿勢で、面倒くさそうに答えた。
「……誰だ?」
「カリナだ!」
その瞬間、教室の何人かが「おぉ」とざわめき、何人かは「南無」と呟いた。
カリナ──同級生の中で飛び抜けた実力を持つ少女。短気で勝気、そして容赦がない。
朱色の結んだ髪と、鋭い目つきが印象的な彼女は、同世代の中で剣術も魔術も上位に食い込む猛者だ。
「ふーん……まあ、別に」
俺は肩をすくめた。剣術は俺がずっと磨いてきた得意分野。負ける理由はない……はずだった。
そのとき、背後から聞き慣れた高めの声が飛んできた。
「アル!昨日のことを考えてないで真剣に戦いましょ!」
振り向くと、カリナが腰に手を当てて立っていた。
口元には挑発的な笑み。まるで「勝つのは決まってる」と言いたげだ。そして昨日のこと。あぁ、俺が変な雰囲気にして終わった日だ。俺は今日、もしかしたら進展あるかもなとでも思っていたが、ダメだったらしい。
「せいぜい恥かかないようにね、アル」
「……お互いにな」
短く返すと、彼女は鼻で笑った。
「アンタ、剣術得意なんでしょ?だったら手加減なんかしないわよ。全力で叩きのめしてやるわ!」
「こわっ…でも頑張るか」
「その意気ね!」
もしここで勝ったらデートしてくださいとでも言いたいが、そんな事を言えるような俺じゃない。
てかこんな子供を好きになるなんて俺って….ん?子供?まだ俺らって六歳くらいだよな。俺は中学三年生だ。手を出してはいけない。そしてロリコンでもない。だからまだダメだ。そうまだ。
後少しでカリナもいつかは、成長して…
いかんいかん集中しよう。
俺は気持ちを切り替えて訓練場へと向かった。
そんな中、周囲は「おお、火花散ってるな……」とざわついていた。
訓練場の石畳は冷たく硬い。周囲の視線が一斉に集まる中、アルは静かに剣を構えた。
対するカリナは不敵な笑みを浮かべ、その眼差しは鋭く、まるで獲物を狙う猛禽のようだった。
「アル、手加減は禁止よ」
「あぁ、カッコ悪いところは見せられない。」
「二人とも頑張ってー!」とノエルが言う。
審判が「では始めます。二人とも階級の評価にも繋がりますので頑張ってくださいね。よーい、始め」そう手を上から下に振り下ろし、戦いは始まった。
「さあ、行くわよ!」
カリナの号令とともに、彼女が一気に間合いを詰めてきた。
素早いステップで踏み込み、振りかぶった剣が閃光のようにアルへ向かう。
アルは反射的に剣を交差させて受け止める。
しかし、カリナの一撃は重く、衝撃が腕に伝って脳裏を震わせる。
「まだまだ!」
カリナは連続で斬撃を繰り出す。速さは尋常ではない。
アルは一つ一つ丁寧に防御を重ねるが、その速さに押され始めた。
「くっ……!」
アルは剣を水平に振り下ろし、カリナの動きを封じようとした。
だが、カリナはそれを見切り、かわして素早く回り込み、アルの左脇を狙う。
「ふっ!」
剣先がかすめ、鋭い痛みが走った。アルの防御が破られた。
よかった、もしこれが真剣だったら。
考えるだけで息が荒くなり、額に汗がにじむ。
「そんなもん?」
カリナは勝ち誇った笑みを見せる。
アルは心の中で強く思った。
「カリナは強いな。でも俺だって負けるにはいけない、剣は俺の魂だ……!」
しかしカリナの攻撃は衰えない。巧みなフェイントを混ぜながら次々と攻めてくる。
アルは必死に防ぐが、徐々に体力が削られていった。
最後の瞬間、カリナが一歩踏み込み、強烈な斬撃を放つ。
アルはよろめき、バランスを崩し、そのまま膝をついた。
「勝負あり」
審判の声が響き渡る。カリナは息を整えながら、勝ち誇ったようにアルを見下ろした。
「ねえ、アル。もう少し練習したほうがいいわね。今度一緒にでも…」
え、今なんて?今度?くそ、観客(生徒)のせいで聞こえなかった。
アルは苦笑いを浮かべて答えた。
「……次は魔術で挽回する」
周囲の視線が熱を帯び、次の戦いを待ち望んでいるのを感じた。
午後の空は薄曇り。アルとカリナは水の魔力を集中させ、戦いの構えを取った。
カリナは挑発的な笑みを浮かべながら言う。
「魔術は苦手なんて言ってたけど、どうなるか楽しみね」
アルは落ち着いて応じる。
「魔術も練習はしてきた。負けるわけにはいかない」
戦いが始まる。
カリナは素早く手を動かし、空中の水分を集めて細く鋭い水流を放つ。
その水流はまるで刃のように、アルに向かって高速で飛んでくる。
アルは体を翻し、盾となる水の壁を生み出して攻撃を受け止める。
水の壁が激しく震えながらも、水流を跳ね返した。
次にカリナは形を変えた水の鞭を操り、素早くアルの側面を狙う。
しかしアルは瞬時に反応し、水の結界を前方に広げて鞭の攻撃を防ぐ。
「なるほど、相変わらず動きが速い」
アルは集中力を高め、水の流れを自在に変化させてカリナの攻撃をかわしながら、逆に細かい水滴を高速で飛ばし反撃を試みる。
「ここからが本番だ」
水滴は雨粒のようにカリナに降り注ぎ、視界を遮る。
その中からアルはより密度の高い水の塊を拳に凝縮し、カリナに向けて放った。
カリナは咄嗟に体をよけたが、水の塊は彼女の腕に命中し、衝撃でバランスを崩す。
「くっ……!」
アルはその隙に勢いよく前に出て、連続した水の刃を繰り出す。
それは鋭い水流でできた刃で、切れ味は刃物にも劣らなかった。でも俺はわざと切れ味は悪くしていた。友達を傷つけたくないからな。それと人の血を見るなんて気分のいいものではないから。
カリナは必死に防御を試みるが、攻撃の速度と正確さに押され、後退を余儀なくされる。
最後にアルは大きく息を吸い込み、全身の魔力を水に乗せて巨大な水の渦を作り出した。
その渦は強烈な圧力でカリナを押し流し、彼女を倒した。
審判が声を上げる。
「勝者:アル!」
カリナは悔しそうに顔をしかめながらも、口元に笑みを浮かべて言った。
「認めてやるわ……魔術での勝利はアンタのものよ」
嬉しかった。そう嬉しかった。カリナの服が水で濡れて肌が見えそうだった。でもすぐに魔力を使って服を乾かしてしまった。く、くそ、もっと早く気づいとけば。
アルは汗をぬぐい、でも勝てたことにほっとしたように息を吐いた。
「ありがとう。けど剣はまだまだだ……次はそっちで勝負だ」
「そうね!ねぇ、アル。今度また一緒にダンジョン行くわよ!この私が剣術を教えてあげる!」
俺はこの戦いで思った、魔術の方が才があると思う。でも、だ。剣の方がしっくりくる、そして楽しい。だから俺は剣術を極めたい。
「あぁ!嬉しいよ!二人で強くなろうな!」
「当たり前よ!」
カリナは満面の笑みだった。
そして、二人の目には何かが宿っていて、どちらも同じものを見ていた。
どうでしたでしょうか?
是非感想などお待ちしております!