表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/47

第二十五話 冒険の扉が静かに開く

 ダンジョン最深部。

 そこは意外なほど静かだった。


 湿った空気に満ちた地下の奥、苔むした石壁が淡い光に照らされ、床には崩れた装飾品の破片が散らばっている。まるで誰かの失われた王国の残響。だが今、その静寂を踏み鳴らす足音が二つあった。


「……案外、あっさり来れたね」


 カリナがポニーテールを揺らして振り返る。額に汗を浮かべてはいるが、その目には明らかな余裕があった。


「うん。初級って言われてたの、伊達じゃないかも」


 アルも頷く。実際、これまでに遭遇した魔物は数も少なく、質も高くなかった。ゴブリンに毛が生えた程度のものばかりで、アルの魔法とカリナの剣術で難なく突破できていた。あいつは強かったけど。


 アルはなんとなく違和感を覚えていた。

 拍子抜けするようなこの展開。それが逆に、最後の部屋に何かがあるという予感を強くさせた。


灯火の魔法を浮かべながら前を見つめていた。目の前には重々しい扉。装飾こそないが、圧倒的な魔力の壁が感じられる。


「……どうする? ちょっと休憩してから入る?」


「いや、今が集中してる。行こう」


「アル、構えて」


 扉の前でカリナが声をかける。アルが小さく頷くと、カリナが思いきり扉を蹴り飛ばす。


 ――ガンッ!


 開いた扉の先。そこにいたのは巨大な岩の魔物だった。

 ごろごろと音を立てながら起き上がるその姿は、まるで石像が命を得たようだった。


「ゴーレム……か」


 アルは眉をひそめた。魔法が効きにくい敵だ。構造が単純で、魔力の干渉を受けにくい。下手に火球を撃っても、弾かれるだけかもしれない。


「よし、私がひきつける! アルは後ろから!」


「わかった!」


 カリナが先に走り出し、ゴーレムの正面に飛び込む。剣を振り抜くが、カン! と高い音が鳴って弾かれる。


 アルはその間に周囲を観察していた。


 ――なにか……できるか?


 床に落ちていた石の欠片に触れた瞬間、何かが脳裏に流れ込んだ。


 世界が、変わる。


 自分が触れた物質。その構造、その性質が手に取るようにわかる。

 ――いや、これは……感じているんじゃない。“操作できる”!


「……これが、“構成”?」


 意識を集中する。


 すると、手の中の石の硬度が変化し、滑らかに光る球体へと変わった。さらに集中すると、魔力を通す導線のような紋が刻まれていく。


「……いける!」


 アルは作り変えた球体を放り投げる。球体はゴーレムの足元で炸裂し、魔力を攪乱する煙が広がった。


 その隙を突いて、カリナが胴体に渾身の一撃を叩き込む。石肌がひび割れ、ついにゴーレムは崩れ落ちた。


 ――勝った。


「やったーーーっ!」


 カリナが跳ねるように喜ぶ。大きな瞳を輝かせ、全身で嬉しさを表現していた。


「いやあ、初級ダンジョンとはいえ、結構手こずったね……アル、あんたの今の何? 煙玉?」


「……違う。たぶん、“構成”って能力だと思う。触れたものの形とか、硬さとか、変えられるみたい」


「なにそれ、ずるいわよ。私だって…」 


「でも、最後の攻撃のおかげで勝てたんだ。カリナ強いね」

パァーっとカリナには満面の笑みだった。


 二人は笑い合う。互いに支え合い、ダンジョンを攻略したという確かな実感がそこにはあった。


 そして、その笑顔の裏で――


 アルの内側に眠る何かが目を覚そうとしていた。


地上へ戻る石階段。夜風がひんやりと火照った頬を冷ました。カリナは深く息をつき、大剣を肩に担ぐ。


「ねぇ……正直怖かった。でもさ、あんたとなら”特級”も夢じゃない気がしてきた」


「だね。俺も……この力をものにし、英雄を探すそして魔王を倒してもらう。でも英雄を探すには、もっと強くならなきゃ先には進めない。」


カリナがニッと笑い、右手を差し出す。

「じゃあ決まりね。次は中級ダンジョン行くわよ。強くなって、英雄に追いつくんだから!」


アルも手を重ねる。


「ねぇ、アル聞きたいんだけど私達が英雄目指しちゃうのはどう?なれるかどうかじゃなく、本気で目指してみるっていう。」

考えた事がなかった。自分が英雄に?なれるのか?

無理だ。でも


「目指して見るのはいいな。」


「なら決まりね!明日から頑張ろ」


探して家族を守ってもらう他人任せの人生より、俺の手で今の”大切”を守る人生の方が何より自分にとっても幸せだ。もしそれで死んでしまったら?

それはその時だ。もう後悔はしたくない。


「ほら、アル手を合わせて」

「うん」

「これあげる。私のペンダント。

アルにあげる。」

「ありがと」

えっ。なになに。嬉しい。これもしかして俺に惚れた?

「これには私が危ない時赤く光。その時助けてね。」

あ、そういう事では無かったのね。

でも、

「任せてナイトとして、お供するよ。俺はカリナと仲良くなりたい。」

「なにそれ、」

どっちともほんのり赤く頬に熱がこもっていた。


二人の手の中で、構成の魔素がほのかに光った。新しい旅路が始まる合図のように。




ここまで読んでいただきありがとうございます!

アルとカリナの冒険がこれから始まりますね。

楽しみにしてて下さい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ