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アルタイルの終生 〜 後悔の人生、今世で優しくやり直す~  作者: 葛西 
第二章 学園編

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第二十話 カリナの情は、赤黒く脈打つ

 朝の光が教室の窓から差し込み、机の上に柔らかな影を落としていた。

 いつものように、俺は静かに席に座っていた。


 笑い声と紙の音が混ざって、教室はまるで水槽みたいにざわめいている。

 でも、俺の世界はそこから切り離されていた。


 黒板でもなく、教科書でもなく

――俺の視線は、自分の手首。


 皮膚の下を、かすかに何かが流れている。

 熱を帯びた細い光。

 集中すれば呼吸のように動く。


「ねぇ、アル。またぼーっとしてる」

 隣のノエルが、呆れ半分に言う。

 いつものように柔らかく笑って。


「授業、始まるよ」

「……あ、うん」

 短く答えて、俺は掌を握った。

「昨日もそうだったでしょ。授業中、腕見てニヤニヤしてた」

「……してない」

 そう言いながら、思わず手を閉じる。


 ――バレてたのか。恥ずかしい。

 教室の声が少しだけ近く聞こえた。


 昼休み。

 屋上の風が、白い雲を切り裂くように吹き抜けていく。

 パンをかじりながら、俺は空を見上げた。

味がしない。ただ、噛んでるだけ。


 ノエルは他の友達に誘われている。今頃食堂だろう。

 結局、ひとりきりの昼食。孤食ってやつ。

強く思う。ノエルの笑顔は、俺の世界の中で唯一の音だったんだな……


 屋上の扉は立ち入り禁止。

 けれど、ここだけは俺の「避難所」だった。

 誰もいない。喋り声も聞こえない。

 ――そう、誰もいないはずだった。


「アルタイル、でしょ?」

 背中に声が落ちた。

 振り向くと、朱色の髪の少女が立っていた。

 陽の光で燃えるように輝く髪。

 教室の後ろの席の子。けれど、話したことなんて一度もない。

「……誰?」


「カリナ。覚えて、忘れたらだめよ」

 にかっと笑って、当然みたいに隣に座る。

 距離感がバグってる。

 彼女はパンの包み紙を眺めながら、ぽつりと言った。

「ねぇ、命脈線。使えるでしょ?」


「……なんで知ってるの」

「腕、光ってた。授業中に」

 心臓が跳ねた。

 抑えてたはずだ。誰にも悟られないように。

 命脈線――魔力を体に流す“根”のようなもの。

「見間違いだ」

「ふーん?」


 カリナの唇が、意味ありげに動く。

「じゃあ、これも見間違い?」


 次の瞬間、彼女の指先が光った。

 赤黒い線が、肌の下を這うように浮かぶ。

「……お前、どうしてそれを」

「独学。痛かったけど、やれた」

 笑いながら、どこか遠くを見るように言った。

 その笑みには、痛みが滲んでいた。


 ――自分と同じ“色”を持つ人間が、ここにいる。

 その事実に、胸の奥が少しだけ震えた。


「一緒に食べよ!」

「別にいいけど」

カリナは俺の隣に座った。

それにしても……横顔綺麗だな。


そして、俺は照れて恥ずかしくなり、このまま一言も話さずに終わった。



 午後。

 実技演習――魔法と剣術の合同訓練。

 空気が張りつめる。

「次、アルくん!前へ!」


 木剣を握って前に出る。

 そして、相手の名前が呼ばれた。

「カリナさん!」

「やっと来た!」

 まじかよ、流れってやつか?


「よろしくね」

「……まぁ、手加減はしなくていいよな」

「アルー、頑張って!」

 ノエルの声に軽く手を振る。


「アル!頑張れよ!」

ルイスだった。この声にも軽く手を振る。


嬉しいけど、今は……感情を真剣にする。

集中だ。


ノエルとルイスの声は心の奥を冷ます。

それに比べてカリナの瞳の熱を見ると俺も熱が上がっていった。



 教官、ゼルク・ヴァイスハイト先生の合図が鳴る。

 最初の一撃は、カリナが速かった。

 踏み込み、振り下ろし、衝撃。

 木剣と木剣がぶつかる。

その瞬間、骨の奥まで響く鈍い衝撃が走る。

空気が焼けたような匂い。赤黒い光が、視界を切り裂いた。




 鉄の剣でもないのに、空気が震える。

 俺は剣を構え直す。

 血の奥で、熱が跳ねる。

 魔法では得られない、生の手応え。

(自分で言うのもあれだが、これは、努力の証だ。才能じゃない――俺が積み上げたものだ)

 カリナが息を切らせ、笑った。

「面白いね……!あんた、やっぱり強い!」


 その瞬間、彼女の腕が赤く光った。

 (これは?!……命脈線!まじかよ、)



 赤黒い閃光が、血管をなぞるように脈打つ。

(赤黒く光っている……これは命脈線!?)

「おい!カリナ、やめろ!」

 ゼルク先生の声が響く。

「命脈線の使用は禁止だ!」

教官ゼルクは怒鳴るようにして叫ぶ。


「だいじょ……ぶ、少しだけだから……!」

 風が爆ぜた。

 木剣と木剣がぶつかり、火花のように赤黒い光が散る。

 床が軋み、声が遠のく。

 カリナの瞳が淡く揺れる。

 焦点は合っていない。けれど、完全に意識を失ってもいない。

 何かを――誰かを見つめていた。

 赤黒い命脈線が、彼女の腕を駆け上がる。

 血のように、心の奥から溢れて。


そして赤黒い光が彼女に纏った。

そのたびに、彼女の体は悲鳴を上げているように見えた。


「やめろ、もう限界だ!」


 叫んでも、カリナはかすかに首を振る。

 唇が動く。

 ――守らなきゃ。

 誰の耳にも届かないほどの小さな声で。


 次の瞬間、光が弾けた。

 暴走しかけた命脈線の熱が、二人の間を焼く。

 俺は反射的に前へ出た。


 木剣を振り上げ、その光を断ち切るように叩きつける。

 衝撃。風圧。

 そして――静寂。


 赤黒い線がふっと消えた。

 カリナは膝をつき、うっすらと笑う。

「……やっぱり、強いね、アル」

「バカ……死ぬぞ、そんな無茶して」

 声が震えた。怒りよりも、心配の方が勝っていた。


「どうしてだろ。これを使うと懐かしい人を思い出すわ。強く守りたいって思うと、勝手に力が出るのよね」

 その目は悲しく、まっすぐで。

 俺はその瞳から、目を逸らせなかった。

 命脈線の残光が、二人の影をゆっくりと溶かしていく。


 教官の声も、遠い。

 ただ、赤黒い光の余韻だけが――まだ肌の奥で脈打っていた。


(あの日から、俺は“守る”という言葉を、忘れられなくなった)


「少し休めよ」

カリナがゆっくり顔を上げて笑った。


「使い方教えてあげよっか?」

「ねぇ……使い方教えてくれない?」

被った……くそ、女子と喋る時にやってはいけないやつだ。


「えーと、使い方教えてよアル!」


「……うん。時間ある時でいいなら、教えるよ。」


「いいの?! ありがと!」

満面の笑みでこちらに向く。

あぁ、嬉しさと同時に――この子を、守ってあげたいと思ってしまった。



 カリナの笑顔が、午後の日差しに溶ける。

 汗に濡れた髪が頬に貼りついて、光を反射していた。

 その横顔を見ていると、胸の奥で何かが鳴る。

 守りたい――たぶん、それだけだった。


 ゼルク先生が制止をかけ、生徒たちがざわつく中、

 カリナは立ち上がって、埃を払うように制服を整えた。

 さっきまであんな状態だったのに、もう笑っている。

「……あんた、ちょっと怖いくらい強いね」

「そっちこそ。死ぬ気で来るから焦った」

「ふふ、死ぬ気って言葉、なんか嫌いじゃない」

 その言葉に、俺は小さく息を吐く。


 この子、たぶん危なっかしいな。


 それでも目が真っすぐで、揺れない。だから放っておけなかった。

これが俺の平常運転を壊すと知らずに。


「ねぇ、カリナ」

「ねぇ、アル」

「あ、」

……やっちまったーーーー!!

二回目だぞ!? 

俺、女子と話すときの被り率高くないか!

まぁ、そもそも俺男子とはルイス以外とは関わっていないからそうかもだけど。



カリナもその目、やめてくれ。

カリナはこちらをチラッと見て帆を赤める。

その“ちょっと照れてる風”の目。



いやいやいや、そんなまさか。

……でも、もしや。

(あれ?これ恋フラグ……?)



心臓が変な音を立て始めた瞬間、カリナが口を開いた。

「……あの、先に」

「はいすみませんでしたァァ!!」



俺は床に正座した。なぜか。わからない。

でも謝っとけば丸く収まる気がしたからだ。

なんだか、自分が自分じゃない気がする。



カリナはくすっと笑う。

やばい、笑った。笑顔攻撃きた。

「ま、いっか。どうしたの?」



……うん、可愛い。

だが俺の中の理性が言う。

まだ早いと。


 カリナが一歩近づき、声を潜めた。


カリナが一歩近づいた。その瞳は、好奇心じゃなく不安に揺れていた。



「この力、なんだと思う??」

「……なんでってなんで?」

「命脈線。普通は青いのに、あんたも私も“赤黒い”。 変だと思わない?」



落ち着け。俺。これは恋フラグじゃない。ただの会話イベントだったんだ……

「父さんが言ってた。“情が力になる”って」

「情……」

 カリナは小さく目を伏せ、笑う。けれど、その笑みはどこか寂しかった。



「そっ、赤黒いのは情ってやつが強いとその色らしいよ」

 夕陽が、彼女の影を長く伸ばしていく。

カリナは少し笑っていた。

でも、さっき見た笑顔とは何か違う。

その奥には、燃え残った何かが揺れていた。



 ふと、カリナがポケットから古びた紙切れを取り出した。焦げた地図。端が黒ずみ、文字が半分消えている。

「これ、見て。図書塔の奥で見つけたの。――ダンジョンの地図」


 目が、光を宿していた。

「行こうよ、アル」

 その言葉が空気を震わせる。

 あまりに唐突で、俺は言葉を失った。

 けど、不思議と胸が高鳴る。

 その笑顔を見るだけで、世界が少し鮮やかになる気がした。

「だからさ、放課後――私と帰ろ?」



 まるで、何でもない誘いみたいに言う。

 けど、俺の心臓は少し早く打った。

 ……まずいな。

 父さんとの修行がある。夜にはレイラさんとの特訓。

それに、母さんに遅く帰ると言ったら確実に怒られる。

 現実的に考えれば――行けるわけがない。

「ごめん、今日は用事があるんだ」

「用事?」



「まぁ……家族の用事ってやつ」

「そんなの置いといて、一緒に放課後“英雄探し”に行こうよ!」

「は?」

 思わず素で聞き返した。


 おいおい、話を聞いてたか? 家族の用事って言っただろ。ていうか、“英雄探し”って何だよ。

「えーとね、英雄探しって面白そうだから!」


 その笑顔。

 勢いだけで世界を変えてしまいそうな、そんな輝き。

 呆れた。けど、なぜか笑ってしまう。

「そんなに興味あるのか?」



「うん! だって、こんな日常が壊れるかもしれない世界で、

 英雄を探すなんて、ロマンがあるじゃない!」



 風が吹いた。太陽が傾いて、金色の光が校庭を染める。

 その光の中で、カリナの朱髪がゆらめいた。

 その姿が――あまりに綺麗で、心がざわついた。

「……しょうがないな」

 そう呟いた瞬間、カリナの顔がぱっと明るくなる。

 まるで太陽がもう一度昇ったみたいに。

「やった!じゃあ決まりね!」



 彼女が駆け出す。俺はその背中を見つめた。

 たぶん、この子に振り回される未来しか見えない。

 でも――悪くない、と思った。

(英雄を探して見つければ、魔王を倒してくれるかもしれない。そうすれば……家族を、守れる)


 赤黒い命脈線が、掌の奥で脈打つ。

 それはまだ、静かに眠る光だった。

 けれど確かに――運命は、ここから動き出す。



「おい――」

 低い声が背中に落ちた。

 背筋が、勝手に伸びる。

 ゆっくり振り返ると、そこには怒りの化身がいた。

 ゼルク・ヴァイスハイト先生。


 鋼の眼光。微動だにしない顎のライン。

 周囲の空気ごと、凍らせる圧。

 その目は、カリナに釘づけだった。

「な、何?」


 カリナは剣を持ったまま、首を傾げる。

 天然か、無敵か、どっちだ。

「何を話してるんだ――カリナ・ヴェルナ!」

 声が低い。低すぎて、床が震えた。校庭なのに……


「えーと別に?」

「ふーん……」

 ゼルク先生の頬の筋肉がピクリと動いた。

 その瞬間、空気が“ズン”と重くなる。

 風が止まり、鳥が泣き止み、近くの生徒が全員、呼吸を忘れた。

(やばい。マジで怒ってる。あれは“説教確定”のトーンだ)


「お前には――説教がある」

 ドンッ。先生の靴音が響く。

 一歩ごとに地面が悲鳴を上げるみたいだった。

「こっちに来い、カリナ!」


「えぇ~!? いま!? 放課後予定あるのに!?」

「“放課後”に説教が終わるとは言っていないッ!!」

 雷鳴のような声がグラウンドに轟いた。

 カリナは小動物みたいに肩をすくめ、

 俺の袖をそっと掴んで、上目遣いで囁く。

「アル……助けて……?」


「無理無理無理無理。命は惜しいからね」

「ひどい!」

 先生の影が迫る。

 次の瞬間、カリナの襟首をがしっと掴む手。

 カリナの足が宙を切る。

「ぎゃー! 離してー! アルー! 見捨てないでー!」


「……ごめん、冥福を、祈ってるよ」


 そして、皆んなは教室に戻って次の授業を受けてくださいと言い残して、どこかへと連れ去られていった。

 その光景を見て、クラス中がそっと黙祷を捧げていた。

(ゼルク先生、いつもは皆んなに優しいけど怒ると怖いな。怒らせないでおこっと)


 ――英雄探しの前に、まず“説教探し”から始まりそうだ。

俺の放課後、静かに死亡ってわけか。








読んでくださりありがとうございます!

カリナが友達?になって、少しだけ……いや、めちゃくちゃにぎやかになった今のアルの人生を楽しんでください!

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