第十二話 呪いはいつも寄り添っている
一ヶ月くらいが経っただろうか。
季節はゆっくり暖かくなり始めていた。
その気配は、眠気を誘うには十分すぎて、教室の空気は朝からふわふわしている。
チャイムが鳴り終わるのとほぼ同時に、エレナ先生が入ってきた。
明るい茶色の髪をひとつに束ね、手にした出席簿をトンと机に置く。
「はい、おはようございます。ホームルーム始めますよ」
「おはようございます……」
返ってくる声は、ほぼ全部ささやきに近い。
わかるよ、朝は眠い。
こいつらの半分は夢と現実の境目をさまよってる。
それがクラス最大の防御スキルだ。なんちゃってね。
俺も欠伸を噛み殺して立ち上がり、軽く頭を下げた。
「今日は連絡がいくつかあります。まず来週から清掃分担が変わりますので、各班長は――」
淡々とした声が、眠気をまとった空気にすうっと溶ける。
こういう“日常の連絡”って、刺激こそないけど平和の証なんだと思う。
……そのはずだった。
けれど、窓際に座る俺の耳には、別のざわめきが混ざっていた。
「最近ルーヴァ村に変なやつらが出るらしいよ」
「また? 怖すぎ……」
声は小さいのに、不安だけがじわじわ広がっていく。
俺は視線を少し後ろへ向けた。
朱色のポニーテールに、炎みたいな瞳をした女子。
噂にも先生の声にも一切反応しない。
その真っ直ぐさが、やけに眩しい。
――ここだけの話、めちゃくちゃタイプなんだよな、
話しかけられた試しがない。てか、話しかけに行けてない。
そんな都合よく運命なんて転がってこない。現実はいつだって薄情だ。
放課後。
空を覆う灰色の雲が、窓に冷たい雨粒を叩きつけていた。
さっきまで賑やかだった廊下も、今は音が吸い込まれるような静寂だけが残っている。
傘は忘れた……今日に限って。
今日は日直だったから掃除当番もやらされ、気づけば校舎に残ってるのは俺と先生だけ。
「……やっちゃったな」
呟きと同時に、水たまりが靴を跳ねた。
この静けさが、逆に耳を鋭くする。
(それにしても……なんか空気が重い)
「ルーヴァ村に変なのがいた」
「夜の校舎で何かが動いた」
誰も確かめたわけじゃないのに、誰もが信じてる。
ないよな?ないない。
ただの噂のはずなのに、胸の奥がざわつく。
――その瞬間だった。
背後の空気が、ひゅ、と裂けた。
「っ!」
反射だけで横に飛ぶ。
さっきまで俺がいた場所辺りに、黒い槍が突き抜け、床に深々と刺さった。
蒸気のような黒い靄が立ち上る。
「ああ……来たのかよ」
雨音に紛れて、自分でも聞き取れないほど小さく呟いた。
厄呪派。
“呪い持ち”を憎み、生きているだけで殺意を向けてくる狂信者。
エレナ先生が言っていた。
驚きはあるようでない。むしろ、体のどこかがひどく冷静になっていく。
「……やっぱり、言われた通りだな」
一週間前。
放課後の教室で、エレナ先生は小さくため息をつき、俺の名を呼んだ。
「アルくん。あなた、“呪い持ち”なの?」
その瞬間、頭が真っ白になった。
声は穏やかなのに、耳の奥が弾けるみたいで、息が止まった。
「あの、なんで……?」
「あなたの魔力よ。天才って呼ばれる子を何人も見てきたけど……桁が違うわ」
「……多分、違いますよ。俺、普通だし」
「呪いの判断のしようはないけれど……ただ、気をつけてほしいの。“厄呪派”が最近、この街に動き始めてる」
言ったときの先生の目。何か知ってるような目だった。
「厄呪派ってそもそもなんなんです?」
「厄呪派っていうのは“呪い持ち”を憎み、生きているだけで殺意を向けてくる人達。要は厄呪派は呪いに恨みを持っているひとたちよ」
「ということはそんな奴らに狙われていると?」
「そういう事、呪いを持っているなんて分からないけれど、君は魔力も大きい。呪いを持ってる可能性としては十分」
(あぁ、なんでだよ。勝手に受け入れようとしている自分がいる。この理不尽をぶつけたいけど、ぶつける相手もいない)
「そうなんですね、てか先生、俺を守ろうとしてくれてるんですか?」
「えぇ、そうよ。守れるのは、生き延びようとする限り。だからあなたに技を教えるわ」
あの声が、今も耳の奥を掴んで離さない。
俺は呪いなんて持ってる実感はない。
けど、もし俺が存在することで誰かが傷つくなら、その“答え”は、今ここで問われてる。
黒い仮面がこちらを向き、冷たい光が揺れた。
「七獄の候補者――お前の存在は罪だ」
……心臓が一度だけ跳ねた。
“守れるのは、生き延びようとする限り”
「上等だよ」
恐怖は、もう通り過ぎた。
後悔も、ここじゃなくていい。
ただ――
なにもせずに終わるのだけは、絶対に嫌だ。
「来いよ。お前らの正義ごと、俺が呪ってやる」
雨上がりの廊下で、俺と“厄呪派”がぶつかろうとしていた。
「……その前にな」
手の中で水の膜が揺れる。
「一つ聞きたい。なんで“呪い”にそこまで恨みを抱く?」
黒ローブたちがわずかに肩を震わせる。
夕日を背に受けた仮面の奥で、目だけが光る。
「別に呪いって、勇者も剣聖も持ってるんだろ?なら、お前らの憎しみって……」
「黙れ!」
怒号と同時に魔力が爆ぜた。
大地が震え、防御が間に合わなければ即死だった。
俺は空気中の水分を集め、薄青の層を重ねる。
“流盾”(りゅうじゅん)――先生が教えてくれた防御の技。
「……煽ったな、俺」
波紋に声がかき消される。
そのとき、少し離れた場所で白いローブの人物が静かに立っていた。あだ“観測”するように。
その目が、不気味なくらい澄んでいた。
「こいつ……かてぇ」
「本気を出せ。躊躇するな」
震える声が返ってくる。
俺は笑った。
強がりじゃない、ただの実感として。
「ただの生徒……じゃないのは認めるよ。でも呪いなんて、持ってないよ。多分な」
強く感じる、この力は才能なんだ。
喜んじゃだめなのに、理不尽に向けられる敵意を上からねじ伏せることに喜びを感じていた。
人間としてダメだな。ダメだけど、本当に俺をこいつらは殺すつもりだったんだ。
その報いを受けてもらうぞ。やり返したら正当防衛じゃねぇけど、自分を守る為に!
水の刃が床を走り、敵の足元を切り裂く。
黒ローブたちが息を呑む。
「ほら、やるんじゃねぇのか?嫌なら止まれ」
「くそ、やらなきゃいけないんだ!」
リーダー格の声と同時に、空気が変わった。
直感が腹を掴む――
こいつら、迷いを捨てた。
俺は床についた水の泥を使って押し返してみたり、この雨からの水を手の平に一箇所に集めて壁を作って防いだり。
命は取らないように冷静に、相手の足元にある水たまりを使って水溜まりを画鋲にする。
マキビシみたいに。相手は痛がっていた。攻撃をやめようかと思考がよぎるが、やめたその時狩られる方は俺だ。とにかく早く先生に連絡を取らないといけないんだ!
けど、その瞬間――
空間そのものが、唸った。
影がひとつ。
ゆっくりと滲むように、そこへ“現れた”。
時間の端が歪むような気配。
空気が引き裂かれ、音が遅れて追いかけてくる。
それは、たったひとり。
なのに、全員の背筋が凍りつくような圧。
――影が、こちらに歩いてくる。
影の来方は静かで異様だった。
空気がねじれ、時間の端が歪むような感覚が抜ける。周囲を引き裂く衝撃、刹那を引き延ばすような歪み。それらが、混ざり合って、一人の存在から放たれる。
俺は崩れかけの防御を必死で繋ごうとしたが、足元がぐらりと揺れた。水が剥がれ、氷片のように砕け散る。
呼吸が詰まる。圧倒的すぎる力。核心が、胸に刺さる。
「まずい」――出たのは、そんな単純な言葉だけだった。
そのとき、背後で小さな風が走った。音もなく、人の気配が滑り込む。俺は反射的に振り返る。
エレナ先生が、すでにそこにいた。肩までの濡れた髪を気にもせず。
手には小さな魔術具がひとつ持っていた、防護の術具だ。
彼女の顔はいつもの柔らかい表情ではない。深い集中と覚悟が宿っていた。
「アル、ここを離れて。私に続けて!」
声は強く、それでいて震えを含む。俺は先生の視線を見て、鼓動が少しだけ落ち着くのを感じた。
ーー助かった。だが、それと同時に頭によぎったのは、あの“ひとり”の存在だ。
奴が放つ圧は、教師一人で拮抗できるとも思えない。
そもそもエレナ先生は魔法を使えるのか?
黒ローブたちは様子を見ている。
攻撃すべきか否か――彼らの目は揺れていた。詰め寄る“正義”と、目の前の少年の無垢さが、両天秤にかけられている。ためらいが、刃先を震わせる。
そこに、ーー声が響いた。
「君がアルタイル・アルシラで間違えないな?」
「……違う」
咄嗟に出たのは嘘だった。
エレナ先生を守ろうと自分を守ろうと。
「そんなはずはない。しっかりと確認した」
「なんだよ……」
「君に恨みなんてない。ただ僕は君を殺したい。それほどこの力を手に入れてから殺すことが楽しくなった」
「だからなんなんだよお前は……」
「でも、大丈夫安心して、ちゃんと感情はあるんだ。僕だってちゃんと狙いを絞ってる。今は呪いをもつものにね」
その言葉が、外の空気に爪を立てる。
俺は震える手をぎゅっと握り締めた。
相手の声には狂気が混じっている。楽しげに人を殺したがるタイプの、それだ。
「あぁ、もう!くそが!」
叫びと同時に、体中の水分を魔力に変換し 一気に爆ぜるように放出した。
水の刃が百を超え、雨のように降り注ぐ。
だが、届かない。
そいつには指先ひとつでそれを霧散させた。
「綺麗だね」
くそ……水、水、水。
手のひらの中心に意識を集中させ、
空気から水を“引き抜く”ように力を込める。
風が集まり、目に見えない水蒸気が渦を巻いた。
それが冷えて、重さを持ち、
やがて――水へと変わる。
「……よし」
手のひらの上で、透明な雫が震えていた。
貯めては飲む。貯めては飲む。
それでも喉の渇きは消えない。
けれど、今はそれでいい。
ーー今の“欲”を満たしたい。
「お前ら、本当にこれでいいのか?」
黒ローブの一人が、ふと呟いた。刃がほんの僅かに下がる。
彼らの目に、少しだけ人間の光が戻った気がした。リーダー格の男は唇を噛み殺す。
「やれ」声は静かだが、命令は重い。
俺は目の前の世界がスローモーションになるのを感じた。水を飲むことをやめ、水の膜を何重にも繋ぎ直す。流盾を。
心のどこかで、まだ終わりたくないと叫んでいる。
――そのときだった。
こいつらは俺じゃなくて、この圧倒的な力を誇る男に向かって走り出した。
けれどそれも呆気なく、瞬きした頃には倒れていた。
「ほらね?殺してないでしょ」
「そう…だな……」
それしか出てこなかった。俺ももう死を悟っていた。勝てないと思ったから。
そして、こいつは俺に向けた。巨大な魔力の塊を。
ははは、ふざけてやがる。
「最後に教えておこう。僕の名は七獄 破滅アレスだ。あの世で覚えておくといい。本当理不尽だよねこの世界は」
こいつなに言ってんだ。まるで耳に入ってこない。
そして、その巨大な魔力の塊は色を紫から黒紫へと変化する。
ここまでなんだな。所詮俺は……
その時誰かがすっと現れる。
音はしない。足音もない。
だけど、足元の微かな振動で誰かがきたと感じた。
(この為、か)
金色に光る、切れ長で冷たい蒼の瞳。白いローブが、まるで月光をまとっているようだ。
視線がぶつかった瞬間、時間の感覚が少しだけ変わる。息が、わずかに遅れる。
彼は一歩、そしてもう一歩。近づくごとに、周囲の空気が整えられていく感じがした。
「遅かったか」その声は低く、研ぎ澄まされている。けれど嫌味はない。
まるで、古い絵画に描かれた侯爵が語りかけるような、落ち着いた響きだ。
敵――あの狂ったやつはにやりと笑った。「全くいいところだったのに。残念だね」
白い男はただ、ふっと肩をすくめる。両手をゆるりと挙げるだけで、先ほどの影の放った衝撃が空中で切り裂かれ、音もなく消えた。時間を引き裂くはずの歪みが、綺麗に折り畳まれる。
エレナ先生が俺の前にぴたりと立ち、震えた声で「後ろへ!」と一言。俺は先生の指示に従い、ふらつきながら後退する。
「ごめんね、ごめんね」
先生はそれだけ言って俺を抱えた。
狂った声は、うつろな笑いを漏らす。
「くっ……邪魔なやつが。だが、いいさ。もう遊びはここまでだ」
その首筋から、黒い煙のごとく立ち上る。空気が締め付けられる。体感で、世界が重くなる。
ーーあいつは、ただの厄呪派ではなかった。
白い男はその紋章を見て、眉間に軽い皺を寄せる。手でそっと煙を切り、低く囁いた。
「愚かな真似はやめろ」
ーーその声だけで、時間が戻る。
「本当だったら君も殺したいところだけど、敵わないって知ってるからね。バイバイ」
「逃げるのか?」
「そうさ、だって君僕の知るなかで一番強いもん。無理無理。この世界は理不尽なんだ。しょうがないこともある。ただ、君も呪いもちでしょ?」
「言う義理はない」
「そうだね、まぁもっててももってなくてもどっちでもいいや、結局この世界を壊すんだ。なら君もいつか殺すよ」
その目は執念を感じさせた。
「質問を変えよう。お前逃げれると思ってるのか」
「さぁね、でも君がもし正義って立場ならさ、僕がやることを君は放ってはおけない」
アレスは、黒煙を自在に操りながら、黒ローブの連中──厄呪派を囲むように浮かせた。
「ほら、こんな邪魔な連中たちもこうやって利用できるんだ」
その言葉に、黒ローブたちは恐怖で身をすくめているように見えた、気絶しているのに。
水の膜で防御を整えた俺も、瞬間的に視界が震えた。
「なにやってんだよ!」
だが、アレスは笑い、煙の中から鋭い槍を操り、次々とこの黒いローブ着た男に向ける。
「君がどんな力を持っていようと、誰かを傷つける恐怖は避けられない」
俺は必死で水の膜をクッションになるように下に展開し、黒ローブたちを守ろうとする。しかし、アレスの魔力は桁外れで、膜は何度も切り裂かれる。
「くっ……こんな奴に俺は俺は」
「ほらほら、落としちゃうぞ。嫌なら止まりなよ」
そのとき、背後から風が走る。俺の体に微かな力が伝わり、体勢を崩しながらも振り返ると、白いローブの男がそこに立っていた。
「任せろ!」
「瞬獄黒煙」
そうアレスが呟く。
その瞬間、俺の目の前で、黒ローブたちが煙に包まれる。
「あぁ、壊すって楽しい!」そうアレスが叫んだ時、
あぁ、このまま黒ローブたちは落とされる。
そして、死ぬ。
そう思った。
けれど、この白い男が手をかざした。
その瞬間、アレスの黒煙が、止まった。
時間が止まったように。
アレスの攻撃は空中で止まり、宙吊りの黒ローブたちはゆっくりと落下していく。
「蹴りをつける」白い男の声は冷たくも確実に俺に届いた。
俺は後退し、エレナ先生の助けでなんとか安全地帯に着地する。
しかし、目を凝らしても、アレスの姿はもうない。
黒煙も、影も、跡形もなく消えた。
「くっ…どこに行った…」
俺の声が、この校舎に反響する。
この一瞬で何があったんだよ。
白い男は一瞬だけ俺を見て、静かに言った。
「危なかったな。奴はもういない。すまない、逃してしまった」
俺は荒い息を整えながら、下にいる黒ローブたちを見つめる。
「助かった……でも、アレスは…」
「奴は姿を消した。追うのは無駄だ。多分あれは瞬間移動した。今は生き延びることを最優先にしろ」
エレナ先生が俺の肩に手を置く。
「本当に、あなた恐怖心ってのが抜けてるわよ。でも、でも!アルくん。無事でよかった」
俺は小さく頷く。
恐怖心はあったんだ。
ものすごくあった、けれどそれよりもむかついた。
なんでだろうな……
もうほんと嫌になる。それに少し自暴自棄だった。
だけども今は生きてる。
胸の中には生の実感と、逃げたアレスへの復讐心が渦巻いていた。
白い男は、俺とエレナの方へゆっくりと向き直り、視線を合わせた。その蒼い瞳は、まるで海の底の光のように静かで深い。
「大丈夫か?」彼の声には、驚くほど温度がないのに安心させる力があった。
俺はぶるりと震えながら「あ、はい」と答える。言葉が喉を通る。
彼は軽く笑い、肩をすくめた。「まあ、もう大丈夫だ。俺の名は剣聖セリオス・ヴァレンティア。俺がやるべきことをやっただけだ。話すことはないけど、ただ一つだけ言うなら、君はーー伸びるだろう」
その言葉には、けれど妙な重みと期待が混じっていた。まるで、誰かが若木を見て「大きく育つだろう」と囁くような、慈しみを含んだ余裕だ。
剣聖ってこんなにもすごいんだな……
黒ローブたちは、うなだれて立ち去る。残されたのは、こいつらの割れた仮面と俺たちだけだ。
彼は剣聖でとても強かった。それしか分からないけれど、確かなのは、彼がいたから俺は今生きているということ。
エレナ先生が息を吐く。顔は少し蒼いが、目には確かな決意がある。
「あ、あの!ありがとう……助かったわ」
「あ、ありがとうございました!」
俺も感謝を伝えないと!って思い、遅れてはしまったがなんとか伝えた。
彼は振り向きもしないで小さな声で答える。
「礼などいらない。だが、覚えておけ。君の力は、放っておくと厄介だ。だが、それは君のせいではない」
静かな説教。だけど、その一言は胸に刺さる。
先生の言葉、俺の決意、彼の視線――全部が繋がって、胸の奥で何かが固まった。
「はい、わかりました」ーー口にしたその宣言は小さくても、確かな約束だった。
なんで俺がこんなろくな目に合わないといけないんだとは思ったけれど。
白いローブは一瞬だけ後ろを振り返り、低く、だがはっきりと言った。
「――次は、ちゃんと守る。剣聖の名にかけて」
そう言うと、彼は歩き去った。足跡は濡れた石畳に一瞬だけ光を残し、やがて雨に消されていく。
ちゃんと守るって言ってたけど、俺が襲われてるって分かるのかな……不安だ。けど、信頼できそうな奴だ。多分助けてくれるんだろう。
そうそう、黒ローブたちはというと騎士団に連れて行かれた。騎士団は日本でいう警察みたいな役割だ。
こいつらが付けていた割れた仮面も持っていかれてしまった。
黒ローブ達の割れた仮面の素顔見た時思った。
とても顔が痩せていて、クマもすごかった。
あの時思った、この世界はそういう世界なんだって。
俺は拳を握り締め、決めた。
ーーここで終わりにはしない。守れる力に変えてみせる。
遠ざかる白いローブの背中を見送ると、エレナ先生がそっと手を置いた。暖かさが戻ってくる。
俺は少し笑って、首を振った。
「よし、帰ろう。今日から、本気でやるんだ」
でも今は、座ろう。
少し疲れたな。
校舎の外、雨がこの戦場を洗い流す。
空はまだ鉛色で雨はポツポツと降っているけれど、
俺の中では何かが少し晴れていた。
けれどここで嵐はまだ終わらなかった。
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