真の物語・「悪役少女」著:シェリル・サンライト
まえがき
この本を、我が最愛の姉にして、未来のために散ったエリカ・サンライトに捧ぐ。
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第1章:悪夢の始まり
サンライト王国に、「エリカ」という王女がいた。
彼女は王としての器があり、容姿も麗しく、また思慮深い才女であった。
彼女がまだ小さい頃、王国は危機に瀕していた。なぜなら、その時の王には、エリカとシェリルという王女2人が生まれたのみであり、男の子どもがいなかったからである。それまで伝統として男王が即位してきたサンライト王国。
エリカは、王国初の女王として即位する予定だったのだ。
そして知識があり、深く考えることができた彼女は思い至ってしまった。
「今、わたくしが即位すると国が割れてしまう」
それを回避するために考えに考えたエリカ。
その答えを、彼女は本に求めた。
「『悪女の陰謀に屈しなかった主人公は、愛する婚約者と結ばれ、それを国中が祝福したのでした…』これだわ」
その本は、当時隣国から輸入され、サンライト王国で爆発的な人気を博した小説だった。彼女はこれを現実で行おうとしたのである。だがその実現には数多くの壁があることは明白だった。
「わたくしが主人公になろうとすると、誰かを悪役にしなければならない…。駄目、それだけは駄目よ。未来のためとはいえ、罪のない人を悪に仕立て上げるなんて」
そう、まず第一に、都合よく悪役が転がり込んで来るなどという状況は起き難い。
ではどうするかと彼女は考え、至った答え。それは──
「わたくしには優秀で、わたくしよりも才能のある愛する妹がいる。…そうだわ、悪役がいなければ作ってしまえばいいのよ」
それは、禁断の方法。わざと誰にでも分かる悪役を作り上げ、主人公と悪役という物語に必須な登場人物を作ってしまうというもの。
だが彼女は、他人を悪役に仕立て上げることはしなかった。彼女は他人のために、自分を喜んで捨てる性格だった上、弱い自分の表面を嘘で塗りつぶし、他人に迷惑が、責任がかかるからと1人で抱え込んでしまうような人間だった。
だから、彼女は自らを犠牲にすることにした。
「わたくしが悪役になれば、もしかしたら国がまとまるかもしれない。わたくしは、未来の為ならば、悪役にだってなってやる」
彼女は自分を犠牲に、国を、未来を選んだのである。
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第2章:悪女と呼ばれ、心は壊れ
悪役を演じるエリカは、腐敗する貴族の是正を目指した。悪事に手を染める貴族、国家転覆を画策する貴族。国の崩壊を防ぐため、彼女は動く。
奴隷売買をしている貴族がいた。エリカは直接その貴族を訪れ、摘発。
そのことを1部情報を隠し、発表。同時に、自分が悪と呼ばれるために、変装して自分が悪に見える嘘を流した。民衆はそれを信じ、彼女は「悪女」と呼ばれた。
エリカは自然な笑顔を忘れた。
彼女の婚約者の父親が脱税をしていた。彼女は婚約者を巻き込まないようにしようと考え、婚約を解消することにした。
その前に、婚約者が独りにならないようにと、別の令嬢を探した。すると、彼と幼馴染で恋仲だったという令嬢が見つかった。
エリカと彼との婚約は、権力を欲しがった彼の父親が勝手に決めた、政略だったのだ。
さてその令嬢はというと、年寄の貴族に嫁がされそうになっていた。
エリカは知っていた。その年寄貴族は見目麗しい女性を妻や使用人として拉致し、強姦の末殺害しているということを。
寸でのところで令嬢を保護したエリカ。彼女は年寄貴族を粛清することに決め、証拠となる遺体が多数見つかったために粛清は行われた。
人々は「証拠は捏造」と非難した。
エリカは感情と顔を一致させることが出来なくなった。
さあ、令嬢は保護できた。次は婚約者の父親を摘発し、婚約を破棄しなくては。
エリカは婚約者の実家を赴き、脱税を問い詰めた。
そして婚約を破棄した。
人々は「馬鹿な悪女」と罵り嘲笑した。
そして、元婚約者に保護した令嬢をあてがった。
2人は祝福され、同時にエリカに「ざまぁみろ」と言った。
エリカは喜びを表す時はどのような顔をすれば良いか、忘れていた。
その後、彼女は自分を殺す為の装置を作った。
「苦しまずに死ねる」を目標にしたそれは「ギロチン」と呼ばれるようになった。
人々は「悪女は粛清の効率を高めるつもりだ」と恐れた。
エリカは自身を殺す装置を見て笑っていた。
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第3章:心は壊れ、嘘は厚く塗られ
ついにその日がやってきた。エリカの父が王位を退き、エリカが王位につくことになったのだ。
エリカの即位の前日、エリカは両親のもとを訪れた。
両親は、エリカが成そうとしていることに口を出さない、と言った。
エリカは両親の前で、笑えていたか分からなかった。
エリカは両親を巻き込まない為に、王都を離れ隠居するよう頼んだ。両親はこれを了承し、両親は王都を離れた。
人々は「両親を追い出した悪女」と言った。また、王宮に勤める大臣や役人も、エリカは「悪女なので」王に相応しくないと言った。
エリカの心はとっくに壊れていた。
エリカは1人抱え込み、表面を嘘で塗り固めた。
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終章:悪を貫いた少女は人生の果てに何を見る
運命の日がやってきた。エリカは使用人に命じ、
「妹を排除しようとしている」という全てが嘘の話を漏らさせた。
それを聞いた役人は妹とその婚約者に伝え、我慢の限界だった妹の婚約者はエリカを問い詰め、場合によっては斬ることにした。
運命の日、玉座に座るエリカを妹とその婚約者が突撃し、エリカを逮捕した。エリカは城の地下室に閉じ込められ、空いた玉座に妹が座ることになった。
エリカが逮捕されたことを知り、民衆は処刑を求めた。初め妹は処刑を嫌がったが、民意に押され処刑せざるを得なくなった。
エリカは、それを承知で悪を演じた。
そして処刑の日。エリカは大人しく執行人に従い、処刑された。人々は彼女の作ったギロチンの最初の犠牲者が彼女になったことに沸いたが、それはエリカが処刑を行わないように制御していたからだった。
エリカの最期の言葉は、
「わたくしは恵まれていた」
だった。
国のために悪を演じ、悪を貫いた少女は、その命を犠牲に王家に支持と信頼をもたらしたのである──。
あとがき
この本の内容は、全て事実に基づいたものであり、エリカ・サンライトの部屋から発見されたエリカの日記をもとに記されたものである。
願わくば、我が最愛の姉・エリカの評価が修正され、エリカ・サンライトは悪女などではなく、
国のためにその身を捧げ、若くして命を落とすことになった「犠牲者」であることを知って頂きたい。