依頼書No.1 『トモダチ』
今回の登場人物
阿崎葛
劇団のメンバーの1人
主に依頼の管理をしている男
大酉健
メンバーの中では最年少の少年
行動力があり、怖いもの知らず
依頼者:北原成
いじめられっ子。
0. 序章
バシャッ
冷たい水を頭からかけられる
もうこんなの慣れていた
何も言わない。ただ僕は座っている
周りではギャアギャアと、馬鹿共が騒ぎ立てる
他のヤツはひそひそ話をしたり
かかわらないようにと廊下へ出た
・・・そんなことしていられるのも今のうちだ
すぐにでも復讐してやる・・・!
生きる価値の無いクズ共め!!!!
1. 小学生からの依頼
『初めまして。化劇団の皆さん
町立Y小学校5年A組の北原成です
僕はクラスの人にいじめられています
3年生の頃から同じ人にずっとです
先生に相談しても、何をしても
僕はずっとその人たちにいじめられているんです
先生も大人も、誰も役に立ちません
僕をいじめる人たちに復讐できるのはあなた達だけだと思いました
お願いです。助けてください
お金はそれなりに用意します』
「・・・ついに小学生まで踏み込んできたか」
パソコンのEメールをチェックしているのはこの劇団のメンバーの一人
芸名を、阿崎葛という。
この劇団には依頼者やメンバー本名を言ってはならないというルールがある
そのため、「芸名」というものが存在しているのだ
「・・・」
葛は依頼者登録書に目をやる
姓:北原
姓ヨミ:キタハラ
名:成
名ヨミ:シゲル
年齢:10歳
性別:男
職業:小学生
依頼内容:いじめっ子への復讐
報酬:1万~5万円(時間がかかってもいいならもっと払えます)
支払い方法:後払い、手渡し
払えなかった場合の代償:持っているゲームや本を全部・・・
「とんだ甘チャンだな。コイツは」
払えない場合の代償にゲームと本とは・・・
それに報酬が少なすぎる
最低10万はほしいな・・・
他にも連絡先等や住所が書かれている欄があるが
この依頼を受ける者は居ないだろうと判断し
葛がメールを削除しようとした時だった
「このメール・・・興味あるなぁ」
画面を覗いてきたのは同じく劇団のメンバー
芸名、大酉健
劇団メンバーで最年少の少年だった
「最近多いもんね。いじめ問題」
「あぁ、でも相手は小学生だ・・・これはダメだろ」
一体彼がどこでこの劇団のメールアドレスを見つけたかはわからないが
小学生は今までに例が無い上に
学校内部では非常に動きづらいという問題があった
「僕が受けるよ。その依頼」
「あぁ?」
健は葛の前にあるノートパソコンを奪い
表示されている文面を読んでいく
「1万から5万・・・僕にとっては最高のお小遣いだね」
「おいコラ!勝手に人のパソコン触んじゃねえ!」
葛が健からパソコンを奪い返す
健は葛に擦り寄ってねだった
「この依頼受けさせてよー」
「・・・別に構わねぇけど・・・大丈夫か?」
「平気平気、最近依頼なくてヒマしてたし」
仕方なく、葛は依頼者データ作成のプログラムを起動させる
この劇団の中でパソコンの管理を任されているのは彼、葛だった
劇団に送られてくるメールの内容をパソコンに打ち込んだり
依頼書の管理をするのは全て彼だった
「依頼書1703番、担当 大酉健っと・・・これでよし」
10分もしないうちにデータの打ち込みが完了した
「まずは依頼者と接触しようか」
「うん」
パソコンの前から葛が立ち退き
その席に健が座った
「さて・・・相手は小学生だ。夜中はマズいかな・・・」
健は依頼者・・・北原成宛てにメールを書いた
依頼者の住所や年齢から
都合が良いであろう時間と場所を割り出す
『はじめまして。メールありがとうございます
今回依頼を担当させていただく者です
まず初めに依頼内容の確認と作戦の打ち合わせをしたいので
9月25日(木)の午後5時に
大鳩公園の柱時計の前で待ち合わせしませんか
都合が悪い場合には希望する時間と待ち合わせ場所を記入して
このメールアドレスに返信してください』
健が書いた文面を何度も葛読み直し
OKが出たところで送信ボタンを押す
すぐに返事が返ってきた
『依頼を受けてくれてありがとうございます
時間・場所、共に大丈夫です
会える日を楽しみに待っています。』
健はメールを読んでにんまりと笑った
*
約束の時間、健は予定通り公園にやってきた
この公園にはシンボルの大きな柱時計がある
そこに、深く帽子を被り、立ったゲームをしている少年を見つけた
見た目からして小学生、依頼者だろう
「すみません」
健は迷わずに少年に話しかけた
少年はビクッと肩を震わせて健のほうを見た
「北原成さん・・・ですね?」
「・・・はい」
小さな声で依頼者が返事をした
「初めまして。今回依頼を担当させていただく、大酉健です」
成は目を丸くした
まさか、依頼を担当するものが
自分と同じ歳ぐらいの男の子だとは思わなかったようだ
「あ・・・初めまして・・・」
「まず、依頼の確認を・・・いいかな?」
「はい・・・」
依頼者、成は辺りを見回した
「・・・メールにも書いたように・・・僕はいじめられています
昔っから気が弱くて・・・臆病で・・・今までずっといじめられてきました
助けてほしいけど・・・誰も助けてくれませんでした」
話している最中に、成はボロボロと涙をこぼした
「あいつらが・・・憎くて憎くて・・・たまらないんです。
僕は小学生で、何もできないし・・・あんまりお金も払えませんが
力を貸してください。復讐してやりたいんです」
「判った。協力しよう」
「あ・・・ありがとうございます」
成は自分の服で涙を拭った
よほど辛かったのだろう
見知らぬものに復讐を依頼するほど・・・
「作戦は・・・僕の言う通りにしてくれるかい?」
「はい、あいつらに復讐できるなら、何でもします」
成の決意は固かった
「・・・まず、僕はキミの学校に転校する。
そして、キミをいじめているヤツのグループに僕が入る」
「え・・・な、なんで」
「まあ最後まで聞いて。僕はそいつらとキミをいじめているフリをする
そして、調子に乗り出したころに・・・僕がそいつらを陥れてやる」
「どうやって・・・ですか?」
「それはね・・・」
健は薄笑いを浮かべる
成はその表情に不気味さを感じたようだが
同時に「この人ならやってくれる」という
大きな期待も抱いた
3. 潜入
―『町立Y小学校』
ここが今回の僕の仕事場所か・・・
劇団のトップの人たちが色々手を回してくれたおかげで
今回の依頼者と僕は同じクラスに入ることになった
さすがトップは違うな。ここまで仕事をやりやすくしてくれるなんて
1日中パソコンの前に座ってる葛とは大違いだ
しかし、小さくて古い学校だな
こんな小さな学校でもいじめなんて起きるんだね
「おぉ、なんだお前?」
「転校生か?」
僕を珍しがって何人かの生徒が寄ってきた。鬱陶しいな・・・
でも怪しまれないように・・・
あくまで、「普通の小学生」を演じきらないと
「あ、うん。引っ越してきたばっかりなんだ」
「へぇーどっから来たの?」
「千葉県からだよ」
本当は同じ東京都だけど。
まあ、県違いのほうが面白いだろう。
生徒にできるだけ目だってターゲットと接触しないと・・・
「千葉かぁ」
「こんな田舎に引っ越してくるなんてな。暇だろ?」
「ううん。この辺りは前の町になかったものがいっぱいあって楽しいよ」
ま、大体の小学生の感想ってこんなもんだよね。
同じような町並みを見てこの辺のこと語れなんて言われても困る
ってか、ターゲットでもないヤツとこれ以上かかわりたくないな
「ねえ、職員室ってどこにあるの?教えてほしいな」
「おぅ、案内してやるよ!」
「ありがとう」
ちっ・・・場所教えるだけでよかったのに
まあ、別にいいか。
*
「今日は、みなさんに新しい仲間を紹介します」
このクラスの担任、塩田先生が僕のほうを見て手招きする
僕は教室に入った
1,2,3・・・人数は20人程度か
廊下側の一番後ろの席には今回の依頼者、北原がいる
でも今は他人のフリだ。怪しまれるからね
「飯田健です。よろしくお願いします」
今回は苗字だけ偽名にした
タケルなんてありがちな名前だし、誰もわかんないよね
僕は他のメンバーと違って殺しや盗みをしなくていいから楽だよ
「さて・・・飯田くんは、青山くんの横の席に座ってくれるかい」
青山というのは今回のターゲットの一人だな
丁度いい席・・・本当にラッキーだよ。僕は
さすがに席まで劇団のトップが指定したんだとは思えない
これは僕の『運』だよね
「青山くん、よろしくね」
僕は隣にいる青山に話しかける
青山は「あぁ、」と愛想なく返事をした
・・・これはちょっと強敵かな
まあいい、少しずつでも接触して僕の罠にハメてやるんだ
*
1限目は国語か・・・
あーあ、僕学校ずーっと行ってないから
ひらがなとカタカナとちょっとした漢字しか知らないんだよね
葛のパソコンでちょっとは覚えるけど・・・
書けって言われたら絶対ムリかな
「青山くん、教科書見せて。僕持ってないんだ」
「おー」
青山は別のヤツに見せて貰えよ。と言うかのようにしぶしぶ机を寄せた
こういう子は・・・案外簡単に落ちやすいんだよね
例えば、『共通する部分を見つける』とか
授業が始まると同時に青山は早速机に落書きしだした
あぁ、これ知ってる。最近小学生を中心にはやってるキャラクターだ
「あ、これ日曜日にアニメやってるやつだよねー?」
「あぁ」
なるべく先生に届かないようにこっそりと話しかける
「僕もこれ最近見だしたんだ。まだあんまりキャラクターとか知らないけど」
「へぇ・・・こいつはポックロス。結構強いんだ」
「そうなの?」
「あぁ」
ちょっと僕に引かれ始めたかな
あとは少しずつあわせていけば簡単に・・・
「僕も次からもっとちゃんと見てみようかな」
「あぁ、面白いよ。見てみな」
「うん」
青山はそういってまた絵を描き始めた
なるほど・・・青山はこういうキャラクター好きなんだな
よし・・・あとは青山とつるんでる奴ともこうやって仲良くなって
グループに入れてもらおうか・・・
*
僕の周りにはクラスメートの女子が集まってきた
同時に、青山の周りには数人の男子が集まった
こいつらが青山の仲間かな
青山を含めて5人のグループか
「青山くん」
僕は青山に話しかけた
青山とその仲間が一斉に僕を見る
「何だ・・・」
「ノート貸してもらっていい?
前の学校はここよりちょっと授業遅れてたみたいでさ」
「あぁ・・・」
青山は僕に国語のノートを手渡す
「ありがとう。明日には返すね」
「ん・・・」
青山はまた愛想なく返事をする
すると、一人の女の子が僕の耳元で囁いた
「・・・青山と関わらないほうがいいよ」
「そうそう、青山ってイジメやってんだから」
「そうなの・・・?」
知らないフリをする
青山とは初対面ってことになってるしね
「そうだよ・・・もう話しかけないようにしたほうが・・・」
「僕は・・・青山くんそんな悪い子だと思えないんだけどな」
そう言うと、女の子は少し驚いたような表情をした
でも、すぐに怒ったように言った
「心配してあげてるのに!」
そういって自分の席に戻って行った
・・・たく、女子って本当にわかんないな
でもこのほうが都合がいい
青山と関わるには周りの人物を切り離す必要があるみたいだしね・・・
4. 暇つぶし
1ヶ月ぐらいすると、僕は青山と仲良くなった
あんなに愛想の悪かった青山も今では心を開いて
かなり僕に打ち明けるようになった
・・・同時に、依頼者、北原くんのいじめに誘われるようになった
一度だけ断った
言われた言葉は
「やらないなら、次はお前にするぞ」
という言葉だった
別にターゲットなんて誰でもいいんだろうね。そういう子って
でもこれは僕の計算どおりだった
突き放されたら全部水の泡。依頼は失敗に終わっていた
ここで威嚇されて、怯えたフリをし、従っておくことで
青山にとって僕が『格下』という意識を強めさせた
格下に負けることほど強い敗北感はないからね
正直心が痛むけど、北原くんにはそこには同意してもらってる
殴ったり蹴ったりするんじゃないけど
物を隠したり、壊したり、いたずらしたり・・・
ほんっとにくだらない。そんなために人使うなんてね
でも、それほどヒマなんだろうね。
調べていった限り、青山くんは結構成績はいいようだ
ノートは黒板に書かれている分だけ全部取ってるし
算数の授業でやったプリントは満点だった
スポーツは言うことなし。
・・・これは調子にのるのも判るよ
でもね、所詮は餓鬼。頭は弱いみたいだね
僕がこうやって青山くんやその仲間を騙していることは
依頼者と僕以外だーれも知らないんだもの
あはは、
あははははははは、
あははははははははははははははははははははははは!!!!!
馬鹿だね、本当に
こういう馬鹿は自分を強いと思い込んでいるんだ
本当は虫ケラ以下の存在だというのにね
本当に愚かだ・・・!
こんなお馬鹿さんには
ちょっとお仕置きしてあげないとね・・・
*
『なあ、最近アイツむかつかね?』
青山が言った。昼休みのことだ
『なんか最近俺らのこと見下したような目で見やがってさ
マジむかつく。一発やってやろうぜ』
『いいなー。どうするよ?』
『アイツ暗いとこ怖いらしいから体育倉庫にでも閉じ込めてやろうぜ』
仲間同士で小さな会議が始まる
『あ、そうだ、呼び出してボコボコにして、それから閉じ込めてやろうよ』
僕が思いついたように言った
本当はこれも作戦のうちなんだけどね・・・
依頼者には僕から別の方法であらかじめ伝えておく
そうしたほうが都合がいいからね
『いいな!それ』
『ははは、お前ひでーな飯田!でも最高!』
青山たちは僕の提案を聞いてよりいっそう盛り上がった
これでもう成功したも同然だね
そして、この日がきた
5. お仕置き
予定通りに放課後
青山は北原くんを体育倉庫に呼び出した
怯えたように北原くんがやってきた
「遅いんだよクズが!」
「謝れ!『遅れてすみませんでした』って土下座してみろや!!」
青山が北原くんを突き飛ばし
それを見て青山の仲間が彼を嘲笑う
僕も同じように笑って見せた
「最近調子乗りやがって!あぁ?」
「そうだ。お前クズのくせにイキがってんじゃねえぞ!」
クズはどっちだよ・・・
そんなことを思ってでも絶対に口にはしないよ
今は堪えなきゃ
「今日という今日はやってやらあ!」
青山が北原くんを殴る
それを合図にするかのように他の奴も殴ったり蹴ったりしはじめた
僕はそれを少し離れてみていた
「飯田!何見てんだよ」
「お前もやれよ」
青山達がいう
僕は北原くんに近寄り
そして・・・
「え・・・」
「ウソ・・・だろ」
青山たちは僕の行動に相当驚いているようだ
何をしたのかって?簡単さ
手を・・・差し伸べたのさ
「大丈夫かい?」
「あ・・・ありがとう」
北原くんは計画通り、僕の手をとる
「・・・飯田ああぁ!何のつもりだ!」
青山が僕の胸倉を掴む
他の奴も口をそろえてこう言った
『裏切リ者』
『卑怯者』と・・・
「はぁ?何いってるの?」
「何って・・・てめえふざけんじゃねえぞ!」
青山が僕を殴ろうとした
僕はその拳を片手で止めた
「ば・・・馬鹿な・・・」
「馬鹿はキミたちだよ」
僕は青山の腹部を思いっきり蹴った
青山はお腹を押さえて苦しそうにしゃがみこむ
「飯田・・・!てめぇ!」
「俺らをハメたのか!」
「そうだよ。今さら気付いたの?」
僕は笑った
今度は北原くんじゃない
青山とその仲間達を嘲笑ってやった
「馬鹿だね。本当に」
「この・・・!」
「バイバイ、キミ達は負けたんだ。僕にも・・・彼にもね」
僕ち北原くんは外に出て
鍵倉庫に鍵をかけた
ここの鍵って・・・内側から開けられるんだけど
結構力いるし、暗いから開けるのに一苦労するだろうね
ふふ、ふははは
所詮は小学生の暇つぶしなんだよ
それがこんなことになるんだ・・・
よく覚えておきな。
「次はもっと酷い目に遭わせてやるから」
僕は倉庫に向かって呟いた
*
その後、青山たちはしばらく学校を休んでいた
青山の仲間はなんとか復帰したけど
このイジメの元凶である青山の席は無くなった
先生の話によると、転校したらしい。
北原くんは青山という悪夢から開放され
今はクラスの人達と仲良くなっている
青山の仲間も、いつのまにかクラスに溶け込んでいった
もう僕は必要ないね
こういう場所には憧れるんだけど
僕は『化劇団』
普通の子供のように生きちゃダメなんだよ。
サヨナラ・・・北原くん
大丈夫、キミは一人でも十分やっていけるよ
もうキミを縛るモノも、痛めつけるものも何もない
この先のことは、キミが決めるといい――。
6. 終幕
健が学校を転校・・・正しくは辞めたあと
依頼者、北原成が報酬を振り込んできた
その額は5万円
普通のメンバーなら少ない額だが
健はその額でも飛び跳ねるほど喜んでいた
「しかし・・・お前本当によくやったな」
葛がコーヒーを飲みながら言った
健は5枚の札をうっとりした表情で見つめている
「このぐらい、お手のものさ」
「『騙す』のはお前の得意技か」
「騙すなんて人聞きの悪いなぁ。
僕は罠を仕掛けるのが得意なのさ。じゃあね」
そう言って札を財布に詰めると、外に出て行った
きっと、遊びに行ったのだろう
たまには、普通の人間の暮らしもさせてやらないとな
そう思いながら葛はパソコンに目をやる
――『新着メッセージは7件です』
画面にはそう表示されていた
END
はじめまして、歩夢と申します
Theatrical~偽りの劇団~、第一話はいかがでしたでしょうか
今回のテーマは「いじめられっ子」ですね
早速小学生ってのもどうかとは思っていたのですが
誰でも気軽に依頼ができてしまうというイメージをつけようと思い、このままにしました
長ったらしい文でお疲れになったのではないのでしょうか・・・?
ここまで読んでくれてありがとうございました
次回も期待してくれると嬉しいです・・・!
歩夢