夜
僕は、彼女の住んでいる三田村で行われるお祭りに行きたいと思い、連絡して聞いてみることにした。ただ、いきなり聞くのはなんだか恥ずかしかった。だから、何か理由を作らなければならないと思い、調べていくと、どうやらそのお祭りの最後には花火が上がるらしく、その花火に興味を持ったかのように
「三田村の祭りの花火って大きい?」
と聞いてみた。2時間後ぐらいに返信が来て、
「まあまあでかいと思うよ」
これに僕は返信した。
「行こうか、迷っててさ楽しい?」
又すぐ返信がきた。
「たのしーたのしー」「おいでよ」
まさかだった。お祭りが楽しくないわけがない。そこで、「つまらないから来ない方がいいよ」なんて言うわけがない。それは分かってはいた。しかし、まさか「おいでよ」なんて言葉が来るとは思っていなかった。楽しいか聞いているわけだし、別に誘わなくてもいい。それなのに「おいでよ」この四文字が僕にとってものすごく大きく思えた。なかなか返信することが僕にはできなかった。1時間ぐらい経ってようやく僕は返信した。
「じゃあ、行こう」
すぐ既読がついた。彼女は大抵、話が済んだらスタンプを送ってきてそれに既読をつけて会話が終わる。それが典型的だった。しかし、今回は既読をつけただけで終わった。せめてスタンプ、もしくは「まってるよ」なんてことだっていうかもしれない。それなのにも関わらずただ既読をつけただけでこの会話が終了した。僕は考えた末、思ったことがあった。もしかしたら、すごい曖昧な文を送ってしまったのかもしれない。「じゃあ、行こう」これは、誘い文句になってしまっていたのかもしれない。決してそんなつもりはなかった。僕と彼女との関係はただの友達か、友達ではないそこらへんの微妙な関係性。ただ一年生のときに席が近くてよく話し、僕が課題などの学校のことについて気になることがあったら彼女に聞いて教えてもらう。そんな関係だった。それなのにも関わらず、僕は彼女を誘ってしまっていたのかもしれない。もしかしたら僕は、してはいけないことをしてしまったのだろうか。到底僕に誘うなんて気持ちはない。誘ったところで一緒にお祭りに行ってくれるわけがない。その人には、同郷の仲のいい友達が大勢いる。その友達を蹴って最後の夏の祭りをなんだかよくわからない関係の男子と一緒に行くわけがないのだ。それは、分かりきっていることなのに、少し期待している自分がいた。一緒にお祭りに行けたら、それほど幸せなことはない。なんなら彼女と一緒に行けたら、僕は勢いで彼女に告白をしてしまうかもしれない。それは、危険だ。自分の残り約半年の高校生活をどん底に落とすに違いない。少しの期待を持ちながら、僕はじっとスマホを見ていた。
そのあとすぐに衝撃的なことが起こった。その人から突然メッセージが来た。
「今、時間ある?」
僕は、その通知を見た瞬間驚きすぎて、なかなかアプリを開くことができなかった。ある程度の心構えをしてから、返信した。
「時間はいっぱいある」「どうかした?」
どのように返せばいいのかわからず、なんだか訳わからない返信をしてしまった。自分のスマホの画面を見ながら僕は、自問自答していた。そしてすぐ、既読がついてそれと同時に電話がかかってきた。よくアニメなどで好きな人から電話がかかってきてスマホを落とすシーンなどがあったが、そんなことある訳ない。なぜ落とすのか?そんなことばかり思っていたが、自分も気づかずうちに全く同じ行為をしていた。すかさずスマホを拾い、着信を受け入れて電話に出た。
「いきなりごめんね。」
まず相手は謝ってきた。人はよく、会話を始める決まり文句のように謝る。僕はそんなこと思いながら、
「全然大丈夫だよ!」「ちょっとびっくりした」
笑いながらそう言った。その後、5秒ほど沈黙が続いた。その5秒ほどの少ない時間はとても長く感じた。僕の好きな場所にいるときに5秒数えるととても早く感じるかもしれない。しかし、その時の5秒は1分ぐらいの長さに感じるほど長かった。それは、相手も同じだったと思う。僕は、なんとなくなぜ電話してきたのか分かってはいた。互いに互いの気持ちを探りながら、相手がその沈黙を破るように話してきた。
「三田の祭りはね、すごい楽しいんだよ。わたあめ屋さんとか、くじ屋さん、焼きそば屋さんとかたくさん屋台があってね結構大きくて賑やかで楽しいんだよ。」
落ち着きがなかった。まるで、先生に怒られていて今にも泣きそうだがそれを堪えて早口で言い訳をしている小学校低学年のようだった。
「そうなんだ。めっちゃ楽しみになってきた。」
なんと言えばいいのかわからず咄嗟に答えた。お祭りと行っているのに、屋台がなく賑やかでないものがあるだろうか。そんなことを考えていたら、相手は言った。
「だからね、一緒に行きたい気持ちはあるんだけど。やっぱり最後のお祭りかもしれないし、昔からの友達と一緒に回りたいの。だからごめんね。」
僕は驚いた。自分の考えが的中したのだ。曖昧な、表現を使い、言葉だけで相手に気持ちを伝えるということは実に難しいことなのだと改めて思った。でも、「一緒に行きたい気持ちはある」これはどういう意味なのだろうか。僕と一緒に行ってもいいということなのか、それかただ相手を傷つけないための優しい断り方なのかよくわからなかった。それでも、確かなことはあった。この人は勘違いしていたということだ。僕は、ただこの祭りに他の誰かと一緒に行こうとしていたが、この人は、僕が彼女と一緒に行きたくて誘っているそう思っていたのだ。焦った。だからこそ、素早く答えた。
「ごめん、曖昧なこと言ったかも。誘ったわけじゃないから、謝らないで。あれはただ、僕が祭りに行くことにしたっていう報告?みたいなものだから。」
相手を傷つけないように言ったつもりだったがどうだろうか。自分だったら自分がそんな恥ずかしい間違いをしてたら、顔向けできるだろうか。彼女は言った。
「なんだ、そうなのね。変に考え込んじゃったじゃん!間際らしいな?」
よかった多分彼女は怒っていない。そう安心していると、それに続けて言った。
「それは、私と祭りに行く気はないってことでいいのかな?」
そんなこと聞かれるなんて、思ってもいなかった。ここはどういうべきなのか考えた末に僕は言った。
「キミと一緒にお祭り行くの楽しそう。いつも話してて楽しいから。」
これは完璧だと思った。一緒に行きたいという意思と同時にそれは、恋愛感情からではなくいつもの関係としてのつもりで言えたからだ。この返答は完璧だ。相手はこう返してきた。
「私もね、一緒にお祭り行きたい!今回行けなかったから、稲荷祭り一緒に行かない?」
僕は嬉しいあまりに昇天しかけていた。愛しい人と地元で一番大きいお祭りに一緒に行けるのだから。しかし、僕は少し大人らしく冷静に、
「うん。行こう。すごい楽しみ。」
ただこの言葉だけを言った。するとすぐに返ってきた。
「君はさ、わたしのこのことどう思っているの?ノリで今言っちゃうけどさ、わたしは君が好きだよ。人としてとか、友達としてとかじゃなくて、男の子として。ここ最近一緒にいることが多かったけど、やっぱり前から思ってた気持ちが間違ってたわけじゃないって思ったの。だから今言う。わたしは君が好き。だから、祭りだけじゃなくて、他のところにも行ってみたい。」
突然すぎて、驚いて言葉が出なかった。一体この1週間で何があったというのか。人生は今にも壊れそうな吊り橋を渡る感覚のように僕は思っていなかった。僕はよくその吊り橋から落ちてしまっていた。だから、僕はこれからの人生吊り橋から落ち続けるものだと思っていたが、この日初めて吊り橋を渡りきったように思えた。
「僕は、キミのことが好きなのかがわからない。でも、一緒にいたら楽しいし、ずっと一緒にいたいと思ってた。これからキミが隣にいてくれたらどんなに楽しいんだろうって、考えてた。」
そう言った。僕には、友達や大人のいう「好き」というものがわからなかった。でも、一緒にいたいとかそういう気持ちはあった。思ったことをそのまま伝えた。
「君はさ、多分わからないと思うよ。なんでもかんでも難し考えすぎちゃうんだよ。でもね、それが好きってことでいいんだよ。君は私のことが好きなの。私たちは相思相愛なんだよ。」
衝撃だった。こう言うことは言わないタイプだと思っていた。
「私は、君と付き合ってみたいな。いい?」
「付き合う」このことも、僕はよくわからなかった。それは一体なんなのか。互いに好き同士が自分たちの気持ちを理解して、一緒にいるそれが「付き合う」なのか。彼氏と彼女の関係性を作ることを「付き合う」というのか。あこさんが、僕の彼女になるのは、嬉しい。しかし、僕がアコさんを好きなのかと聞かれたらそうだとは言えない。だからこそ言った。
「付き合うとかはちょっと待ってほしい。面倒かもだけど、僕はキミを僕の彼女にしたい。だけど、キミが好きってわけじゃないんだ。好きがわからないから。好きがわかるようになったら、僕から告白してもてもいいかな?」
すぐに彼女は答えた。
「うん!待ってる。私を好きになる日を」
「ありがとう…」
そう僕はいって、自分から電話を切った。なんともいえない気持ちになった。これが、僕の望んでいたことなのか。考えるのが嫌になってきてしまった。僕はすぐに布団に入り、バクバクする心臓を抑えるように目を閉じその夜を終わらせた。